2009年1月号
連載1  - 起業支援NOW-インキュベーションの可能性
さがみはら産業創造センター
ワンストップの多様な企業支援
神奈川県相模原市にあるビジネス・インキュベーション施設「さがみはら産業創造センター」は開設からほぼ10年。インキュベーション・マネージャーは常勤8人で、全国的にみても高く評価されている。しかし、起業家の創出・支援にとどまらず、入居企業以外の地元企業のさまざまな相談に対応したり、人材育成活動にも力を入れている。

写真1

         写真1 さがみはら産業創造センター

「さがみはら産業創造センター」(神奈川県相模原市西橋本)(写真1)は2008年8月末、トヨタ式業務改善方式「カイゼン」に関するコンサルティングを業務としている株式会社カイゼン・マイスター(小森治代表取締役、同市東橋本)*1と提携し、共同で地域企業に対する経営合理化の支援を始めた。

同センターがカイゼン・マイスターと連携して行う地域企業支援活動の柱は[1]品質・原価・納期など生産工程の合理化 [2]在庫管理および物流 [3]人材育成——の3つ。集団研修を通じて各企業の現場の指導者を養成する人材育成プログラムを中心に据えているのが大きな特徴だ。この研修で、カイゼンのノウハウを習得し、参加企業の事例を学び合う*2

常勤インキュベーション・マネージャーは8人

さがみはら産業創造センターはビジネス・インキュベーションの世界では広く知られ、評価の高い施設の1つである。現在、製造業を中心に60社が入居している。大企業のスピンアウト組が多いようだ。インキュベーション・マネージャーは常勤で8人と多い。担当制で1人が数社の入居企業の支援をしている*3

施設がオープンしてほぼ10年。大企業をスピンオフして1人で起業し、売り上げが数億円規模にまで成長した企業も多数生まれている。

同センターは相模原市と中小企業基盤整備機構が大半を出資する株式会社(社名:株式会社さがみはら産業創造センター)組織で、会社設立は1999年4月。最初の拠点施設「SIC-1」を2000年3月、その2年後に隣接地に2つ目の施設「SIC-2」をそれぞれオープンした。

しかし、前述の「カイゼン」支援活動に見られるように、同センターの業務は一般的なインキュベータの枠に収まらない。起業家の創出・育成、新規創業者への支援に加え、入居企業以外の地元企業のさまざまな相談に対応したり、人材育成や産学連携活動にも力を入れている。つまり、地域企業にとっては多様な経営支援をワンストップで受けられると同時に、同施設は地域企業の交流拠点にもなっているわけである。

「当センターはインキュベータとしては珍しいサービス内容。ほとんどの自治体では地域企業への支援・相談窓口となる機関がインキュベータとは別になっている」と山本満専務取締役はいう。

研究会で産学連携
写真2

       写真2 職場リーダー養成塾の一場面

同センターは人材育成にも力を入れている。経営塾、職場リーダー養成塾(写真2)、経営者セミナー、子どもアントレプレナー体験事業、SICアントレ・インターンシップ(大学生、大学院生、専門学校生が企画運営)などを定期的に実施している。

産学連携も売り物の1つ。「プリント基板・実装・半導体パッケージおよび表面処理技術」に関する研究会を主宰し、入居企業、地域企業が連携してプリント基板の実装不良などの課題に取り組んでいる。先端技術を持つ入居企業と製造技術や販路を持つ地域企業が連携し、新製品や新技術を開発しようとする試みは、インキュベーションセンターならではの取り組みだ。このほか「SIC燃料電池研究会」を設け、燃料電池システムやその周辺機器・部品の低コスト化、低電力化、ダウンサイズ化を目的とした産学官の共同開発支援を進めている。

さらに、地元の女子美術大学などと組んで、製品やサービスのアイデアやデザインなど「デザイン開発」に関する相談に乗っている。「FRP(繊維強化プラスチック)材の新しい用途を開発したい」という企業の相談に対しては、大学・デザイン業者を対象にコンペ方式で提案を募った。女子美術大学、多摩美術大学の学生や若手デザイナーなどから玩具、文具、家具、照明機器、建材など40点余りの提案があり、社内に大きなインパクトをもたらしたという*4

背景に産業構造、都市機能の変化も

インキュベーターの同センターが、なぜ地域企業への総合サービス機能を持つようになったのか。企業のニーズ、あるいは時代の要請もあるだろう。自治体の施策の方向性にもよるし、インキュベーション・マネージャーを含め施設の役職員の資質に負うところも大きいだろう。

同センターの場合、当初から計画していたことではなく、ニーズに応え、サービスの見直しを続けた結果、今日に至ったようだ。

同市は人口70万人余りで、2010年に政令指定都市への移行を目指している。東京のベッドタウンである。製造品出荷額は約1兆5,000億円(2006年度)で、市町村別で全国26位。神奈川県内では3位だが横浜市や川崎市のおよそ3分の1である。業種でみると、一般機械が35%、次いで輸送機が15%を占める*5。しかし、日本経済のグローバル化、生産拠点の海外シフトによる産業の空洞化で同出荷額は落ち込み、平成の初めに比べ25%ほど低い水準だ。

戦後の首都圏の工業立地政策の基本は、既成市街地の工場群を首都圏内の「工業衛星都市」やその他の周辺地域へ分散させることだった。同市は、1955年に「工業立地」を旗印に工場誘致条例を制定し、膨張する京浜工業地帯の受け皿を目指した。首都圏整備法は1965年に改正され、首都圏の範囲が1都6県全域に拡大し、「工業衛星都市」という概念が有していた拠点性が大幅に後退。首都圏の平野部のほぼ全域に工業立地が導かれた。その後、自治体の誘致合戦が続いている*6

こうした都市構造の変化も、同センターの機能を拡大させた1つの要因だろう。複合的な都市機能が要求される大きな都市における地域産業支援の1つのモデルといえる。

(登坂 和洋:本誌編集長)

*1
カイゼン・マイスターは同市に本社を置くセントラル自動車株式会社(トヨタ自動車株式会社の生産子会社)のOBが設立した会社。

*2
2008年9月24日に「トヨタ方式カイゼン活動入門編」と題したセミナーを実施した。参加企業の中から精密測定装置メーカーなど6社が支援を希望。10月から個別の相談・診断、集合研修を組み合わせたコンサルティングを行っている。集合研修では6社の工場を全員で見学し、相互に改善点を指摘し合い、カイゼンのレベルアップを図る。

*3
孤独な起業家の良き相談相手になり、また、人材、技術、知的財産、販売開拓などの課題には公認会計士や弁理士などの専門家と協力して取り組む。その他投資事業、連携事業、人材育成事業なども併せて担当している。

*4
その他、腰痛軽減簡易装着型自動車シートなど最終製品のデザイン、あるいはPR用グッズ、会社案内パンフレットなどを含め年間10件ほどの相談に応じ喜ばれている。

*5 :平成20年度 相模原市産業の概要
http://www.city.sagamihara.kanagawa.jp/keizai/sangyo/tokei/gaiyo.html

*6
宮川泰夫;山下潤編著.地域の構造と地域の計画.ミネルヴァ書房, 2006.