2008年8月号
単発記事
中国における商標登録の現状

河野 円洋 Profile
(かわの・みつひろ)

独立行政法人日本貿易振興機構
(ジェトロ)
在外企業支援・知的財産部
知的財産課

海外で知的財産権侵害の被害を受けた日系企業を対象とした特許庁の調査によると、中国での被害が70%にも達する。その半数以上が商標権侵害によるものである。また、日本の地名、企業名、商品名が、同国で第三者によって商標出願・登録されてしまうケースも報告されている。まず、同国の商標権の仕組みを知らなければならないが、そのうえで、日本企業、自治体、団体はどのような対策を取るべきか。

はじめに

特許庁が海外で知的財産権侵害を受けている日系企業へ実施したアンケートによると、約70%の企業が中国で何らかの被害に遭っている。またその被害のうち、最も多い51.6%が商標権侵害によるものである**1。加えて、日本の地名や企業名、商品名が中国で第三者によって商標出願・登録されてしまうという、いわゆる「抜け駆け出願」問題も存在しており、中国での商標権の仕組みを知り、その対策を立てることは現地で事業を行う上で避けては通れないものとなっている。

本稿では、中国での商標登録の現状を紹介し、日本企業、自治体、団体がどのように対策を取るべきかを述べる。

中国における商標登録の現状

中国における商標登録の現状について、まずは商標の登録方法から見てみる。中国において商標登録と商標管理に関する業務は、国家工商行政管理総局(以下、国家工商総局)*1 に設けられた商標局が行っている。商標局はおおむね日本の特許庁に相当するが、大きく異なるのは国家工商総局が、権利侵害に対する摘発権限を持っていることである*2

中国国内での商標の出願・登録には、商標局に直接出願する方法(国外から直接出願する場合には中国人の代理人による出願が必要)、パリ条約に基づく方法、マドリッド・プロトコル(以下マドプロと称す)を利用する方法がある。

中国と日本の商標出願件数比較

図1 中国と日本の商標出願件数比較

中国での商標出願数は2005 年度には約66 万4,000 件となっている(図1)。国内での出願が約60 万件弱。残りが海外からの出願(マドプロ経由を含む)であり**2、出願数は世界最多である。このため、商標局の審査人員数の絶対数が不足している等の問題などから審査が追いつかず、現在では出願から登録まで約3 年かかるとのことである(図2)。商標出願を行うにあたり既に出願・登録されているものを調査する場合には、公告*3されたものを商標公報もしくはインターネット上のウェブサイト「中国商標網」から見ることができる*4

出願費用は10 指定商品まで1,000 人民元(日本円で約1万5,000 円)、10 を超えると1 商品あたり100 人民元(日本円で約1,500 円)の追加となる。登録後10 年で更新が必要となり、2,000 人民元(日本円で約3 万円)の費用がかかる。海外から直接出願する場合はこれに加えて代理人費用が必要になる。

中国での商標出願手続きフローチャート

図2 中国での商標出願手続きフローチャート

中国での商標権に関して、現在大きな問題となっているのが日本の地名・商品名などを中国国内の企業・個人といった第三者が先に商標出願をしてしまう、抜け駆け出願問題である。具体的なブランド名では「こしひかり」の漢字・ローマ字表記である「越光:KOSHIHIKARI」が中国の第三者によって先に商標登録されてしまい、日本産のこしひかりを中国に輸出する際に使用できなくなっているという事例がある。このような状況に対して、日本の企業、自治体、団体などは中国で事業を行う際に商標権についてどのような対応を取るべきであろうか。

日本企業、自治体、団体の取るべき対応

日本側が取るべき対応として最も有効なものは、できるだけ早期に商標の出願を行うことである。中国は日本と同じく、先になされた出願を優先して登録する「先願主義」を採用している。そのため相手より1 日でも早く出願することが、商標の不正な出願に対する最も有効な対処法となる。逆に、いくら自分たちが独自に考え、先に使用していたとしても、第三者の登録した商標を使い続ければこちらが相手方の権利を侵害しているとして責任を追及される恐れがある。その場合は商品の没収、罰金の課金といった行政罰から、民事訴訟による損害賠償、最悪の場合には刑事訴訟による懲役刑などが課されることとなる。

では、既に中国国内で商標を第三者に出願・登録されてしまった場合はどのような対応をとることができるのだろうか。それぞれの場合について見てみる。

まずは、既に商標出願されてしまった場合の対応である。この場合には異議申立を行い商標出願を却下するよう申請をすることができる。最近では青森県が異議申立を行い、異議決定の結果第三者による出願が却下されている*5。しかし、異議申し立てをした側は、[1]その商標が権利登録はされていなくても自分たちの事業活動・宣伝活動の結果、もしくは地名として既に中国国内で著名であること、あるいは[2]相手が転売目的など悪意によって商標登録を行ったこと、を立証しなければならない。しかも、異議申立ができるのは公告から3 カ月以内である。また、異議申立が受理され最終的な裁定が下るまで、青森県の例では約5 年の時間を要したように、長い時間を要する。

次に、既に商標登録されてしまった場合である。この場合には登録された商標に対して無効審判を請求する必要がある。また、権利者が商標を3年間使用していない場合、登録の取り消しを請求することができる。

ただし、既に商標出願または登録されてしまった場合、最終的な裁定が下るまで、長い時間と多額の費用を要するだけでなく、青森の事例のようにうまくいくとは限らない。そのため、やはり、できるだけ早期に商標の出願を行うことが重要である。

おわりに

中国で製造・販売などの事業を展開していないからといって、中国での商標権問題に無関係でいられるとは限らない。

なぜならば中国以外の国での展示会に出品した製品や、中国以外で販売・製造している製品の模倣品が中国国内で製造され、第三国へ輸出されているという現状があるからだ。

ゆえに、直接中国で製造・販売などを行っていなくても可能ならば商標権を取得しておいたほうが良い。そうすれば万が一中国国内で模倣品の販売・製造などを行う業者が現れたとしても、取得した権利を元に摘発や訴訟を行うことができる。

●参考文献

**1 :特許庁.“2007年度模倣被害調査報告”.
(オンライン)入手先<http://www.jpo.go.jp/torikumi/mohouhin/
mohouhin2/jittai/jittai.htm
>,(参照2007-7-1).

**2テキスト
(オンライン)入手先<http://www.saic.gov.cn/zwxxq/zwgk/tjzl/
t20071030_24331.htm>,(参照2007-7-1).

*1
市場監督管理と関連の行政法執行業務を主管する国務院の直属機関。

*2
国家工商総局は模倣品販売業者や製造業者に対して、製品の没収や罰金刑を課すなどの行政取り締まりを行う権限を持っている。

*3
商標法等の規程を満たしたものを、公衆に異議申し立ての機会を与えるため、商標公報に掲載すること。

*4
http://sbj.saic.gov.cn/。商標公報とは違い、あくまで参考のためであり掲載情報に法律的効力はない。

*5
しかしその後「青淼(水が3つ)」という「青森」に見た目が類似した文字を使った商標で、再度出願がなされている(出願者は別企業)。