2008年9月号
連載1
ビジネスゲーム開発による起業教育(上)
東北大学BASEプロジェクトの挑戦
顔写真

浜田 良樹 Profile
(はまだ・よしき)

東北大学大学院 情報科学研究科
講師


学生にバーチャルな会社を経営するゲームを行わせ、そのルールを通じて経営と会計のセンスを身に付けさせる―。東北大学大学院情報科学研究科の浜田良樹講師の研究室はビジネスゲームを使った起業教育プログラムを実施している。東北大学生活協同組合に事業として取り組んでもらい、地域の企業、団体、行政が支援する。大学からの補助金はなし。このユニークな起業教育の仕組みは?

日本一の起業教育を目指して

筆者の研究室(浜田研)では、ビジネスゲームを使った起業教育プロジェクトを手掛けている。目標は、「日本一の起業教育の教材を開発し、日本一の起業教育のノウハウを持った集団になること」である。

コンセプト

浜田研が手掛けているのは、「起業教育」である。立ち位置としては「キャリアデザイン教育」に近い。

アントレプレナーシップは、「普通の就職をする」学生にこそ重要だと考えている。就職先が産官学いずれの分野であれ、お金の話は避けて通れない。アントレプレナーシップは、プロジェクトの立ち上げ、企業内起業、出向など、ある日突然に必要となる。しかるに、従来の起業「家」教育は、大学発ベンチャーを目指す学生を想定し、しばしば大学院並みの学習を求めた。もう少し割り切ってダウンサイジングすれば、学生のニーズは大きいのではないか。

BASEプロジェクト

このような問題意識から、2004年12月にBASE(Business and Accounting Schoolfor Entrepreneurs)プロジェクトという起業教育プログラムを立ち上げた。特徴を 図1に示す。

ビジネスゲームを使う
BASEプロジェクトの特徴とその効果

図1 BASEプロジェクトの特徴とその効果

BASE では、参加者にバーチャルな会社を経営するゲームを行わせ、ゲームのルールを通じて経営と会計のセンスを身に付けさせる。ゲームの進捗状況に応じた講義を織り交ぜる。

ビジネスゲームは、プレイヤー各自に資本金を与えて会社を創業させ、市場から材料を調達して製品を完成させ、プレイヤー同士の入札で販売し、一連のプロセスを記帳して財務諸表を作るという「工場経営ゲーム」である。2007 年秋からは、医学部・歯学部の学生のリクエストに応え、オリジナルの「病院経営ゲーム」を追加した。併せて2008 年秋からは、「工場経営ゲーム」もオリジナルに移行する。現在、最終の開発を行っている。

温泉で合宿する(BASE CAMP)

BASEが提唱する「普通の学生のためのアントレプレナーシップ」は、企業社会にデビューする前の学生には理解しにくい。それでもあえて時間を取るのだから、最小限の長さの拘束にとどめたい。短い時間だから、雑音を排除して集中させたい。このため、仙台から車で1時間半ほどの山形蔵王温泉に出向き、2泊3日の合宿で学生を缶詰めにすることにしている。

インストラクターをスカウトする

合宿のあと、ビジネスゲームの面白さに魅了され、もっとやってみたいという学生が一定割合で現れる。そういう学生をインストラクターとして登用し、OJTで鍛える。大学は長くても6年以内にすべての人間が入れ替わってしまうところだ。事業を持続する上で、ノウハウの世代間継承は極めて重要である。彼らには「去年と同じことをやっても意味がない、イノベーションの担い手は自分たちだ」という意識を徹底させている。だから、短期間のうちに驚くほどの急成長を遂げる。

広範な産学連携体制を構築する
BASEプロジェクトのスキーム

図2 BASEプロジェクトのスキーム

BASE は大学公認の組織にはしていない。できるだけ多くの部局の学生に門戸を開きたいから、あえて特定の部局に付けないのだ。事業主体は東北大学生活協同組合(生協)である。にわかには信じられないだろうが、大学生協もまた、オーソドックスなビジネスモデルの転換期にある。新しいサービスとして教育事業の立ち上げが必要だと熱心に語る職員がいて、筆者はその意欲に打たれたのだ。

実践的なビジネスの講義をしたいが、大学生協にはそのノウハウがない。そこで、筆者は地域に向けて「ともに地域の未来を背負う人材づくりを」と言って協力を要請し続けてきた。その結果、地域のいろいろなセクターが資材、人材、テキストなどを持ち寄り、超党派で応援してくれるようになった。特徴を 図2に示す

プロジェクト自体を事業化する

BASE は大学からいかなる補助金も受け取っていない。補助金に合わせるためにポリシーの変更をするのは本末転倒だし、補助金に依存した財務体質をつくっては長続きしないからだ。

また、BASE は東北大学生協の事業だが、企業内プロジェクトとして独立採算を取っている。予算が足りない分はインストラクターが関連事業を提案して賄う。例えば、BASE のPR 媒体の空き枠を利用し、イベント会社などに広告の出稿を勧誘するなどだ。まさに究極のOJT である。常に新しいゲーム・カリキュラム開発をしているので資金繰りは常に苦しい。しかし2007 年、ついに単独で黒字化を果たした。

今後の目標

このような活動を通じ、BASEは日本一の起業教育教材とノウハウを持った集団になろうとしている。今後は東北大学以外の大学、病院、自治体などの研修ニーズに応えたい。農業経営ゲーム、MOTゲームなどゲームのバリエーションも増やしていきたい。その過程で、BASEはアントレプレナーシップに満ちた優秀な人材を輩出する。今後もプロジェクトを持続させ、1人でも多くの学生を育てていきたい。