2009年1月号
特集  - 一極集中を打ち破れ 「愛」と「技術」が地域を救う
内発型産業振興に挑戦する花巻市
顔写真

佐藤 利雄 Profile
(さとう・としお)

花巻市起業化支援センター
総括コーディネータ


顔写真

佐藤 亮 Profile
(さとう・りょう)

花巻市起業化支援センター
主任コーディネータ


インキュベータの先駆けとして全国をリードしてきた花巻市起業化支援センターは、平成8年の設立から12年余りが経過した。これまでの入退所企業は40数社。「投資利益率」をはじいてみると、平成21年が分岐点で、総コスト(同施設の建設費と毎年の維持費の合計)と入退所企業からの税収(開設以来の合計)がほぼ並ぶ。22年度以降は税収の合計が総コストを上回る。

はじめに

平成8年6月に開所した花巻市起業化支援センターは、新規創業支援、産学官連携支援などを中心とした内発型振興の拠点施設、すなわち、インキュベータの先駆けとして、全国をリードしてきた。昨今、産学官連携支援の具体的な成果が強く求められている。設立から12年経過した当センターのこれまでの成果を振り返り、今後の取り組みについて紹介する。

支援活動の定量評価について

開所以来の入退所企業は40数社を数える。入退所状況について図1に示す。これらの企業について定量的な成果の1つとして入居中の新規雇用者数(研究室8室、貸工場棟22棟)を見ると、卒業企業も含め、延べ250人以上の新規雇用が創出されている。

入居卒業企業の施設使用料や売り上げから想定される税収等を試算し、日本新事業支援機関協議会(JANBO)のインキュベーション・マネージャー(IM)研修で活用されている成果創出概念図をもとに投資利益率(ROI)の推移を示したのが図2である。地方都市の旧花巻市(人口7万3,000人)が18億円強の建設コストと年間約5,000万円の維持費をかけ、徐々に人員も強化し「内発型振興」を推進した結果、平成21年が成果創出分岐点となる予定。つまりセンターから生まれた税収等の収入が運営コスト+建設コストを合わせて総コストを上回り、財政的にプラスに転じることになる。

図1

図1 入退所状況(2008.4現在)

以上は直接的な効果であるが、これから述べるように2次的効果として、企業誘致や地域企業の経営革新に対しても貢献しており、ビジネスインキュベーション施策が地域振興に寄与する施策であることが証明されたと考えている。

当市の企業誘致においては、経済安定期(昭和50年代)やバブル経済期(昭和60年~平成3年)には30社を超える誘致を数えたが、バブル経済崩壊後の平成4年~10年の間にはわずか5社に落ち込む。このような状況の下、平成8年に「内発型の産業振興」の中核的な施設として花巻市起業化支援センターが開所し、多様性ある取り組みを推進してきた。その結果、平成11年度以降の誘致企業は30社を超え、再び増加に転じた。バブル経済の崩壊前後における誘致企業の特徴が、大手メーカー等の「加工組立型工場」から研究開発テーマを持った「中小企業」や企業の開発部門と変化が見られ、ここにおいて「内発型の産業振興」と「企業誘致」が地域経済の振興において両輪となり得る、というスキームが明らかになった。

研究開発型企業誘致事例

インキュベート活動に関連して研究開発型企業の誘致から育成までトータルな支援も行っている。その代表的な事例として東北デバイス株式会社の支援を紹介する。

図2

図2 成果創出概念図をもとに投資利益率(ROI)について

写真1

      写真1 花巻市起業化支援センターと
           花巻市賃貸工場



写真2

      写真2 花巻市ビジネスインキュベータ

平成13年5月、岩手大学から企業相談があり、青森県中泊町に本社をもつ株式会社エー・エム・エスの企画担当古川純也氏とお会いした。同氏は新規事業の調査で岩手県、山形県などへ訪れており、ソフト関係は岩手大学、白色有機ELは山 形大学の構想を模索していた。研究拠点をどこにすべきか迷っていたので、統括コーディネータが当センター入居を勧めた。6月に当センターへの入居申請があり、7月には貸研究室に入居している。

