2008年10月号
特集  - なぜ海外?企業の研究投資
国際産学連携推進に当たって思うこと
-海外企業に対して大学のプレゼンスを高めることが第1歩-
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高橋 富男 Profile
(たかはし・とみお)

東北大学産学官連携推進本部
高度技術経営人財キャリアセンター
副センター長

わが国の企業が海外の研究機関に支出する研究資金は、国内大学等に対するものに比べて2倍以上。こうした中で、日本の大学が世界から関心をもってもらうためにはどうすべきか。「国際的な産学官連携活動の推進」事業に携わるなかで、「海外企業に対してわが国の大学のプレゼンスを高めることが第1歩」という。

平成20 年度から、産学官連携戦略展開事業がスタートした。その中で16 件17 大学が「国際的な産学官連携活動の推進」事業に採択されたが、本事業の狙いは「基本特許の国際的な権利取得の促進、海外企業からの共同研究・受託研究の拡大、国際的な知的財産人材の育成・確保など、国際的な産学官連携体制の強化を図る」となっている。

海外企業からの共同研究・受託研究の拡大を図ろうとすると、どうしても気になるグラフがある。それは、社団法人日本経済団体連合会(経団連)「産学官連携に関するアンケート調査」(平成13 年8月実施、対象:経団連産学連携推進部会委員企業28 社)で出されたものであり、「日本企業から外部に対する研究資金の支出額は、国内の大学に対するものに比べて海外の研究機関等に対するものの方が2倍以上となっており、さらに、その差は年々拡大してきている」というものである。

その理由として、「我が国企業が国内の大学より海外の大学の方が優れている点として、(a)大学側に企業ニーズを踏まえた提案能力があること、(b)大学が法人格を有し、責任ある契約を柔軟に締結できること、(c)事務部門や他学部の教授等の学内における人的資源の横断的協力体制が構築されている」ことを挙げている。

その後、平成19 年4月23 日付けの産業構造審議会産業技術分科会産学連携推進小委員会から出された『産学連携の現状と今後の取組』の中で、「国立大学が法人化された平成16 年以前に行われたものであり、最近の国立大学法人の状況とは異なる点もあること、には留意する必要がある」等のコメントがなされている。

海外の大学とは数十年の差

各大学では、平成15 年度の大学知的財産本部整備事業がスタートした時点では、知財管理体制構築が主目的であったが、リエゾン機能の充実、地域連携の推進、途中でスーパー産学官連携推進を拡充、そして平成19 年度は国際産学官連携に向けた調査と体制づくりといった矢継ぎ早の政府提案に対応をしてきた。ほぼゼロのレベルからの構築であったために、提起されたシナリオに沿って実行すれば、それなりの体制ができてきたというのが実態である。

国内を対象とする場合は、どこの大学もどんぐりの背比べ的な状況下でもあり、なんとかなったといえる。ただし、国際的となると、外国の大学とは数十年の差があるため、しっかりした状況把握をした上での事業計画でなければならない。

東北大学では、平成19 年度国際産学官連携推進機関に採択された際に、いかなる体制整備が必要かを検討するに当たり、国内外企業を訪問してヒアリングを実施した。

電気機械系の比較的グローバルな企業国内3社、欧州は5社である。サンプルが少ないため、部分的なものと言えるが、予期された結果が得られた。

国内企業に対しては、「なぜ外国大学と連携を行うのか」を聞いた。

最も多かったのは、「国内外という分け方はしていなく、研究テーマに最適な研究者を選んだら、それが外国の大学であった」というものであった。次が、経団連調査結果の(a)と同じであった。ただし、知財の取り扱いを含めた契約書の内容についての交渉の余地はほとんどなく、上記(b)とは異なり柔軟性に欠けたものであるとの意見もあった。

さらに、「研究開発部門を含めて拠点が世界各国にあるため、現地の大学との連携もあることから、外国の大学への研究費が比率的に多くなることは当然である」との声も聞かれた。また、「ここ数年は国内大学の比率が多くなり、逆転している」とする企業もあった。

