2009年2月号
巻頭言
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白井 克彦 Profile
(しらい・かつひこ)

早稲田大学 総長




新しい人材育成の道をつくろう

大学は、未来の社会を築くことに役立ってくれる人々を育てることが使命である。そして、社会を実際に動かし、その働きを持続発展する役を担う産業界がその人々を受け止めて活躍の場をつくる。そのことは今も昔も変わらない。しかし、それが単純な人材の引き渡しではなくなってきたのは、終身雇用制による産業界が、従来のOJTによって人を育成する方法を大幅に変えつつあることから分かる。産業そのものが多種多様になり、さらに1つの企業における仕事も大変多様で複雑になると同時に、変化も激しくなった。そこでは、結局さまざまな仕事に容易に対応でき、創造的に仕事を遂行できる能力を持つ人が強く期待されている。

他方で少子化が進み、同年代の約半分が大学に進学する時代になった。大学は今や、新入生の学力について、大きな危惧(きぐ)と不安を抱えている。従来は入学試験によって、新入生の学力はある程度確保され、どの大学にも入試があることで高校生は相当な勉強をせざるを得なかった。全入状態は、推薦入学制度とともにこの構造を破壊した。一層重要なことは、この構造破壊は理数系の人材育成に根本的な影響を与えたことである。小学生や中学生には理科好きはたくさんいる。大学受験と将来の仕事を考えたとき、理科離れするのは流行のようでもある。確かに、数学や物理は多くの学生にとって、トレーニングに時間を要することは事実である。

それでは、このような現実に立って、大学教育、とりわけ理工系人材育成をどうしたら良いか。妙案はあるのか。

第1は、大学と高校が大学院生も一体になった新たな高大連携を図ることである。以前の受験勉強ではない教育体制が可能になる。また、現実的には、理工系大学は新入生と卒業生の基本知識と能力をテストすべきである。

第2は、産官学連携に関するものである。日本の高等教育の大きな欠陥は、数少ないほんの一部の国立校を除けば、社会からの教育投資が極めて貧弱なことである。従って、この不足を補い、しかも産学の期待する人材育成のためには、産官から適切な費用とインターンシップなどの機会を十分に供給する必要がある。産官学が綿密な計画を準備すれば、これは可能である。大学も学生に、研究ができるとか要領の良いレポートが書ける能力を付けさせるだけでなく、産業界そして社会を現実に動かせる力、問題意識を持たせるカリキュラムを協同してつくるべきである。

第3は、個人の力を継続的に発展させる仕組みである。

OJTにだけ頼るのではなく、自分の力をいろいろな手段で磨いていく機会が与えられることで、一生を自分の考えと力で開く努力の道が見えるようになる。