2008年10月号
連載2
大学発特許から見た産学連携(後編)
大学発特許に登場する発明者たち
顔写真

金間 大介 Profile
(かなま・だいすけ)

文部科学省 科学技術政策研究所
研究員


第2回目の今回は、大学発特許に登場する「発明者」に焦点を当てる。

大学発特許を創出する発明者の実態

図表1 に、モデル大学とした3 大学の特許に登場する発明者数の推移を示す。前編で示したように、3 大学の出願件数は堅調な増加傾向を示しており、それに伴い発明者数も増加している。その増加要因となっているのが新規参入発明者の増加である。ここでいう新規参入発明者とは、前年までは発明者として登場しておらず、その年に初めて発明者となった研究者のことで、ここから毎年どれだけの研究者が大学発特許に参入しているかがうかがえる。本調査により、各大学とも、図表1に示した各年の発明者総数のうち、50 ~70%が新規参入発明者であることがわかった。これは、それだけ毎年多くの研究者が大学発特許に参入していることを示している。大学の知財部門やTLO、産学官連携コーディネーター等の知財関係者の努力の成果が現れている。

各大学発特許に登場する発明者数の推移

図表1 各大学発特許に登場する発明者数の推移

どのくらいの大学教官が発明者となっているか?
東北大学発特許に登場する582名の発明者としての登場回数別の人数分布

図表2 東北大学発特許に登場する582名の発明
     者としての登場回数別の人数分布

ただし、ここでの最大のポイントは、前述した発明者のほとんどは企業関係者(あるいは一部ポスドクや学生)であるということである。そこで次に、発明者全体のうち、大学にファカルティとして籍を置く大学教官に絞り、彼らの発明者としての傾向を見てみよう。本調査により、筑波大学:263 名、広島大学:235 名、東北大学:582名の大学教官が発明者として抽出されている。この割合は、発明者総数の1割にも満たない*1図表2 は、東北大学の582 名を例に、発明者としての登場回数別分布を見たものである。全体の約半数が1 回から3 回までの発明回数となっている。以上から言えることは、先に述べたように、関係者の努力により新規参入発明者数は増加しているものの、まだまだ「発明のリピーター」は少ないということだ。

参考までに、今回調査した3大学の、発明者として登場する大学教官数と、2006 年時点で大学に所属する全大学教官数を図表3に示す*2。3大学とも、発明者割合は約15~20%程度の範囲内に収まっている。当然、大学には人文社会系や基礎科学など、研究の成果が特許には結び付きにくい研究を行っている研究者も多くいるため、この割合が今後、大幅に増加することは予想しにくい。これまで関係者の努力によって新規参入発明者は堅実に増加してきたが、今後、さらに大学発特許の質を高めていくためには、まだ特許出願経験の浅い研究者たちを、「発明のリピーター」として定着させる必要があるだろう。

各大学発特許に登場する発明者のうちの大学教官数

図表3 各大学発特許に登場する発明者のうちの大学教官数

発明の一極集中の緩和と多様化する大学発特許

図表4 に、東北大学における発明回数の違いによる人数分布と各グループからの出願件数割合を示す。これを見ると、発明回数が11 回以上の研究者(紫色)が全特許出願の約85%を占めていることがわかる。すなわち、発明回数の多い研究者がかかわった特許が、全体の大部分を占めるという構図になっている。これは、調査した他の2 大学についても同様に見られる傾向である。

東北大学における発明回数の違いによる人数分布と出願件数割合

図表4 東北大学における発明回数の違いによる
     人数分布と出願件数割合

しかし、各大学とも新規参入発明者が増加することによって、その"一極集中" は徐々に緩和している。法人化後の2006年単独のデータからも、特許出願数全体に対する発明回数上位者の占有率は減少していることがわかる。今後、さらに新規発明者が増加し、教官の世代交代も進むにつれて、"発明者の一極集中" はさらに薄れていくと思われる。さまざまな研究者が発明者として特許の創出にかかわるようになれば、大学から発信される特許の技術領域も多様化することが期待される。

*1
これは調査した3大学ともに共通に見られる現象で、実態としては、大学発特許1件当たり平均して4名程度の発明者が含まれているので、そのうち1名は大学教官で、その他は企業関係者(一部ポスドクや学生等)という構図が考えられる。しかも、産学連携活動を活発に行う大学教官は、複数の企業と共同研究等を進めているため、1人の大学教官に対し、多くの企業研究者が発明者として抽出されることになる。

*2
発明者数は調査対象期間の途中で転籍や退官等で異動した教官も含んでいる。一方、全教官数は、あくまでも2006年時点での所属数なので、両者の比較には注意を要する。異動した教官も含めると全教官数は、さらに大きな値となることが予想される。