2008年12月号
連載  - 起業支援NOW-インキュベーションの可能性
盛岡市産学官連携研究センター
盛岡市が3タイプの施設で「起業」を支援
盛岡市は地域での創業支援、産業活性化を進めるために3タイプの施設をそろえている。6年の歴史を持つ産業支援センターは、小規模の企業を対象にしたプレ・インキュベーション施設。平成19年8月にオープンした産学官連携研究センターは、岩手大学との連携を軸とした本格的なインキュベーション施設。さらに、平成20年5月、貸し工場の新事業創出支援センターを開設した。

盛岡市上田の岩手大学構内にある「盛岡市産学官連携研究センター」(通称:コラボ MIU)(写真1)は平成19 年8月のオープンから1年余りが経過した。

盛岡市産学官連携研究センター

写真1 盛岡市産学官連携研究センター

入居する企業の研究開発や販路開拓を支援するのが主な業務。いわゆるビジネス・インキュベーターだ。開設したのは同市である。建物のなかには、実験室タイプとオフィスタイプを合わせ34 室と8ブースがあり、現在、19 の企業が26 室と2つのブースを利用している。マイクロアクチュエータという超小型の「モーター付き動力装置」で知られる株式会社アイカムス・ラボも入居している。

言うまでもなく同センターは岩手大学との連携をベースにした施設で、入居対象者は同大学と共同研究を実施する者、または同大学の研究成果を基に新技術、新製品の研究開発を行う企業、個人である。同センターは岩手大学の地域連携推進センターに隣接し、2階部分で行き来できるようになっている。

広域圏では組み込みソフト、IT産業育成に力

同じくらいの規模の地方中核都市と比較して、第三次産業の比率が高い盛岡市にとって、工業振興は大きな課題。重点施策の1つという。盛岡市の広域圏では組み込みソフト、IT産業の育成に力を入れている。

「市は地域企業を支援する3種類の施設を持つことになった。平成14 年にスタートした盛岡市産業支援センター(同市・大通)はSOHO(小規模事業所)タイプの事業所を対象にしたプレ・インキュベーション施設。盛岡市産学官連携研究センターは主たるインキュベーション施設。さらに、今年5月、市内飯岡新田に開設した盛岡市新事業創出支援センター(通称:M-tec)はいわゆる貸工場でポスト・インキュベーション的な位置付けである。企業の業態、規模、成長のステージなどの違いにより、市としていろいろな対応ができる」(及川隆・盛岡市商工観光部企業立地推進室)という。

6年目になる産業支援センターからはこれまでに31の事業者が卒業した。 当初はファブレス(生産設備を持たず、外部に生産委託している企業)も見 込んでいたが、実際の利用はデザイン、広告などの専門サービス業が多い。

お客さまに評価してもらう場をつくる

岩手大学は地方の国立大学の中では地元の企業、自治体との連携に熱心なことで知られている。しかし、産学連携の盛り上がりと、大学発ベンチャー企業の「経営」は別。ここでも、技術はともかく経営面の脆弱(ぜいじゃく)さは残る。今年5月には大学の教職員、大学発ベンチャー企業関係者を対象に、「企業経営」について講座(3回)を開催した。講師は盛岡市産学官連携研究センター、同産業支援センター双方のインキュベーション・マネージャーである関洋一氏。

起業世話人を自認する関氏は語る。「一般的に、ひとりで考えるより複数の知恵を出し合った方がいいのだから、素直に他人の話を聞いてもらう仕掛けをつくるのが私の仕事だと思っている。

起業した人、あるいはこれから事業を始めようしている人は自分の信念を持っているが故に、『独りよがり』の面も少なくない。また、自負心が邪魔して、他人の評価を恐れているということもあるようだ。

大事なことは、起業した本人が市場ニーズに気付くことだ。だから、問題点をインキュベーション・マネージャーが指摘するのではなく、より身に染みてもらえるよう、直接お客さまに事業や商材を評価してもらう『場』をつくることがインキュベーション・マネージャーの重要な仕事だと思う。そうすることによって、起業家がその事業の問題点、課題を本当に理解し、製品、サービスの質向上に結び付けられる。そういう方向に誘導するよう意識している」

学生との交流が入居企業に刺激

盛岡市産学官連携研究センターの担っている役割のひとつは、施設内に設けた交流スペースで産学官関係者間の意思疎通を図ること。

今年夏から「MIU CAFE」というインテレクチュアル・カフェを開催している。次のようなテーマだ。

第1回(8月28 日)「映像表現とウェブメディアの現在」
(ゲスト:本村健太・岩手大学教育学部美術教育准教授、株式会社クーシー)
第2回(9月11 日)「初心者向け・商標と特許のやさしい解説」
(ゲスト: 中嶋孝弘・岩手県知的所有権センター特許情報活用支援アドバイザー、岩手大学地域連携推進センター関係者)
第3回(9月18 日)「“動く” 高分子を利用する材料設計」
(ゲスト:芝﨑祐二・岩手大学工学部応用化学科准教授)

「映像表現とウェブメディア」というような珍しいテーマでは入居企業だけでなく、地域の企業関係者、学生など38人が参加した。盛岡市職員で岩手大学地域連携推進センターに事務従事している福士由岐洋氏は「意見交換は、学生と企業双方に得るところが大きい。特に、普段学生とざっくばらんに話をする機会の少ない入居企業のスタッフにはいい刺激になっている」と語っている。

(本誌編集長:登坂 和洋)