2008年11月号
連載3  - 起業支援NOW-インキュベーションの可能性
島屋ビジネス・インキュベータ
自治体職員のための「創業支援」入門講座
財団法人大阪市都市型産業振興センターが運営する島屋ビジネス・インキュベータ(大阪市此花区島屋)は、わが国におけるビジネス・インキュベータ(新事業支援施設)の草分けの1つで、18年の歴史がある。成果も挙げており、関係者から注目されている施設である。農本所長にその運営方針の基本を分かりやすく解説していただいた。

創業間もない企業に、安い賃料スペースやさまざまな支援サービスを提供して成長に導くのが、ビジネス・インキュベータ(新事業支援施設)だ。わが国では、公的機関(国、地方自治体、第三セクター、商工会議所等)によって整備されたものだけでもおよそ400施設(経済産業省ホームページ)。その草分けが、財団法人大阪市都市型産業振興センターが運営する島屋ビジネス・インキュベータ(大阪市此花区島屋)である。供用開始は18年余り前の平成2年7月。

公的な施設だけでも全国に約400というのは、少ない数ではない。各地に広がってからでも十年余り経つ。しかし、ビジネス・インキュベーションという考え方、その施設のインキュベータ、そしてその役割はどれほど知られているのだろうか。米国から移入した、この地域の創業・起業支援施策は日本に定着しつつあるのか。


夢がないと入れない
写真1

写真1 島屋ビジ
     ネス・インキュベータ
     農本良浩 所長

島屋ビジネス・インキュベータの農本良浩所長(写真1)を訪ねた。

——創業期にある企業、これから起業しようという人が、この施設に関心を持つきっかけは何ですか。どうすれば入居できるのですか。「ビジネス・インキュベーションといっても中小企業にはほとんど知られていない。島屋ビジネス・インキュベータという個別の施設となったらなおさらだ。大阪の起業家で知っているのは3%とか5%といったところだろう。知っているといっても、公設の部屋貸しという理解。だから『賃料安いんでしょう?』と聞かれる。彼らが関心を持つもう1つの理由は、『大阪市』の名前が使えたら事業に有利かもしれないということ。こういう起業家が来ても、われわれは『貸せません。ここは夢がないと入れないんです』と断っている」

ここまで話すと、農本所長が施設案内のA4サイズのチラシを持ってきてくれた。表に「ビジネス・インキュベータは創業・起業家の夢の実現を支援」と大きく印刷されている。「あなたは明確な夢を持っていますか」――入居を希望する起業家はまず、この問いかけに答えられなければならない。

意志の強さを確認

島屋ビジネス・インキュベータは、米シカゴのフルトンキャロルセンターと いう施設がモデル。次世代産業育成を目標に、大阪市が準備に5年をかけた。 現在、創業期にある「研究開発型企業」「新分野開拓を目指す企業」を産学官の ネットワークでバックアップしている。

入所企業に対し法務、技術、財務など経営に関するさまざまなことに対して支援するのがインキュベーション・マネージャー(IM)。島屋ビジネス・イン キュベータには、経営に関するIMと技術のIMがいる。損害保険会社出身の農本所長は経営IMだ。

入所を希望する企業があると、農本所長らが経営者から2時間ほど話を聞 く。まず、人をみる。「ベンチャー? やめたらどうですか、経営は甘いもんじゃないですよ」「あなた、資金を持っていますか。研究開発はお金かかりま すよ。あなたや奥さんの実家はお金ありますか、友人は持ってますか? ・・・」

10- 15枚の申請書類はあるのだが、それよりも、その人の意志の強さを確 認するわけである。これがいわば一次審査。これを通ると、書類の書き直し、 場合によっては再々修正をしてもらい、翌月、外部の識者5人(大阪市立大学 教授(前副学長)、大阪市立大学元工学学部長、大阪市立工業研究所理事長、大 阪中小企業投資育成株式会社部長、経営コンサルタント)による審査に臨む。

ここでも、相当厳しい質問が出るという。「インキュベーション・マネー ジャーが財務の面倒を見られるならば・・・」と、条件付きでOKになることも少 なくない。

支援を受けると育つ企業が対象

農本氏によると、創業企業はインキュベータの「支援」の効果によって3つのタイプに分かれる。

[1] 支援を受けなくても育つ
[2] 支援を受けることによって育つ
[3] 支援を受けても育たない

[1]は入れない。施設によってはこうした優良な企業を入所させているが、それはインキュベータの本来の目的とは違うという。[2]が中心となるが、[3]も可能性があれば排除しない。

売り上げが1億とか2億円の規模になると、卒業基準に照らして同施設を出て自立していく。18年間に、同施設を卒業した企業は78社。その83%が存続している。「インキュベータの成果は卒業企業によって決まる。学校と同じだ」

経営者の顔色を見てコミュニケーション

鍵を握るのはIM。企業に生存する要件を身に付けさせ、通常なら10 年かかる成長を5年で実現させることがIMの仕事。入所企業の経営者の顔色を毎日見て、マンツーマンのコミュニケーション。ほんとにちょっとしたことでも相談に乗り、アドバイスする。うるさいほど声を掛け指導する。「嫌われても構わない。出て行くときに喜んでもらえればいい」が信条だ。

島屋ビジネス・インキュベータは、JANBO(日本新事業支援機関協議会)でIM養成研修を受けた人のうち67人の実地研修を受け入れてきた。今年は40人中18人が通っている。歴史があるだけでなく、その運営方法も注目されていることを物語る。

農本氏に、他のインキュベータをどうみているかを尋ねた。「ハードに偏っている。施設の運営がしゃくし定規。うちは実質入居期限はない。自立するまで居れる。いま22社入っているが、それぞれの企業が必要とする入所期間は違うはず。それに、『IMの目的は企業の売り上げを上げること』がどこまで認識されているか」

卒業企業が50社くらいないとインキュベータの成果は評価できない。わが国のインキュベータの真価が問われるのはこれからだ。

(本誌編集長:登坂 和洋)