2008年9月号
単発記事
独創技術を商品化するまでの長い道のり
-新技術協会の調査研究:10事例が語る開発成功の
真実-

飯沼 光夫 Profile
(いいぬま・みつお)

千葉商科大学 名誉教授


社団法人新技術協会は、独創技術の開発・実用化に成功した10事例を対象にした『産学官連携によるイノベーション創出の成功要因に関する調査研究報告書』をまとめた。10事例はすべて科学技術振興機構(JST)の技術開発支援制度を利用したもので、技術のアイデアが売れる商品になるまでに10~20年近い期間を要している。事例の経緯の調査から抽出された成功要因は?

はじめに

本論は、社団法人新技術協会が財団法人新技術振興渡辺記念会の研究助成を受けて実施した『産学官連携によるイノベーション創出の成功要因に関する調査研究報告書』(調査研究委員会委員長・飯沼光夫:2008 年3 月)に基づいて、その調査研究成果の概要を述べたものである。

調査研究対象として取り上げた10 事例は、すべて独立行政法人科学技術振興機構(JST)の技術開発支援制度(独創モデル化事業、委託開発事業、プレベンチャー事業など)を活用し産学官が連携して独創技術の開発・実用化・商品化・事業化に成功した事例である。本調査では、独創技術のアイデアを生み出し、それを実用化し、売れる商品にするまでの経緯を詳細に調査分析し、その中から、成功に至る重要な要因を抽出した。また、企業にとっての成功とは、新商品が一定の売り上げをあげた実績が得られることとした。

なお、これらの事例調査は、対象企業の関係者の方々ならびに大学等の研究者の方々に全面的なご協力と資料のご提供などをいただいて初めて実現した。

10事例の共通的な特徴点

まず、10 事例の共通的な特徴点について述べる。

10 事例は、いずれも独創技術に挑戦し、それを売れる商品にするまでのストーリーを時系列的に詳細に追跡し、その間に直面した数々の困難を明らかにして、それをどのように克服し、成功のゴールに到達したのかを取りまとめたものである。そして、その開発、商品化の過程で産学官が連携して適宜JST などの公的技術開発支援制度を効果的に活用していることである。

しかも、とりわけ困難が多いことが予想される独創技術に挑戦したこれらの事例は、すべて中堅企業、中小企業、ベンチャー企業の実施事例なのである。

これは独創技術開発に対する私見であるが、「独創技術開発とは、今までに全くない新しい価値を創り出し、従来の学会常識や産業常識を意図的に、計画的に非常識にする技術開発活動である」と思っている。

それ故、独創技術は生み出すのが難しい。生み出しても正当に評価してもらうのも難しい。評価されても、適切な開発支援を得るのも難しい。独創的新商品ができても、なかなか売り上げに結び付かない。これが独創技術の本質であろう。

そのような性格をもつ独創技術ゆえに、いずれの事例も、独創技術を「新商品として売り上げをあげる」ところに至るまでには10 年から20 年近い期間を要している(表1)のも特徴点として挙げておきたい。

表1 独創技術商品の開発・商品化成功事例(全10例)
≪産学官連携によるイノベーション創出の成功要因に関する調査研究報告書(2008年3月)≫

独創技術商品の開発・商品化成功事例
事例から得られた商品化・事業化への成功要因

事例の内容がかなり多岐にわたっていることが表1の事例概要一覧表でわかるが、あえて開発パターンを類型化してみると、以下のようなパターンに分類することができよう。

例えば、独創技術の開発には成功したが、商品売り上げに結び付けることのできる最適の具体的なニーズを発見するのに手間取った事例(システムインスツルメンツ株式会社、株式会社先端赤外)、ステップ・バイ・ステップ方式で一段階ずつ困難を解決しながら最終目標に近づいていく事例(株式会社東京インスツルメンツ、株式会社放電精密加工研究所、アトー株式会社)、初めから商品化の最終目標を明確に設定して、何が何でも成功するまでやり抜く事例(スタンレー電気株式会社、宮本工業株式会社、株式会社エンバイオテック・ラボラトリーズ)、全く新しい概念の独創技術であるために既存の市場にはすぐに適合できず、新しいビジネス・モデルを創出するところから始めなくてはならない事例(株式会社角弘、株式会社ツーセル)などのパターンである。

しかし、それらの多様で個性的な事例の中から成功要因を抽出してみると、意外にも共通的に浮かび上がってくる要因を発見することができるのである。それが、次に述べる7 項目である。

  • 各企業に志の高い経営理念が明快な形で存在し、それを開発関係者たち全員が共有の価値観としていたこと。
  • 新商品や新規事業の実現のための明確で具体的な経営戦略が示され、全員が開発ベクトルを一致させることができていたこと
  • 長年の地道な先駆的研究開発の実績の上に、新商品や新規事業のビジネス・プランが展開され成功に至ったこと。決して、運良く成功したわけではない。
  • 異なる環境にある産学官の開発関係者たちであるが、お互いに真摯(しんし)な態度で相互信頼の関係をつくりだして、極めて強い求心力のある開発活動を継続できたこと。
  • 強い確固たる信念を持ち、失敗にくじけない挑戦意欲を持った開発リーダーが存在していること。そのリーダーが、ある時は、産学官連携の強い接着剤となり、また、ある時は、潤滑剤の役割を果たしている。
  • JST などの各種の公的技術開発支援制度を良く理解して、技術開発の展開状況に応じて適宜タイミング良く効果的に活用していること。
  • 新商品の独自性を効果的に発揮するために、知的財産権を活用していること。特に独創技術開発においては、そのオリジナリティーある技術アイデアを生み出した研究者への尊敬の念が、成功への不可欠要素となっている。

このような共通的な成功要因を抽出することができたのである。

さらに総括的に言えば、独創を生み出す困難、独創を育てる困難、独創を売れる商品にする困難と、その困難さは次第に増大していくように思える。従って、独創新商品は、開発リーダーが新商品を売るところまで責任を持って手掛けることが絶対に必要であろう。まさしく、これが成功を勝ち取る最大の要因と言ってもいいのかもしれない。