2008年10月号
単発記事
鳥取県の知的財産への取り組み

長谷川 奈美 Profile
(はせがわ・なみ)

鳥取県商工労働部
産業振興戦略総室
産業開発チーム

鳥取県は平成18年4月「鳥取県知的財産の創造等に関する基本条例」を制定し、普及啓発に重点を置いたセミナーやシンポジウムを開催してきた。知財に関する相談件数が増える一方、独自の知財管理規程の策定を目指す企業も出てきた。

はじめに

鳥取県の産業はその大半が製造業であり、中でも製造品出荷額に占める「電子・電気」の割合が約5割と全国的にも高い値を示している。特に、電子部品は国内外のメーカーに供給され、世界中のハイテク電子・電気製品の生産に不可欠なものとなっている。

ところが一方では、県内には小規模な中小企業が多く、大手企業の下請け構造となっていること、素材移出型構造となっていることも事実である。特に、独自技術を有しながらも知財への認識不足等によりせっかくの技術力が収益に結び付いていない実態もあるなど、知財の活用や創出も活発とは言えない状況であった。

そのため、まずは知財を尊重する風土をつくり、最終的には知財を活用することで県民に豊かな生活を実感してもらうことを目的に、平成18年4月に「鳥取県知的財産の創造等に関する基本条例」を制定、翌5月には日本弁理士会と事業連携協定を締結し、さまざまな事業に取り組んでいるところである。

鳥取県の知財への主な取り組み

まず、「知的財産初級セミナー」「とっとり知的財産まつり」といった普及啓発に重点を置いたセミナーやシンポジウムを開催してきた。それに合わせて「(鳥取県版)知的財産ポータルサイト」の開設やラジオ番組の活用による情報発信により、県民の大半が抱く「知的財産」という単語へのアレルギーを取り払うことに専念した。さらに、セミナーについては、個人発明家、企業者など対象を細分化したり内容を修正しながら、より有効なカリキュラムを目指しているところである。例えば今年度始めた「知財ゼミ」(写真1)では、これまで通常のセミナーに参加しなかった企業担当者や研究者が加わったことで、高度で実践的な議論が展開されている。単なる普及啓発にとどまらず、目的意識の高い人たちにとっても有用な道筋の構築に努めたいと考えている。

知財ゼミの様子

写真1 知財ゼミの様子

また、これまで本県に事務所を開設していた弁理士は1名のみであったため、東西に長い本県を十分にカバーすることは難しかった。特に、県外事務所に業務委託することさえできない経営資源の乏しい中小企業にとっては、身近な弁理士事務所の存在が強く望まれていた。さらに、知財施策を推進することで知財の創出が活発となれば、なおさら弁理士の拡充は重要課題となる。そこで、全国から県内に事務所開設を希望する弁理士を募集、平成20 年1月より新たな弁理士事務所を開設することができた。これにより、専門分野の幅も広がり、無料相談会等の質、内容は充実してきている。

これらの事業の効果をさらに高めるため、「鳥取県知的財産マネジメント委員会」「鳥取県知的財産活用促進実務者会議」を設置し、検討を進めている。

今後の課題

このような取り組みにより、相談件数の増加や、独自の知財管理規程の策定に取り組む企業も出てくるなど、確実に成果は出てきている。しかしながら、今後も引き続き知財活用を推進していくには、日本弁理士会との協定終了後も、県として自立した取り組みを行える体制構築が必要である。人口最少県だからこそできる産学官の密接な連携を強みにして、条例の目的達成のため邁進(まいしん)していきたい。

1. 条例制定までの経過

条例制定当時、知的財産基本法の成立や商標法の改正など、国では知財活用の推進に取り組んでいた。本県も県内経済の停滞に危機感を抱いていたところであり、この「知的財産」が産業振興の突破口となるかもしれない、と考えたのである。平成17 年5月より県庁内での検討会議を開始。同年7月には、企業経営者や弁理士、大学教授らで構成する「鳥取県知的財産戦略策定委員会」を設置し、計3回にわたり開催した。委員会での要因分析と提言を基に、「とっとり知的財産活用プラン」の策定へ向けての検討を行うと同時に、条例の原案を作成し、平成18 年2月議会へ提出。無事可決され、平成18 年4月1日の制定となった。

2. 条例の概要

本条例では、「産業界」「大学等高等教育機関」「金融機関」「行政機関」(以下「産学金官」という)、そして「県民」という各主体の役割を規定し、産学金官だけでなく、県民一人一人が知財に対する正しい知識と認識を持ち、積極的に役割を果たしていくことを掲げている。各主体の具体的な役割は、次のとおり。

[1]県民
知財に関する理解を深め、風土づくりに貢献すること
真正な製品や役務の購入等
[2]事業者
知財活用による事業活動の高付加価値化
ノウハウの流出防止などによる、県内産業への信用向上等
[3]大学等
知的財産教育
県内企業への技術移転等
[4]金融機関
知的財産を活用した事業化に向けたコーディネート・資金供給等
[5]県
知財を意識した活動を行うことができる風土づくり(人材育成・意識啓発)
知財保護のための体制づくり
独自技術を活用した県内産業活動の支援
県による有益な知的財産の創出等

なお、県民を念頭においた条例のため、文言は分かりやすくかつ義務を押しつけるイメージとならないよう配慮した。また、県有知財の取り扱いの透明化を図るため、職務発明規定も盛り込んでいる。