2008年9月号
特集  - ベンチャーの法則
JSTのベンチャー企業の実態とその支援策
設立後平均3.8年、60%が研究開発段階
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齋藤 和男 Profile
(さいとう・かずお)

独立行政法人 科学技術振興機構
産学連携事業本部 技術展開部
新規事業創出課 課長

科学技術振興機構(JST)はJSTの各種事業を通じて設立された大学発ベンチャー企業の活動状況を調査した。企業数は平成19年11月現在、173社。過去1年間に設立されたのはそのうちの4.0%で、16年度の16.8%をピークに下がり続けている。設立後の平均経過年数は3.8年で、研究開発段階にある企業が60%を占める。まだ、販売する商品が完成していない企業が多いことを示している。

はじめに

大学等の研究成果を社会還元する手段の1つとして、大学発ベンチャー企業の設立が期待されている。経済産業省の調査*1(以下、「METI 調査」という)では、平成18 年末時点で1,590 社の大学発ベンチャー企業が設立され、年々その数を増やしている。独立行政法人科学技術振興機構(JST)は、その創出を促す「大学発ベンチャー創出推進」事業や、その前身事業である「プレベンチャー事業」のほか、基礎研究事業、産学連携事業、地域関連事業等を通じて大学発ベンチャー企業の設立に貢献しているが、これらの事業を通じて設立された大学発ベンチャー企業(以下、「JST 発ベンチャー」という)を対象として、その設立の状況や活動状況を平成18 年度に引き続き調査したので、その概要を報告する。

なお、今回のJST 調査では、JST 発ベンチャーの置かれた状況を明らかにするため、一部の事項についてはMETI 調査と比較することを試みた。

調査結果の概要
ベンチャー企業設立数に占める新規設立比率の推移

図1 ベンチャー企業設立数に占める新規設立
     比率の推移

平成19 年11 月末現在のJST 発ベンチャー数を調査したところ、173社が抽出された(このうち「大学発ベンチャー創出推進」事業と「プレベンチャー事業」により設立されたベンチャー企業は63 社)。調査時点は異なるものの、METI 調査が把握した大学発ベンチャー企業の約1割強がJST 発ベンチャーであった。いずれの調査においても平成16 年度をピークに新規設立企業数の伸びは鈍化していた(図1参照)。

JST 発ベンチャーに対するアンケート調査を平成20 年3月に実施した。回答のあった103社の内容を集計したところ、売上高が1億円を超える企業が8社、資本金が1億円を超える企業が19 社、従業員が10 名を超える企業が24 社、上場企業が3社という結果になった。

 事業ステージの比較

図2 事業ステージの比較

次いで、回答企業の平均売上高から、JST 発ベンチャーの経済波及効果(直接効果〔総売上高〕と間接効果〔生産誘発額等の額〕)を算出した。直接効果は116 億円(平成18 年度の調査では83 億円)、経済波及効果は213億円(同151 億円)となり、直接効果、経済波及効果とも大幅に増加していた。METI 調査では大学発ベンチャー企業の経済波及効果は5,166 億円であり、JST 発ベンチャーのそれは約4%にとどまったことになる(両調査とも調査・算出手法は同一)。JST 発ベンチャーの設立後経過年数が平均3.8 年であり、研究開発段階にある企業が60% であるのに対し、METI 調査ではそれぞれ5.3 年と49% であることから、JST 発ベンチャーでは、いまだに販売すべき商品が完成していない企業が多いことが経済波及効果の少ないことの原因と推定している(図1図2参照)。

営業利益については、1期前、2期前の決算時よりも改善しているが、依然として1社平均で7,800 万円の赤字であった。

また、直面している課題に関する質問への回答として、資金調達、人材の確保・育成、販路開拓・顧客確保を挙げる企業が多かった。これらの課題は、大学発ベンチャー企業が一般的に抱える課題と見られ、METI調査でも同じ傾向である。これらの課題の背景には、ベンチャー企業においては、研究開発の成功の可能性、経営安定性、将来性、商品・サービス提供の継続性等のリスクへの不安から、社会や市場の信頼が得にくいことがあると思われる。

支援策の検討

以上のように、JST 発ベンチャーは厳しい状況に置かれている企業が少なくないことから、大学等の研究成果の社会還元を進めるためには何らかの支援策が必要である。また、JST が平成19 年4月に開催した「大学発ベンチャー活性化シンポジウム」でも、「大学発ベンチャーの成功を『数』ではなく『質』で議論すべき時期になっているのではないか」「大学発ベンチャー全体に対してはまだ支援が必要」等々の意見が出た。

今回の調査結果も踏まえると、研究開発型であるJST発ベンチャーの支援策検討の観点として、起業から商品上市までの研究開発のスピードアップや社会的認知度向上などが重要と思われる。具体的には、次のようなものを検討した。

1) 人材の紹介や専門家の派遣など、人的支援による研究開発の側面支援
2) 企業間、業種間等の交流の場等を設置することによる営業機会の提供
3) 先行企業、外部コンサルティング等による成功事例の紹介や経営戦略のアドバイス
4) 起業時までにとどまらず、起業後の研究開発に対する資金援助

一部の地域では、これらに類するさまざまな支援策を活用する取り組み必要に応じて空行を挿入して段落を合わせます。が既に始まっており、これらの活動により、研究開発型ベンチャー企業の成功例が増加し、その社会的認知度も上がることを期待したい。

「大学発ベンチャー創出推進」事業について

最後に、JST 発ベンチャーの約3分の1を創出してきた「大学発ベンチャー創出推進」事業について触れたい。

JST では、既存の大学発ベンチャー企業を対象とした上記支援策検討とは別に、本事業を通して新たに設立されるベンチャー企業の質の向上を図るための制度改革を検討してきた。

その結果、前述のように一部地域で始まっているベンチャー支援の取り組みを活用することが有効と考えられたので、平成20 年度から、その活動の中核を担っている各地の財団等に側面支援機関として本事業に参画していただくことにした。これにより、本事業に採択される方々は、起業前後において、前述支援策の1)~3)の支援も含めて、各種支援を受けられることとなった。幸い、本事業への応募数が平成19年度の59件から71 件へ増加(20% 増)した。制度改革への理解が得られたものと考えている。

また、本事業により設立された既存のベンチャー企業に対してこれまでも展示会出展支援等による交流の場の提供を行ってきたが、平成20 年度からは、本事業を通して設立され、設立から間がないベンチャー企業によるビジネスマッチングフェアを開催することとした(9月17 ~ 18 日:東京国際フォーラム)。このフェアの開催により、生まれたてのベンチャー企業の販路開拓や他企業とのアライアンスなどにつながることを期待している。

今後は、これらの支援策の実をあげることや、前述4)に関する制度改革を図り、イノベーションの原動力となるような強い成長力を有する大学発ベンチャー企業の創出につなげていきたい。

*1
平成18年度大学発ベンチャーに関する基礎調査報告書(平成19年3月報告)