2008年8月号
イベント・レポート
研究・技術計画学会 第23回シンポジウム イノベーションとアントレプレナーシップ
-大企業とベンチャーのWin-Win連携に向けて-

研究・技術計画学会の第23 回シンポジウムが、7 月15 日(火)東京・六本木の政策研究大学院大学想海楼ホールで約80人の出席者を迎えて行われた。今回のテーマは「イノベーションとアントレプレナーシップ」で、大企業とベンチャー企業のWin-Win 連携に焦点をあてた講演や事例報告、パネル討議がなされた。

冒頭の挨拶で児玉文雄研究・技術計画学会長は、大企業の安定志向を打ち破るためにも、日本産業の活力ある動きを取り戻すためにも、イノベーションにおける企業家精神の必要性やベンチャー企業の大切さを強調し、今回のテーマの重要性を確認した。

基調講演では水野博之元松下電器産業副社長・元スタンフォード大学顧問教授が「イノベーションにおけるアントレプレナーシップの役割」のテーマで、新しいビジネスを生み出す構想力とそれを断固としてやり抜く力が必要であると強調された。生駒俊明科学技術振興機構研究開発戦略センター長・東京大学名誉教授は「イノベーションを起こす力」で、いかにして現在の日本でイノベーションを起こしうるかをイノベーション・エコシステムの概念を挙げながら講演された。

近藤道雄産業技術総合研究所太陽光発電研究センター長は「太陽電池産業における最近の情勢と日本」で、日本の大企業と世界のベンチャー企業が競い合う太陽電池産業で日本の垂直分業とドイツの水平分業の産業の構造の違いを指摘し、どちらが有利か?競争力を高めながら協調できるスキームは?と意義深い問題提起がなされた。

諏訪暁彦ナインシグマ・ジャパン社長が「オープン・イノベーション戦略」、永野博政策研究大学院大学教授が「イスラエルにおけるイノベーションとアントレプレナーシップ」を講演され、事例講演として鳥谷浩志ラティス・テクノロジー社長、土居勝利テックゲートインベストメント社長、板谷敏正プロパティデータバンク社長が、それぞれトヨタ、ソニー、清水建設という大企業とベンチャー企業のWin-Win 連携を具体的に講演された。日本では珍しい大企業によるベンチャー活用事例は参加者の興味を強くひき、大企業を引き寄せたベンチャー企業創業者のイノベーション創出に向けた強い意志と高い想いが会場いっぱいに広がった。

これらの講演や事例報告を受け、パネルディスカッションでは中馬宏之一橋大学イノベーション研究センター教授、山田肇東洋大学経済学部教授、西本淳也経済産業省大臣官房審議官・産業技術担当、木嶋豊テクノロジー・アライアンス・インベストメント常務執行役員が、モデレーター前田昇青山学院大学大学院教授の進行で白熱した討議を行った。

研究・技術計画学会としても今後、イノベーションの核として、従来の「研究・技術」分野に加えて「計画」(マネジメント)分野であるビジネスモデルや構想力、ビジネスの立ち位置等について新たな視点を持った研究が必要であるとの認識で、下記開催趣旨をカバーして幕を閉じた。


開催趣旨:ドラッカー教授が1985 年の著書「イノベーションと企業家精神」で企業におけるイノベーション遂行にアントレプレナーシップの重要性を世に問うて、はや23 年がたつ。その間クリステンセン教授が1997 年の著書「イノベーションのジレンマ」で大企業における破壊的イノベーション創出の困難さ、ベンチャー企業の有効性を世に問いかけた。

ビジネスウィーク誌の2006 年4 月24 日号の「世界で最もイノベーティブな企業」ランキングではトップ25 社中、米国企業が16 社で、そのうち9社は1970 年以降の新興企業であった。日本はトヨタ、ソニー、ホンダの3社が25 社の中に選ばれたが新興企業は0社であった。

日本におけるMOT 元年といわれる2003 年の経済産業省主催MOT ワークショップにおいて、マサチューセッツ工科大学のウエーバー教授は、MOT の戦略的焦点は10 年ごとに変化しており21 世紀の最初の10 年のMOT 戦略焦点はコーポレート・ベンチャリングであると説き、技術のシステム化が起きているこの時代には、技術連携やM&A 等での大企業によるベンチャー企業の活用がMOT の最先端戦略領域であると主張した。

グローバル企業であるP&G では、2000 年の業績大不振時に就任したラフリーCEO が、技術や人事領域で従来のクローズドモデルからオープンモデルに大転換を行い、従来の伝統的な社内研究開発重視、自力成長重視、生え抜き重視から、世界中のベンチャー企業を含む外部技術活用への転換で変革に成功した事例が報告されている。P&G のクロイドCTO は「社外には世界で150 万人の科学者がいる。彼らの起業家精神をわが社の力にできることに気付いた」と述べている。

最近では、日本が産官学連携で数十年かけて世界の最先端技術を開発した太陽電池産業において、中国やドイツの新興ベンチャーが新しいビジネスモデルや政策で日本の牙城を揺るがし始めている。

以上の事柄を考慮し、イノベーションの重要性が叫ばれているわが国において、起業家精神に焦点を当ててイノベーションを考察することにより、この分野において新たな学問的知見を生み出す場として本シンポジウムを開催したい。

大企業がベンチャー企業をどう活用し起業家精神を取り込めるのか、また逆にベンチャー企業が大企業との連携でどのように発展していけるのか、お互いのWin-Win をどう実現できうるのか、最近の事例をベースに討議しコーポレート・ベンチャリング分野における学問的な研究の礎石づくりと今後の広がりを期待したい。

(前田 昇:研究・技術計画学会 第23 回シンポジウム実行委員長)

研究・技術計画学会 第23回シンポジウム
「イノベーションとアントレプレナーシップ
-大学とベンチャーのWin-Win連携に向けて-」
開催日:2008年7月15日(火)
会 場:政策研究大学院大学 1階 想海楼ホール
(東京都・港区)