2008年9月号
特集  - ベンチャーの法則
株式会社オキサイド 高品質な光学単結晶メーカー
顧客も経営戦略も世界を視野に展開
顔写真

小澤 育夫 Profile
(おざわ・いくお)

野村證券株式会社
法人企画部 公益法人課
主任研究員

株式会社オキサイドは光学用の単結晶を製造販売しているベンチャー企業。スライスして供給する。独立行政法人物質・材料研究機構が支援するベンチャー企業の第2号である。6割が海外向けだ。2年半前に三菱電線工業の光部門を買収し、部品を組み合わせたモジュールまで一貫生産するようになった。そのM&Aの成果は?

物質・材料研究機構発ベンチャーながら山梨県に立地
写真1

写真1
     株式会社オキサイド
     代表取締役社長
     古川 保典氏



写真2

写真2 株式会社オキサイド 本社工場

株式会社オキサイドは、独立行政法人物質・材料研究機構(NIMS)が支援する「NIMS ベンチャー企業」第2 号であり、光学単結晶の製造販売を中心事業としている(第1 号は「SWING」で、現在は同社の関連会社である)。古川社長(写真1)は民間企業に勤務の後、1996 年に米国のスタンフォード大学に留学、帰国後NIMS に勤務した。

スタンフォード大時代の友人の多くがベンチャー企業を創業、あるいはベンチャー企業に就職したことに刺激を受けたこともあり、2000 年10 月、研究成果を事業化すべく同社を創業した。これは、人事院が起業を支援する休職制度を活用した第1号である。創業は山梨県小淵沢町(現在、北杜市)であったが、NIMS のある茨城県から離れて東京を飛び越えている。これは、光学単結晶と類似した水晶の加工が地場産業となっていて蓄積があり、自治体側の体制も整っていたことが理由である。その後、事業の拡大に伴って敷地が手狭になり、2005 年6 月に同じ山梨県の武川村(現在、北杜市)(写真2)に移転している。同社は、北杜市の工場誘致条例第1号企業である。なお、古川社長は2003 年10 月にNIMS を退職し、同社の社長業に専念している。

世界的なオンリーワン企業

主な製品は、光学用の酸化物単結晶であり、スライスしてウエハーとして供給する。電子デバイス用の単結晶としては水晶発振子が広く知られているが、これは電気信号用である。同社の製品はほぼすべてが光学用である。最終的には、大容量通信や、高画質動画を扱うデジタル家電、超精密加工、高精度な医療機器などの分野で使われる。同社の製品は産業界の最上流に位置することもあり、用途の幅は広い。

写真3

写真3 二重ルツボ法単結晶製造装置

直接的なアプリケーションは、光学的発振(発光)や波長変換、光変調、光センサー、光フィルター等の部品である。これらはすべてが画像・動画あるいは光信号を扱うため、電気信号用に比べると、極めて高品質な単結晶が要求される。結晶には欠陥の存在がほとんど許されないが、この高品質単結晶の製法こそが、古川社長がNIMS で研究していた「二重ルツボ法」である。従来の方法では、少量の高品質結晶を製造することは可能でも、結晶全体の品質を一定以上にすることは難しかった。二重ルツボ法での欠陥率は、従来に比べて1/100 ~1/1,000 の水準にまで、非常に低く抑えられている(写真3)。

同社は量産用に製品を出荷しており、現在は10 種類以上の単結晶をラインアップしている。代表製品のスーパーLN/LT単結晶(写真4)では、実質的に世界のオンリーワン企業である。このため6 割が海外向けであり、世界市場を対象とした事業となっている。

写真4

写真4 スーパーLN単結晶

小規模な生産を行うところはあるものの、高品質なLN/LT単結晶を量産できるのは、世界でも同社だけである。同社は2001 年5月から販売を開始したものの、歩留まりの向上に手間取り、量産向けに本格出荷できるようになったのは、会社設立から4 年後の2004 年からだそうである。同社の技術では二重ルツボ法が有名であるが、実際の事業化に際しては、辛抱強く、細かなブレークスルーを積み重ねて、現在の地位を築いている。

事業展開に買収も活用
写真5

写真5 QPM-PP サンプル

古川社長は、創業当初から、単結晶だけでは事業規模が大きくならないと認識していた。そこで、2005 年12 月に三菱電線工業株式会社の光部品(波長変換部品)事業を買収、川下の部品分野へ進出した(写真5)。現在では、単結晶ウエハーだけでなく、部品・部材を組み合わせたモジュールまで、一貫して製造・供給できる体制となっている。

同社の特徴として、技術面だけでなく、買収を活用した事業展開にも注目したい。三菱電線工業からの事業買収に続き、2006年5月には多木化学株式会社よりTeO2単結晶およびBGO 単結晶事業を買収した。買収による事業展開は国内のベンチャーでは比較的珍しいが、海外を中心に光部品関連の業界では一般的に行われている。同社は、戦略面でも世界的視野に立っている。

同社は量産向け出荷を開始した2004年9月期以後、順調に事業を拡大している。一度も赤字になることなく、現在では当時の倍を超える5 億円の売上高に達している。また、光部品事業の買収により、直接的な売り上げ増はもちろん、川下にまで対応できるようになったので、顧客からの問い合わせや共同開発依頼などが増加した。このため、単結晶のメニュー拡大を含め、全社としての業容そのものが広がった。もし、同社が単結晶だけを供給するメーカーであれば、規模拡大の速度はもっと遅かったと思われる。

部品事業の売上比率は現在2 割まできたが、今後も成長の中心となり、将来的には売り上げの過半数を占めると期待される。

新連携事業でさらに技術開発を進める

高度な技術が評価され、2002 年4 月にはLN/LT単結晶の欠陥制御により、中小企業優秀新技術・新製品賞の中小企業庁長官賞を受賞した。その後も日本結晶成長学会の技術賞、つくばベンチャー大賞などを受賞している。2008 年に入り、2 月にジャパン・ベンチャー・アワードの創業・ベンチャー国民フォーラム会長表彰、6 月にはスーパーLN/LT 単結晶とその供給による当該分野の応用開発促進の波及効果などから、独立行政法人科学技術振興機構(JST)の井上春成賞を受賞した。

2007 年7 月には、関東経済産業局の新連携事業認定計画に同社の案件が認定された。従来は複数の装置でしか実現できなかった広帯域のレーザー発振を、1つの装置で可能とするモジュールの開発を目指す。株式会社タナカ技研、株式会社メガオプト(ともに本社は埼玉県)と連携して、必要となる結晶の開発、高精度の研磨、レーザー装置化を進めていく計画である。

実際の単結晶は、一見透明なガラスの塊であり、サンプルは人の握りこぶし程度の大きさである。専門外の筆者にはちょっと変わった形のガラスにしか見えなかったが、これが数百万円の価値を持ち、世界各地で先端技術開発を加速させたかと思うと、感無量であった。

株式会社オキサイドの概要
     本社所在地:山梨県北杜市武川町牧原1747 番地1
     URL:http://www.opt-oxide.com/
     代表取締役社長:古川 保典
     設立:2000 年10 月18 日  資本金:3 億5,000 万円  従業員数:41 人