2008年9月号
特集  - ベンチャーの法則
株式会社オプセル レンズ光軸合わせ「シュリンクフィッター」
大手企業の課題に技術を売る
顔写真

松尾 義之 Profile
(まつお・よしゆき)

株式会社白日社 編集長/
東京電力科学誌「イリューム」
編集長

株式会社オプセル(本社:さいたま市)は、光学の大手企業の技術的課題に応える光ビジネスのベンチャー企業である。複数個のレンズを組み合わせるとき、それらの光軸を合わせることが重要で、これに関する新田勇新潟大学教授の「シュリンクフィッター」という技術を生かすために事業化した。商品を売ること以上に、技術でニッチ市場を攻めるユニークなベンチャー企業経営とは?

JST プレベンチャー事業の一期生

カメラで日本メーカーが世界市場をほぼ100%独占しているように、光学分野における日本の技術力は極めて高い。コピー機やプリンターなどはもちろん、半導体製造用のステッパーなども日本のお家芸だ。光学顕微鏡も新たな進化を続け、共焦点顕微鏡などは、細胞を生きた状態で観察できるために、世界中の研究室で使われるようになった。

こうした光学機器でカギとなるのが、レンズ設計。さまざまなレンズを何個も組み合わせて、それぞれの用途に合った性能を引き出す設計技術だ。例えば共焦点顕微鏡1つをとっても、何を観察したいかによって、その性能を引き出すレンズ設計は違ってくる。従って、新製品を作ろうとすれば、新たなレンズ設計が必ず必要になるといってよい。

シュリンクフィッター

写真1 シュリンクフィッター

ここで重要になるのが光軸合わせ。複数個のレンズを組んだとき、それぞれのレンズの軸が、一直線上にすべてきちんと乗ってくるよう組まなければ、望みの性能は出ないからだ。そこには何らかの仕掛けが必要になる。新田勇・新潟大学教授の特許であるシュリンクフィッターは、レンズと鏡筒の間に樹脂(エンプラ)のリングを挿入し、「焼きばめ」によって固定する。加熱した状態でレンズを組み込み、常温に下がる際に樹脂が均質に収縮(シュリンク)して、全体の光軸がうまくそろった状態で固定化される。新田教授は、この樹脂部品(フィッター)に特殊な工夫を施した(写真1)。

平成13 年12 月、株式会社オプセルはこの技術を生かす形で、独立行政法人科学技術振興機構(JST)のプレベンチャー事業の第一期生として、さいたま市に設立された。マンションの一室からスタートし、現在は川口市のSKIP シティーにある埼玉県産業技術総合センター内のインキュベーションラボに部屋を借りている。社員は4 人、年間売上は1億円をちょっと超えたあたりだ。

事業者は民間出身の小俣社長
小俣 公夫氏

  写真2 株式会社
       オプセル代表取締役
       小俣 公夫氏



新田勇 教授

  写真3 新潟大学
       新田勇 教授

オプセルの社長である小俣公夫さん(写真2)は、もともと光学技術者。写植機で有名な株式会社写研に20 年勤め、その後、株式会社荏原製作所に移って、ポリゴンミラー(光を走査するのに使う多角形の鏡)用のセラミック軸受けの研究開発にかかわった。その後、セイコーインスツル株式会社に移り、ポリゴンモーターの量産までかかわったが、急きょ、事業が縮小されることになった。

こんなとき、仕事の関係で新田教授(写真3、当時は助教授)と旧知の関係だったこともあり、プレベンチャー事業に応募してオプセルが産声をあげたのである。今年で7年になるが、会社として維持されてきた秘訣(ひけつ)は、小俣さんの営業力にある。大学に籍を置く新田教授は、開発担当の取締役。技術開発の面での役割に徹して事業は小俣さんが全責任を持つ。これがたぶんオプセルが成功しているポイントだ。

現在の主力商品は「レーザ走査イメージャ*1」(写真4)と「レーザ直接描画装置」。ともに新田研究室との合作で、レーザービームのスキャニング技術に基づいており、これがオプセルの「売り」である。特に前者は、10 ミリもの広範囲をスキャニングできる共焦点顕微鏡だ。ともに小俣さんが得意としてきた分野の製品である。

オプセルは、商品や部品を設計し、必要な部品をメーカーに製造してもらって、それをもとに組み立てる。つまり、部品の製造は外注し、設計と組み立てと検査をオプセルでやって得意先に納入するのである。組み立てるのはラボの一室の机の上。町工場よりも小さなスペースだ。

