2009年1月号
単発記事
東京大学のオンデマンドバス開発
~産学官連携で地域社会を元気にしよう~
顔写真

大和 裕幸 Profile
(やまと・ひろゆき)

東京大学大学院
新領域創成科学研究科 教授


オンデマンドバスは、利用者が好きな時間に希望する場所から場所へ行ける公共交通機関である。しかし、運行計画を熟練者の手作業に任せると運用コストが大きくなる。東京大学はこうした利便性と低コストを両立させるシステム開発し、実験を行う。

地方公共交通と地域社会の元気

いまや、わが国では個人の自由な移動の主役は完全にマイカーとなり、多くの地方で公共交通は衰退した。鉄道やバスが廃止された地域では、住民の移動はマイカー、家族による送迎、自転車、さもなければタクシーか徒歩しかない。運転や家族の送迎の不可能な高齢者は今後急増する。タクシーを毎日利用するには割高で、用務先は歩いて行けるほど近くない。

地方公共交通の衰退は、運行効率が悪く不採算なことが原因である。減便が利用者減を呼ぶ悪循環に陥った交通機関が最後に運ぶのは空気である。

個人のニーズに適合する移動手段があれば、日常の用務や買い物、通院など、さまざまな活動が無理なく行え、地域の人々とのつながりも再生し、地域社会の元気が復活するだろう。

利用者が希望する場所から場所へ

オンデマンドバスとは、利用者が希望する場所から場所へ、好みの時間に利用できる自動車交通である。乗り合い形態で運行するので、利用者の希望を満たしながら運行効率の高い公共交通機関となる。しかし、ランダムに発生する利用者を乗り合いの形で乗車させ、大幅な待ち時間・遅れなどを生じない運行計画を実現するのは難しい。運行計画を熟練者の手作業に任せると運用コストが大きくなり、採算性を満たさない。

東京大学では、このような利便性と低コスト運用を両立するオンデマンドシステムを研究開発した。

予約に最適なバスを選ぶ

開発したシステムでは、予約(乗降場所、出発または到着日時と乗車人数)を受けると、その予約に最適なバスを選び、その車両の運行計画に新しいルートを挿入して、予約者・車両への連絡までを自動で行う(図1)。予約は基本的に利用者がインターネットや携帯電話で行い、車両への連絡も専用の小型車載端末で行いオペレーターを必要としないので、予約受付・運行管理にかかる人的コストは最小限に抑えられる。運行システムは計算機上に構築するので、複数地域で同様のシステムを運用する際もそれらのシステムを1カ所で管理でき、各地域のコストを大幅に軽減できる。

実証実験
図1

     図1
          東大オンデマンドバスシステムの構成

本システムについては、2005年から数回の実証実験を東京大学柏キャンパスのある千葉県柏市北部や長崎県雲仙市で行っている(写真1)。現在は2008年10月1日から半年間の予定で、小型バス1台とタクシー車両を数台用いて実験している。また、柏市と雲仙市以外の5つの市町村でも本システムを使ったオンデマンドバス実験が今秋より始まっている。柏市も含めたこれらの実験では課題点を洗い出し、今後の実用化に備える予定である。また、近い将来には海外での実験も考えている。

オンデマンドバスの効果
写真1

          写真1
              オンデマンドバス実験車両(柏市)

このような新しい公共交通機関が普及すれば、過疎化・高齢化地域にも安定した移動手段が提供されることになる。これは取りも直さず導入市町村の活性化に大いに寄与し、移動の制約をはじめとする社会問題のソリューションとなる。全国5カ所で実証実験を行っているが、電気バスやBDF(Bio Diesel Fuel:使用済み天ぷら油を改質したディーゼルエンジン用燃料)車両を用いるところもあり、いずれもCO2排出量低減が期待できる。また、オンデマンドバスはそもそも従来の路線交通よりも乗車効率が良く、マイカーからの乗り換え需要も期待されるから、燃費・施設利用効率の面からも環境負荷軽減に効果的である。さらに、オンデマンドバス利用者の移動状況を分析すれば、効率的な都市機能再配置などの都市安全安心設計に役立てることができる。

おわりに

本実験は、独立行政法人科学技術振興機構(JST)のCREST研究のテーマ「先進的統合センシング技術の創出(統括:板生清・東京理科大学専門職大学院総合科学技術経営研究科教授)」の一課題である「安全・安心のための移動体センシング技術(代表:佐藤知正・東京大学大学院情報理工学系研究科教授)」において実施している。大学(研究・開発)、企業(システム実装)と運輸事業者(運行)、そしてシステムの主役である地域の利用者と自治体、これらが有効に連携することで産学官連携の生み出す新しい地域公共交通が発展するだろう。

柏市での実験は2009年3月31日(平日のみ)まで無料で行っており、多くの見学者も訪れている。