2008年8月号
特集  - 食料供給と技術
飼料用稲による食料自給率向上の試み

佐藤 宏之 Profile
(さとう・ひろゆき)

農林水産省 農林水産技術会議
事務局 技術政策課 研究調査官


家畜のエサである飼料として利用される稲が注目されている。現在、13品種育成され、全国で栽培が可能になった。食料自給率向上に寄与することが期待されている。

水田地帯の一角に周りの稲より背が高く、たくさん実がついた稲が植わっている。これがわが国の食料自給率向上に寄与する「飼料用稲」である(写真1)。

わが国の食料自給率と飼料用稲
 飼料イネ「リーフスター」の草姿

写真1 飼料イネ「リーフスター」の草姿中央の
     背の高い稲が「リーフスター」

わが国の食料自給率は低下の一途をたどり、カロリーベースで39%(平成18年度)であり、先進国の中で最も低い。特に家畜のエサである飼料の自給率は25% と低い。また近年、輸入飼料の価格が高騰していることもあり、食料安全保障の観点からも国産飼料の増産が望まれている。中でも、水田で栽培する飼料用稲は、生産調整(減反)で余った水田を有効活用できるため注目されている。

飼料用稲とは何か?

飼料用稲は用途に応じて、[1]収穫した米を鶏や豚に与える「飼料米用」と、[2]茎葉を含めた株全体を収穫後、サイレージに加工して牛に与える「稲発酵粗飼料:ホールクロップサイレージ(WCS)用」に大別できる。WCS 用の飼料用稲は特に「飼料イネ」と呼ばれる。本稿では、飼料イネについて解説する。

WCSの調製と給与

出穂30 日後ごろの黄熟期に、飼料イネの株全体を刈り取り、ロール状に巻く(写真2-A)。ロールに乳酸菌を添加し、ビニールでラッピング(密封)後(写真2-B)、発酵させる(写真2-C)。乳酸発酵してできた飼料をWCS と総称する。WCS は、牛の嗜好(しこう)性が高く(写真2-D)、輸入牧草のチモシー並の栄養価がある。

ロールの作成

A:ロールの作成


ラッピング

B:ラッピング


発酵中

C:発酵中のロール

WCSの給与

D:牛へのWCS の給与



写真2 WCS の調製と給与

官学共同育成の飼料イネ品種「リーフスター」
「リーフスター」と「日本晴」のバイオマス収量の比較

図1 「リーフスター」と「日本晴」のバイオマス収
     量の比較(平成11 ~16 年の平均値)
     (データ提供:作物研究所、加藤浩上席研究員)



 「リーフスター」と「日本晴」のバイオマス倒伏程度の比較

図2 「リーフスター」と「日本晴」の倒伏程度の
     比較(平成11 ~16 年の平均値)
     (データ提供:作物研究所、加藤浩上席研究員)



全国で栽培される飼料イネ品種

図3 全国で栽培される飼料イネ品種

飼料イネは収穫前に倒れて土が付いてしまうとWCS の品質が低下し、牛があまり食べなくなるため、倒れにくい性質(耐倒伏性)が必要である。また、安価な輸入飼料に対抗するためには、生産コスト低減のため、茎葉を含めた株全体の収量性が高い(高バイオマス生産性)ことが必要である。東京農工大学の大川泰一郎准教授は、耐倒伏性と高バイオマス生産性をテーマとした研究で、作物学会奨励賞を受賞した。研究を行う過程で、長稈(ちょうかん)品種「コシヒカリ」と強稈系統「中国117 号」の交配を行い、強稈性にかかわる形質の高精度な評価法をもとに、両親の長所を併せ持つ"長・強稈性" の個体を3個体選抜することに成功した。その後、これらのうち2個体の種子は、独立行政法人農業・食品産業技術総合研究機構(以下、農研機構)の坂井真上席研究員に移譲され、実用品種育成に向けた収量性、耐病虫性および地域適応性等の多岐にわたる試験項目をパスした1系統が、飼料イネとしての優秀性が認められたため、平成17 年に「リーフスター」と命名され、東京農工大学と農研機構の共同育成品種「水稲農林413 号」として登録された。飼料イネ「リーフスター」は、一般食用品種「日本晴」と比べて、[1]バイオマス収量が15% 高い(図1)、[2]倒伏程度が小さい(図2)。なお、リーフスターの栽培適地は関東以西である(図3)。

飼料イネの普及状況

平成20 年6 月現在、飼料イネは民間育成品種も含めて13 品種育成され(出願公表中のものを含む)、日本全国で栽培可能となった(図3)。平成18 年度の飼料イネの栽培面積は6,000ha であり、今後も拡大方向にある。読者も身近に飼料イネを目にする機会が増えてくるものと思われる。

おわりに

飼料用稲は、自給率向上の切り札として、今後ますます普及・利用が期待されている。今年度から開始される農林水産省の委託プロジェクト「新農業展開ゲノムプロジェクト」では、ゲノム情報を活用したDNA マーカー育種技術等を積極的に導入することで、5年後を目標に、さらなる「多収性」を備えた飼料用稲の開発を行う予定である。