レーザ走査イメージャ

写真4 レーザ走査イメージャ

面白いのは、会社設立の根拠となったシュリンクフィッターのこと。意外にも、この技術はいまなお開発段階にあり、普通の意味での実用化はできていない。新田教授の研究室にある高精度のプラスチック加工機械によってのみ、作れるものだからだ。当然コストは高い。従って、オプセルの実際の商品は、コストの安い別の方法で作っている。看板技術と会社運営の微妙な違いが面白い。こうした現実をきちんと理解して対応しないと、ベンチャーはやっていけないということだろう。

商品を売るより、技術や評判を売る

注意したいのは、オプセルはこれらの商品をただ単に売り込んで収益を上げているわけではないところだ。

光学分野では、メーカーが大会社になってしまったこともあって、開発や研究さえ外部の力ある技術者や小企業に頼るようになっている。外の知恵やアイデア、あるいは部品を購入するように変わってきている。つまり、光学分野にはニッチ(すき間)のビジネスがかなりある。オプセルはここで生きているわけだ。

また、「レーザ直接描画装置」などは、生産や研究開発の現場をよく知らなければ商品とはなりにくい。さまざまな現場のニーズを吸い上げ、商品に結び付ける開発を絶え間なく進めているからこそ、オプセルは「食べて」いけるのだ。

営業の現場は、例えば「東京ビッグサイトなどで行われる展示会に出品すること」と小俣社長。こうした展示会には、企業の大小に関係なく、「問題を解決したい技術者などがやってくる」という。また、ホームページにも現在まで2 万6,000 件を超えるアクセスがあって、そこから直接連絡してくるユーザーもいる。

つまりこういうことだ。オプセルは、レーザービームの走査技術や関連する光学分野で、高い技術力を誇っている。一方で、問題を抱えていてそれを解決したい人々がいる。それらが結び付いたとき、オプセルのビジネスが成り立つ。言葉を変えると、ユーザーがオプセルを探し出す機会を増やすこと、究極は「困ったときはオプセルに頼め」という評判を作り上げること、それが営業なのである。だから、お金になる確率は低くても丁寧に応えるようにしている。

次なる飛躍を目指して

社長さんの立場からは、半導体や電子機器関連の専門商社からの依頼仕事はありがたい。「お金の面で苦労することがないから」で、このような実感は、実際に社長業をやった人でないと絶対にわからない。営業をやり、開発をやり、経営も考えるベンチャー会社の社長さん、それが小俣さんである。

いま小俣さんが期待しているのは、有機EL(エレクトロルミネッセンス)のプラスチック欠陥検査装置だ。ソニー株式会社が有機EL テレビを発売したり、松下電器産業株式会社が37 型の量産化を発表するなど話題に事欠かないが、有機EL表示装置の新たなターゲットは、自動車のダッシュボードやフロントガラスに付けること。従って、曲面にする必要があり、最終的にはすべてプラスチックで作るための研究開発が進んでいる。

有機ELディスプレイは多層の透明薄膜で構成されるが、実は、この実用的な検査装置がいまのところ存在しない。CCDのラインセンサーはあるのだが、これでは見える範囲が狭く、また透明なプラスチックの中にある透明な欠陥を探し出すのは難しい。しかし、オプセルの「レーザ走査イメージャ」ならそれが短時間でできる。レーザー走査技術自体が備えている長所だ。もちろん、要求があればそれに見合うよう、大きさもスペックも変えていかねばならないが、オプセルなら自在に対応できるのも強みである。

ベンチャーが生き残る1つの形として、小俣さんは「オプセルがコアとなって、われわれの仲間が伸びていく」という構想を持っている。実は、小俣さんの周りには、部品加工のプロとか設計のプロとか、1人でやっている実力者がかなりいる。それぞれは独立して仕事をしているのだが、少し大きな仕事が来たとき、何らかの課題が生じたとき、いろいろな組み合わせで集まって、問題を解決している。この「群としての潜在力」を生かしていきたいと小俣さんは考えている。紆余曲折を経て7年。小俣さんの言葉には気負いは見られない。

株式会社オプセルの概要
     本社所在地:埼玉県さいたま市緑区太田窪1-1-21
     埼玉研究室:埼玉県川口市上青木3-12-18 SAITEC 752
     URL:http://www.opcell.co.jp/
     代表取締役社長:小俣 公夫
     設立:平成13 年12 月10 日  資本金:1,500 万円  従業員数:4人

*1
広視野の共焦点レーザー顕微鏡