2008年8月号
特集  - 食料供給と技術
大豆の生産・安定供給について
顔写真

島田 信二 Profile
(しまだ・しんじ)

独立行政法人 農業・食品産業技
術総合研究機構 中央農業総合研
究センター 大豆生産安定研究
チーム長

独立行政法人農業・食品産業技術総合研究機構では、国産大豆の生産性を大きく阻害している栽培ほ場の水分ストレスを緩和する新技術を開発した。排水促進のために畝立てをしながら播種する新播種技術、および灌排水能力を飛躍的に高めた地下水位制御システムである。いずれも急速に普及しつつあり、大豆安定生産への貢献が期待される。

国産大豆の課題-安定供給へ

豆腐、煮豆、納豆、みそなどの大豆製品は日本の食生活に欠かせない食品であり、これらの製造に適した国産大豆は根強い需要がある。国内の大豆生産は近年の天候不順により、しばしば不作に見舞われて価格の高騰を招いており、国産大豆の安定した供給が多方面から強く求められている。

日本の大豆生産は、その約8 割が水田を一時的に畑地化(水田輪換畑)した場所で作付けされている。このような場所は、本来、水田として水を蓄える機能を持っているので、降雨があると一時的に滞水しやすく、畑作物の大豆では湿害や土壌伝染性病害が発生しやすい。

国内の大豆の生産性は梅雨のない北海道が最も高く、梅雨がある本州以南ではやや低いが、これは湿潤な土壌条件により上記の障害が発生しやすいうえに、しばしば梅雨の長雨によるまき遅れ等が生じ、大豆の生産を不安定なものにしているためだ。

近年、このような水田輪換畑での障害を克服する新たな技術が独立行政法人農業・食品産業技術総合研究機構において開発されてきており、今後の大豆の安定生産への貢献が期待されている。

耕うん同時畝立て施肥播種技術
 耕うん同時畝立て施肥播種機

写真1 耕うん同時畝立て施肥播種機

同機構中央農業総合研究センター北陸センターでは、北陸地域の極めて粘土含量が多く(「重粘」という)排水性が悪い水田輪換畑において、高位安定生産を可能とする「耕うん同時畝立て施肥播種技術」を開発した**1写真1)。

この技術は種をまく際に排水のための畝立てを行いながら、耕うん、施肥を同時に行う播種技術である。耕耘機のタイヤの回転とは逆方向に回る「逆転ロータリー」を用いて畝立てを行っており、種子が落とされる部分の土壌が細かくなるので、粘土分が多い土壌でも良好な出芽が得られるのが特長である。

東北から九州北部までの多くの地域において実証試験が行われ、排水不良な粘土の多いほ場を中心に出芽苗立ちの安定化と安定多収化に大きな効果が認められている。この播種機は農機具メーカーから市販され急速に普及しつつあり、すでに1,500ha 程度の面積で利用され、排水不良な水田輪換畑での大豆生産の安定化に貢献しつつある。

新規地下水位制御システム(FOEAS)

大豆の安定生産には降雨後に土壌表層の余剰水を速やかに排水することが大切であるが、他方、水田で多く見られる粘質な土壌では根の成長が悪いために盛夏にはしばしば干ばつにも見舞われる。

この干ばつは減収の原因となるだけでなく、子実が熟しても茎葉は青々してコンバイン収穫が困難となる「青立ち」の原因となっており、気候が温暖化する中で大豆生産を不安定化させる大きな原因となっている。

 FOEAS の概略図

図1 FOEAS の概略図

この課題解決の有効な手段として、独立行政法人農村工学研究所と株式会社パディ研究所は、より優れた排水機能と灌水機能を併せ持った地下水位制御システムFOEAS(図1)を開発**2 した。従来の本暗渠(一般的なほ場排水施設のこと、「ほんあんきょ」と読む)とほぼ同額で施工可能で、平成18 年度民間部門農林水産研究開発功績者表彰(農林水産省、社団法人農林水産技術情報協会共催)で農林水産大臣賞を受賞するとともに、農業新技術2008*1 に選定された。

中央農業総合研究センターでは大豆生産に対するFOEAS の効果を解析し、出芽苗立ちの向上を確認するとともに、窒素成分の少ない重粘土ほ場においても大豆根粒の窒素固定能力が大きく向上して、2~ 4 割の増収効果が得られることを明らかにした**3。FOEAS ほ場では降雨後に速やかに余剰水が排水されるので、梅雨期間においても機械作業が容易となり播種適期を逃すことも少なく、大豆の高位安定生産に寄与できる。

FOEAS はすでに2,000ha の面積で施工され、今後も急速な面積の拡大が予定されている。水稲直播栽培への応用のほか、水田輪換における他の畑作物(麦類、飼料作物など)への効果も期待されており、従来、畑作物の栽培が困難であった排水不良な水田において、これら作物の省力化と安定生産をもたらす技術として期待される。

●参考文献

**1 :細川寿.排水不良地域における耕うん同時畝立て播種技術.農林水産技術研究ジャーナル.Vol.29, No.12, 2006, p.20-24.

**2 :藤森新作.転換作物の安定多収をめざす地下水位調節システム 水田リフォーム技術の開発.農業および園芸.Vol.82, No.5, 2007, p.570-576.

**3 :島田信二;松浦和哉;金榮厚;藤森新作;若杉晃介;金谷豊;国立卓生;田澤純子.低肥沃度水田輪換畑圃場におけるFOEASの地下水位制御がダイズの光合成、窒素固定、収量に及ぼす影響.日本作物学会紀事.Vol.76, No.別1, 2007, p.282-283.

*1
農水省は、独法などによる農業技術に関する近年の研究成果のうち、早急に現場への普及を推進する重要なものを選定している。本技術は2008年に選定された5つのうちの1つ。