2008年12月号
単発記事
独自に開発した吸着技術で創業
顔写真

泉 順 Profile
(いずみ・じゅん)

吸着技術工業株式会社
代表取締役社長


長崎県の吸着技術工業株式会社は、文字通り、吸着剤、吸着技術を基にした研究開発型のベンチャー企業である。揮発性有機物の分解装置や液体中の有害成分を分解処理する装置などを開発している。

吸着技術工業株式会社は2006 年1月、長崎県の大学等発ベンチャー創出事業を活用して設立した研究開発型の企業である。独自に開発した吸着剤、吸着技術を使用し、揮発性有機物(VOC)の分解処理装置や液体中の有害成分を分解処理する装置等を市場に提供するファブレス企業である。2008年10月現在、従業員8名、2007年度の売り上げは1億3,500万円だ。

大学と共同出願

会社は全額私が出資した。シーズの大半は私の技術である。三菱重工業株式会社(MHI)長崎研究所、東京大学生産技術研究所、財団法人産業創造研究所(2007 年に解散)を通じた約30 年間の継続的な研究開発生活から出ている。知的財産のかなりのものはMHI から出願しているが、最新のものは当社が独自に出願している。また当社は長崎大学森口勇教授と1件、九州大学三浦則雄教授と3件、それぞれ吸着剤および吸着装置の特許をTLOを通じて共同出願している。

当時、この技術は全く評価されていなかった。その理由は技術伝承が世界的にうまくいかず、教科書的なレベルでは魅力が無いと思われたため。しかし、私はより改良した技術構成であれば評価されると思っていた。会社設立前に以下に紹介する全品は、製品化段階にあった。当然大学との共同研究があり、オゾン吸着反応(ガス処理、水処理)は長崎大学田辺秀二准教授、同吸着剤開発は森口教授と実施した。

吸着技術の集積と体系化を目指す

事業を通じて吸着技術の集積と体系化を目指している。吸着剤としては、長崎大学、九州大学との連携の下にゼオライト、メソポーラスシリカ等のシリカナノ粒子の開発を進めている。吸着剤の開発は市場ニーズ、プロセスからの要求を基に計画され、ベンチャー企業の実力に応じた、短期、小規模な投資でできるように心掛けている。

一例として、セラミックスペーパーを使用した吸着剤のハニカム成型が挙げられる。従来のハニカムは、触媒成型品として開発されたことから、かさ密度の小さいものに限定されていたが、当社では高いかさ密度のハニカムの成型技術を実用化し、当社吸着装置のほとんどにこのハニカムを使用して好結果を得ている。

独自のシリカナノ粒子に吸着

当社の開発した吸着装置を紹介する

  【オゾン吸着反応を使用した揮発性有機物(VOC)の分解処理装置】
塗料工場で稼働中のVOC脱臭装置(MR-3600)

写真1 塗料工場で稼働中のVOC脱臭装置(MR-
     3600)

居住環境の悪臭、化学、塗料、半導体工場から排出されるVOC、農作物から放出されるエチレン等の有害成分を、オゾンとともにハニカム化した当社独自のシリカナノ粒子に同時吸着させて分解、無害化する装置である*1写真1は塗料工場で稼働中のVOC 脱臭装置で、排ガス量は3,600m3/h。

  【オゾン吸着反応を使用した液相有害成分の分解処理装置】

当社のシリカナノ粒子ハニカムでは、気相と同様に液相のオゾン吸着反応にも適用可能であり、生物活性処理装置の10倍以上の処理速度を有するコンパクトな装置を提供できる*2

  【ガス分離・精製装置】
VPSA-メタン回収・精製装置

写真2  VPSA-メタン回収・精製装置

大気圧条件で吸着力の強い成分を吸着して、弱吸着成分を分離し、飽和 した強吸着成分を真空条件下離脱して、吸着剤を再生する真空圧力スイング法(VPSA)を採用し、ハニカム成型した当社独自の吸着剤を使用するこ とで広範なガス分離に適用している*3。バイオガス10m3N/h から、都市ガス並みの純度のメタン約5m3N/h を回収できる(写真2)。

資金、人材確保が課題

以上のように、独自の吸着剤、吸着技術を使用した吸着装置の研究開発、設計、製作(外部委託)、納入の事業を行い、当初のもくろみに沿った展開が図られてきたが、大学等発ベンチャー企業であるが故の次のような課題が山積しており、これらを1つ1つ解決する必要がある。

  【経営能力を持ったパートナーの確保】

当初、共同経営を目指した商社OBの友人が、設立3カ月目で他界の不運もあり、現在も模索中である。的確 な将来予想に基づく事業計画の設定が非常に重要。

  【運転資金の確保】

当初は事業規模が小さく、いざというときも自己資金で対応しようと考えていたが、業容拡大とともに資金力を強く要求されるようになった。幸い、2007 年3月に中小企業庁の新連携プロジェクトの コア企業となったため、政府系金融機関の融資が受けられた。

  【人材の確保】

地方で研究開発型ベンチャー企業を起こすことが可能かについては、答えは出ていない。優秀な人材の確保は難しく、研究開発部門だけは大都市に置かざるを得ないのかも知れない。

大学等発ベンチャー企業は、大学の研究成果の受け皿として期待されてつくられたが、成功例が少ないと聞いている。当社の事業に対しても自問自答しながら、何とか成功に結び付けたいと希望している。

*1
2007年度環境省の評価プロジェクト対象製品となっており、本製品にはETV(Environmental Technology Verification)のロゴの使用が許可されている。

*2
本反応を使用すると、アンモニアをオゾンで短時間のうちに窒素に分解できることから、養殖用(含む蓄養)水槽の海水浄化装置としての使用が開始されており、既に15基を市場に供給している。この結果を受けて、本年度、化学工場等から放出される難生物分解性化合物の分解への適用も試みられており、現在、テスト機による検証を実施中である。

*3
当社では、a)空気からの酸素製造装置、b)NOx、SOx、硫化水素などの酸性ガスの除去回収、c)バイオガスからのメタン回収・精製等に既に実用化しており、特にメタン回収・精製では7台の納入実績があり、バイオマスの有効利用促進の技術として、引き続き、高効率化、信頼性の向上、スケールアップに傾注している。