2008年9月号
特集  - ベンチャーの法則
株式会社積層金型 新手法の樹脂用金型メーカー
自在の冷却水路で成形サイクルを短縮
積層金型という金型の新しい製造方法がある。文字通り金属の板を積み重ねる方法で、1980年代、東京大学生産技術研究所にいた中川威雄教授らが提案した。この事業化を目指した株式会社積層金型は試行錯誤の末、樹脂射出成形用の金型の開発に成功し、営業面でも軌道に乗りつつある。特徴は金型の中に張り巡らせた「冷却水路」である。

山崎 久男氏

   写真1
        株式会社積層金型
        代表取締役
        山崎 久男氏

1980年代、東京大学生産技術研究所の中川威雄教授(現在、東京大学名誉教授)と大学院生の国枝正典氏(現在、東京農工大学教授)が金型の新しい製造方法を提案した。積層金型――文字通り金属の板を積み重ねてつくる方法である。この新技術をそのまま社名にし、その事業化を目指したベンチャー企業が株式会社積層金型である。マツダ株式会社で30年間、自動車用部品の金型設計に携わっていた山崎久男氏(写真1)が2001年4月に設立した。

同社は試行錯誤の末、合成樹脂射出成形(自動車、電気機器の高機能部品など)用の積層金型開発に成功し、営業面でも展望が開けつつある。この工法による金型の最大の特徴は、金型の内部につくる「冷却水路」の設計自由度が高いことである。あらかじめ水路などの加工を施した板材を積み重ねて(結合させて)製作するので、成形品の形状に沿った理想的な水路になる。

金型は熱交換器

冷却水路には冷たい水を流す。なぜ水路が重要なのか。

樹脂射出成形の工程は射出→冷却→型開→突出→型閉である。180~450 度の熱を加えて液体状態にした樹脂を、圧力を加えて型に押し込んで充填(じゅうてん)する。それが40 度前後に冷却されて固まったら取り出す――これが1サイクルである。この冷却に必要なのが、金型の内部に張り巡らせた水路である。

樹脂成形用積層金型の狙い

図1 樹脂成形用積層金型の狙い

射出から型閉までの1サイクルで一番時間がかかるのが「冷却」で、その60~ 70%を占める。この冷却時間をいかに短くするかが生産性を上げ製造コストを下げるカギである。最近、高機能の樹脂成形品では、転写性をよくするため、射出前に蒸気で金型を温めておくケースが増えているという。そうなると、ますます冷却が重要になるわけである。

山崎社長は「樹脂成形金型は熱交換器である」という。金型を温めて、冷ます。これを何十秒かの間に行う。その成形サイクルの短縮化(「ハイサイクル化」という)ができて製造のスピードが上がれば、金型の価格が割高でも、成形業者にとってはメリットが大きいはず。ここが積層金型のセールスポイントである(図1)。

金属プレス用の金型を目指して会社設立

とはいえ同社は、開発が順調に展開したわけではなかった。会社設立時は金属プレス用の金型を安く製造するのが狙いだった。

「積層金型」との出会いは、山崎社長がマツダのグループ会社の社長だったときのこと。いまから15~ 16 年前のことである。鋼板の不良在庫を処分しなければならなくなり、その材料を再利用して、付加価値を付けられないかと考えていた。不況だったので、安く金型をつくりたいという思惑もあった。そんなとき、従来から知っていた中川氏の積層金型のことが頭に浮かび、開発を思いたった。

通常の金型は金属ブロックあるいは鋳物を切削加工してつくる。しかし、金属ブロックは切削に、また、鋳物は鋳型づくりにそれぞれ長時間を要した。積層金型の技術を使えば、いわば在庫品の鋼板を活用でき、かつ安く、早く金型ができるのではないか・・・そんなことを考えていた。

そして、山崎氏は定年退職。起業の構想を練って準備し、会社設立・・・。しかし、その間、金型を取り巻く環境が猛烈な勢いで変化していた。あまり削らなくても済む「切削レス」が積層金型の強みだが、NC(数値制御)工作機械で精密な切削が比較的容易にできるようになり、しかもこうした金型の製造が中国へ移っていった。

当初、想定していたマーケットの思わぬ異変。走り始めたばかりの同社は経営戦略の練り直しを余儀なくされた。

当初の金属プレス用から樹脂成形用にターゲットを変え、新たな開発に乗り出した。その基本技術を確立したのは、採択されて取り組んだ科学技術振興機構(JST)の「委託開発」(2002 年2月~ 2004 年8月)だった。課題名は「ハイサイクル樹脂成形用積層金型」だ。


教訓1 環境の変化には、勇気を持って軌道修正せよ


拡散結合の活用を共同研究
金型の中につくった温度調節用の水路

図2 金型の中につくった温度調節用の水路



図2の金型でつくった成型品

写真2 図2の金型でつくった 成型品

「委託開発」はほぼ順調にいったものの、技術的課題が残っていた。積み重ねた金属の板を1つの固まりとして固定する方法である。接着剤を利用するなどさまざまな方法を試みたが、納得できなかった。それを解決するため2004年から国枝氏と共同研究を始めた。中川氏の研究室にいた国枝氏は、東京農工大学の教授になっていた。中国経済産業局の「地域新規産業創造技術開発」補助金など幾つかの資金を得た。そして、「拡散接合」という方法を利用すると、うまくできることがわかり、その技術も確立した(図2)(写真2

拡散接合とは次のようなものだ。金属の板と板を密着させ、それらの融点以下の温度条件で、塑性変形をできるだけ生じさせない程度に加圧すると、接合両面に原子の拡散が生じて接合するものである。これを専用の炉の中で行う。

拡散接合は精密機械、航空機などでよく使われる方法で、金型の世界とは無縁な技術だった。それを利用しようという発想が面白い。

もともと積層金型という発想自体が、従来の"削る" 方法から"積み上げる"方法への転換という突飛(とっぴ)なものだった。


教訓2 技術的課題解決には逆転の発想で臨め


系列の壁に食い込む

拡散接合による樹脂射出成形用積層金型の営業に本格的に乗り出してから約2年。鋳物を用いた従来タイプの金型や機械の受託生産も手掛けており、経営はそれらに大きく依存している。2008年3月期の売上高は約7,000 万円で前の年度とあまり変わらず、分野別の売上比率は鋳物の金型が60%、拡散接合による積層金型が30%、機械受注が10%だ。積層金型の比率は、前年度の15%から大きく伸びた。

自動車の場合、自動車メーカー―部品メーカー(樹脂成形など)―金型会社―材料商社という系列の壁もある。

樹脂成形に限らず、どの業界、企業ともコスト引き下げは絶対命令。「高機能の樹脂成形品を効率よく生産できる積層金型はコスト引き下げ効果が大きく、潜在ニーズはある。ビジネスがしやすくなった」と山崎社長は語る。昨年度は独立系の成形会社に食い込んだ。今年度は、部品メーカーと話をして、設計図に基づいて冷却水路を組み込んだ積層ブロックを金型会社に納入するケースが増えている(この場合、金型会社が金型に削る)という。

60 歳で会社を起こした山崎氏は現在67 歳。会社のナンバー2の専務取締役には息子の拓哉氏がいる。前に進むしかない。

(本誌編集長:登坂 和洋)

株式会社積層金型の概要
本社所在地:広島県呉市苗代町445-1
URL:http://www.sekisou.com/pc/
代表取締役:山崎 久男
設立:2001 年4 月  資本金:4,250 万円  従業員数:7人