コミュニケーションが容易な体制

また、欧米の企業に対する質問は「大学と連携を行う要因はどのようなものですか?」というものであった。この場合は、ほとんどの企業が本学の名前すら知らないという結果であり、ヒアリング以前の状況であることが分かった。主な研究成果を紹介すると、そんな素晴しい研究をされているならば、十分に連携を行う可能性がある。ただし、コミュニケーションが容易な体制(近くに居ればやりやすいなど)をつくってほしいとのことであった。

これらの話は、国内企業と産学連携を推進するに当たってもほとんど同様であることは、これまでの知的財産本部整備事業を進めてきた際に、産業界から言われたことからもわかる。

学内外からわかりやすいワンストップ窓口の整備、知財管理体制の整備、ルール類制定を含めた研究契約推進体制の整備、企業における営業企画に当たるリエゾン部門の整備による学内外からの各種ニーズへの柔軟で的確な対応などが挙げられ、各大学は国内企業を視野に入れてこれまで進めてきた。

各大学は、これまでに海外の大学と学学連携や教員同士による共同研究等を推進してきているが、研究者個人ベースでの連携の範囲を出ていないものが多く、大学としての組織的対応とはなっていなかった。国内と同様に、相手企業の技術本部長や研究企画管理部署の責任者とのコミュニケーションが重要であり、教員個人のつながりだけでは発展性があまり期待できない。

研究成果を活用してイノベーション

産学連携を何で評価するかという論議があるが、大学が産業界や地域社会から信頼されてその存在を評価されることであり、そのためには、大学の研究成果(知財やノウハウなど)を活用して、イノベーションにつながることが必須であり、結果として共同研究費などの外部資金が入ることになる。

それぞれの大学では、素晴らしい研究業績を挙げている研究者が少なくない。限られた情報ではあるが、国際産学連携推進に当たってまず第一にやるべきことは、「大学のプレゼンスを高める」ことである。

これまでは、待っていれば企業がやって来るという考えを持っている教員が少なくなかった。しかしながら、平成16 年度以降、法人化に伴い、工夫を凝らした産学連携施策が打ち出されて大学間競争がますます激しくなってきたこともあり、教員個人にだけ依存していては限界があることが分かった。最も重要な変化は、企業側が組織対応を求めてきたことであり、産学連携本部組織の存在の意義を認めたことである。

この点では、経団連の調査結果にある3項目が極めて妥当な内容といえるが、法人化後の各大学は、外部人材を登用して学習を重ね、国内企業に対する3項目に関する対応はほぼできつつあると言える

肝心なことは、企業の産学連携の責任者とのパイプをつくっておくことである。ある企業に年末の訪問を申し込んだ際に、「目的は何か」と質問があった。「年末のご挨拶です」と告げると、「大学の先生が年末年始のご挨拶に見えるなんて、これまで聞いたことがない」といって驚かれた。その際に責任者とお会いできて、当然のことながらその後の良好な展開に大きく寄与することができた。

企業幹部とのコミュニケーション

これを国際産学連携に当てはめると、まずは大学の知名度を上げることが第1歩である。展示会や学会などの機会を見つけて、積極的に企業の幹部にPRすることである。また、一点突破による関係構築も効果的であるが、その場合は相手先企業の経営幹部とのコミュニケーションが必須となるため、適切なリエゾン機関の活用も考えられる。また、学学連携を通じてその国の企業に認知度を高める方法もある。いずれの場合でも、教員個人に依存するのではなく、スタッフ等による積極的なコーディネーションが必要である。

一方、学内の知財管理や契約などの事務処理体制を並行して整備することになる。これに関しては、相手国の法律や商慣習について勉強し、適切な判断と処理ができるようにすることで、語学の問題以外は国内企業対応のそれとなんら変わらないと言える。

国際産学連携推進は、新会社を設立して市場開拓しながら新事業展開するのに似ている。まずは、お客さまに会社と人を知ってもらうことが先決である。コミュニケーションの機会を多く持ち、お互いの信頼関係ができて初めて商談に結び付く。また、運良く試作依頼が来たら、適切な対応によりニーズに100% 応えられる品質保証体制の整備が必要である。

先のグラフの比率にこだわることなく、一歩一歩実績を積み重ねることであり、信頼関係を構築することが、効果的な産学官戦略展開事業につながるものと確信している。