2008年10月号
特集  - なぜ海外?企業の研究投資
富士通研究所の海外産学連携の現状について
顔写真

佐々木 繁 Profile
(ささき・しげる)

株式会社 富士通研究所
取締役・R&D戦略室長


世界の優秀な人材を獲得し、最先端の研究開発に取り組むため、米国、中国、英国などに研究所を設置するとともに、海外での産学連携を進めてきた。一方で、高い技術を生み出して行くには基礎原理に立ち返ることが重要と考え、大学・研究機関に期待している。国立大学の法人化後、国内の大学との連携を強化しており、2007年度の「大学への研究費支出」は金額ベースで国内が約6割。しかし、1件当たりの金額は海外の大学が国内の約2.7倍である。

産学連携に対する基本的な考え方

株式会社富士通研究所は、富士通株式会社の明日、そして将来の事業を支えるために研究開発を行っている。技術分野は、材料・デバイスからプラットフォーム、サービスに至るITに関連する幅広い分野をカバーし、それぞれのテクノロジーの融合によって新しい価値の創造を目指している。しかし、近年、世界がフラット化し、グローバルに競争が激化する中、その目標達成は常に困難に直面している。企業競争力の源泉は優秀な頭脳にある。世界の優秀な人材を獲得し、最先端の研究開発に取り組むには、自らが赴くことが重要であり、ここ15 年間、米国カリフォルニアをはじめ、中国北京・上海、英国ロンドンなどに海外研究所を設置するとともに、海外での産学連携を進め、優秀な人材の現地採用を積極的に進めてきた。その結果、現在では1割強の研究員が海外人材(国内研究所の新卒採用も海外人材が1割強)となり、今後も、拠点・人員の海外シフトは進めていく。

富士通研究所の海外研究拠点

図1 富士通研究所の海外研究拠点)

さらに、タイムリーなマーケットインを目指すべくオープンイノベーションにも力を入れ始めている。特に、グローバル競争に勝つために強い技術を生み出していくには、基礎原理に立ち返ることが重要であると考え、この点を大学・研究機関に期待するとともに、目標・出口イメージを共有した産学の共同研究を推し進めていきたい。富士通研究所は、国立大学が独立行政法人化された2004年度以降、国内の大学との産学連携を強化しており、2007年度は金額ベースで約6割が国内の大学になっている。しかし、成果創出へのコミットメントや研究人員の従事数などから1件当たりの金額は海外の大学との方が多く、国内の約2.7倍となっている。今後は、全世界が抱える社会的な課題である「環境」「健康」に関するようなテーマで世界トップレベルの研究機関と連携を強化することも検討している。

欧米の大学との取り組み状況

欧州の大学とは光通信やナノバイオの分野で大型の共同研究を行っている。これらに共通している点は、世界トップレベルの研究を行っている研究機関であることである。ナノバイオの場合、新規に研究テーマを立ち上げる際に大学が学内公募をかけてポスドクや博士課程の専任研究員を数名採用した。大学院生にも給与を支払う仕組みがあり、共同研究の中で生み出される知財の扱い等は契約で権利を守ることができる。また、大学院生は共同研究の中で博士論文の執筆・博士号の取得が可能であり、給与と合わせ大学院生のインセンティブとなっている。光通信の場合は、世界トップレベルの研究を行っている研究者と一緒に研究を行い、世界的に著名な学会での論文発表などを通し、成果に高い評価を得ている。また、研究者同士の定期的な交流(国内から海外へ、海外から日本へ)を行うことで、お互いを刺激し合い、さらなる最先端の研究に挑んでいる。共同研究を行っている欧州の大学では、学部で毎年25%が落第させられるなど出口管理が厳しくされているだけでなく、修士から博士に進む段階で6カ月間外部にて経験を積むことが課せられている。また、留学生が半数を占めているため、すべて英語で授業を行うなど教育プログラムも工夫されており、グローバル性や社会性を身に付けた優秀な人材が輩出されている。こうした学生教育にプロ意識の高い大学と交流を深めることは、企業にとっても非常に有意義である。

中国の大学との取り組み状況

中国の大学とは主に無線通信や言語処理の分野で連携している。中国における産学連携の特徴は、中国語などの中国文化や巨大な中国市場を狙った標準化という「中国」への特化、躍進する人材への期待である。中国の大学には飛び級制度があり、できるだけ学費をかけずに修了するために学生は熱心に勉強するという話を聞いている。また教員が有するベンチャー企業でプロジェクトを成功させないと修士・博士課程を修了させてもらえない、というような厳しい出口管理があるとの話も聞く。事実、われわれがお付き合いしている大学の学生は皆非常に真剣に勉強している。共同研究を行うときは、准教授、ポスドクや大学院の学生が専任研究員として参加し、この中で准教授は学生をしっかり教育している。入口管理・出口管理がきちんと行われている上に、先生が学生の教育をしっかり行っているため、中国の学生は、企業が改めて教育を施さなくても即戦力になっている。ここ最近、いくつかの中国の大学から包括的な連携の申し出を受けているが、こういう機会を活かして、元気のある若手の先生と交流の輪を広め、まだ手を付けていない領域でのテーマ設定などができると良いと考えている。包括的な枠組の検討に際し、中国の若い先生は人材教育に加え、さまざまな提案を活発に行ってくれる点もまた企業にとっては非常に有意義である。

今、世界で起こっていること、それは人材獲得競争

現在、グローバル規模で科学技術に携わる人材の獲得競争が起きている。アブダビのMASDAR Initiative やシンガポールのA*STAR が代表的な例である。この7月に直接出向き、実際に壮大な計画を伺ってきた。石油エネルギーの王国であるアブダビでは、人類のサスティナビリティを追求し実現するためにZero Carbon Emission、Zero Waste、Highest Quality of Life を掲げた国策MASDARプロジェクトを設立し、700万m2の近未来都市の開発に着手した。この壮大な計画を実現するためには世界トップレベルの頭脳が必要であり、米国のMIT(Massachusetts Institute of Technology)の教授陣を先導に世界から優秀な人材を集約し始めている。また、シンガポールA*STAR も同様、政府主導でBio-Polis、Fusion-Polis という研究拠点を設立し、世界からトップレベルの研究者を招聘(しょうへい)し、さらに実用化を加速化させるために企業誘致も積極的に始めている。いずれも技術開発を優位に進め、グローバルで社会経済の主導権を握っていくために、大きな将来ビジョンを描き、優秀な人材の獲得と教育に余念がない。日本の優秀な頭脳の海外流出も既に始まっている。

今後どういう分野でどういう人材や技術を育てていくべきか、わが国でも大きな将来ビジョンを描き、グローバル視点で真剣に考え、実行すべき時期に来ていると考える。