その後、統括コーディネータ、主任コーディネータより半導体関連の企業などを紹介し、平成14年4月には、白色有機ELの研究拠点として花巻市賃貸工場150坪に入居。

その後、サンプル出荷、セミコン・ジャパン出展などを経て量産化のめどが立ち、工場建設に動きだした。統括コーディネータも花巻での工場建設を要望したが、「スタート時は青森での雇用に貢献したい」との熱い思いから、花巻に現地法人として平成17年3月に東北デバイスを設立し、青森県六ヶ所村に東北デバイス青森工場を平成18年4月に竣工した。現在、海外も含めたユーザーへ出荷しており、ここ数年で株式公開も目指している。

まとめ

筆者らは10年以上コーディネート業務を行っているが、地域産業振興は1、2年では何ともならない。1つの新商品を市場投入するまでは数年かかるし、新商品のニーズがその地域に無いとすると新たな市場開拓を行わないといけない。筆者らの経験から新商品開発にかかる経費の3倍から4倍の経費が市場開発にかかる。つまり、物ができてもその物が商品として市場に投入されるまでは、さらに経費がかかることを理解しておかないといけない。

では、新市場はどこにあるのか。この情報を取り込むためには、他地域ごとの情報収集ができないといけない。筆者らは幸運にもJANBOのIM研修生とのつながりから、ほぼ全国とのネットワークが構築されている。コーディネート活動は地域での産学官連携も重要であるが、その成果を発信するためにも、全国のネットワーク構築が不可欠と感じている。


   ●花巻市の工業

近代工業は昭和20年に大手通信機メーカ「新興製作所」が東京都蒲田から工場疎開により、花巻市に立地したころから始まる。新興製作所は旧逓信省等との安定した取引により事業を拡大し、最盛期には社員3,000人を抱える大企業として地域工業会をリード。同社を頂点とする関連企業群(協力・下請け、スピンアウト群)は広く県内に拡大し、花巻地域を中心とする基盤系製造業の集積が大きく進展した。

昭和50年前後から県外資本の新たな立地が相次ぎ、多面的な集積構造へと進化し工業団地の整備が本格的になる。工業団地にはリコー光学株式会社(昭和49年)、松下通信工業株式会社(昭和59年)などが誘致され、産業政策は企業誘致にシフトされていく。

平成に入り、地域企業と誘致企業との乖離(かいり)(経営感覚、技術力等)が顕著になり、企業誘致だけの施策に新たな振興策を盛り込む必要があると地元工業クラブなどからの提言を受け、誘致企業施策と新規創業支援、産学官連携支援などを中心とした内発型振興を定義し、その内発型振興策の活動拠点として、平成8年6月花巻市起業化支援センターを開所した(出典:花巻市の工業振興施策 花巻市商工観光部商工労政課)。



【花巻市起業化支援センター他の概要】

花巻市起業化支援センターはセンターハウスと貸工場棟で構成される(写真1)。センターハウスには貸研究室8部屋(15坪)のほか三次元測定器や恒温槽などを貸し出す開放試験室を設置している。貸工場棟には30坪3棟、50坪7棟、100坪3棟を整備している。いずれも研究開発型企業、ベンチャー企業が対象。

平成14年4月には花巻市ビジネスインキュベータ(以下「BI」、写真2)と花巻市賃貸工場(以下「賃貸工場」)も開所している。BIは6つの部屋を都市型産業創業者に開放し、賃貸工場はポストインキュベーション機能を有し、100坪5棟、150坪4棟を備えている。

花巻市起業化支援センターを中心に花巻市ビジネスインキュベータ、花巻市賃貸工場の3つの機能を有機的に連動して花巻市の企業の支援を行っている。コーディネータはその連携を促進している。