2009年2月号
単発記事
大学との連携による摩周湖での交通規制実験
顔写真

德永 哲雄 Profile
(とくなが・てつお)

北海道弟子屈町長



北海道弟子屈町は地元の釧路公立大学と連携して、町内にある摩周湖へのマイカー乗り入れを一定期間規制する交通実験を実施した。世界有数の透明度を誇る摩周湖や、釧路川の源流である屈斜路湖を擁する同町への来訪者は年間約80万人、車両は20万台を超える。このため、湖の透明度低下や周辺の木々の立ち枯れが見られるようになった。実験は、地域最大の産業である観光と、自然の保全の両立を探るのが狙いだ。

はじめに
写真1

写真1 摩周湖



図1

図1 弟子屈町ガイドマップ

北海道東部に位置する弟子屈(てしかが)町は、世界有数の透明度を誇る摩周湖(写真1)や釧路川の源流である屈斜路湖、現在もその活動を絶やさぬ硫黄山など、世界的景勝地を有する地域である(図1)。人口は平成20年11月末で8,602人、町内景勝地への来訪者は年間約80万人、来訪車両数も20万台を超え、観光が地域最大の産業となっている。

近年、摩周湖周辺の木々の立ち枯れや湖の透明度の低下が見られるようになってきた。湖の直近まで乗り入れられる大量の車の排気ガスがその一因ではないかということで、摩周湖展望台までの車の乗り入れを規制することを求める声が出てきた。しかしながら地元の観光関係者からは、規制によって観光客が減り観光産業への打撃が出るのではないかという懸念の声も上がった。

観光へ影響が出れば地域経済にとっては大きな問題。貴重な自然環境の保全と観光業の両立をどのように図っていけばいいのかという大きな問題に直面することとなった。

このような中で、弟子屈町は地元の釧路公立大学地域経済研究センターとの連携により、また関係行政機関や地元住民の協力を得て、摩周湖において平成19年度、20年度の2カ年にわたり、一定期間マイカーの乗り入れを規制するエコ交通実験を実施した。

実験の概要

この実験は「環境にやさしい観光交通体系の構築に向けて」と題し、摩周湖への道路のマイカー交通規制や代替バスの運行、各種イベントの開催等を行った。

実験には町職員20名のほか、町民や高校生延べ226名、民間団体、交通事業者等から延べ100名がスタッフとして参加。まさに地域が一丸となって運営を行った。

代替バス利用者へ行ったアンケート調査の結果では、代替バスの総合評価について「満足」「やや満足」との回答が合わせて90%となり、中でも町民ボランティアバスガイドが大変好評であった。さらに、摩周湖への乗り入れ規制の評価にあっては「賛成」70%、「やむを得ない」が28%であり「反対」は2%であった。

釧路公立大学との連携

摩周湖の環境を守ろうという機運の高まりと、一方で観光客減少への不安の声がある中で、どのように実験を進めていけばいいのかについては、釧路公立大学と緊密な連携をとった。町の要請を受けて、釧路公立大学地域経済研究センターでは平成18年度から本町を対象に「自然共生型地域観光の展開に向けての研究」プロジェクトを立ち上げ、交通規制実験の連携支援とともに、環境問題に正面から向き合いながら観光地としての経済的価値を総体的に高めていく可能性、方策について、実証的な観光分析調査を進めていった。

平成19年度
事業名:
1) 摩周湖周辺におけるエコ交通整備検討に関する調査
実施主体:国土交通省北海道運輸局
2) 摩周・屈斜路環境にやさしい観光交通体系構築社会実験
実施主体:摩周・屈斜路社会実験実施協議会
実験期間:平成19年6月11日~17日
代替交通利用者:2,597人
乗車料金:500円
平成20年度
事業名:地域公共交通総合連携計画策定調査
実施主体:弟子屈町地域公共交通活性化協議会
実験期間:平成20年8月25日~9月7日
代替交通利用者:6,444人
乗車料金:700円
※代替バスには廃食油BDF燃料を使用。

調査研究の中心は、本町を訪れる観光者の消費実態分析と意識分析によって、環境を守りながら地域の観光消費を高めていく可能性を探っていくものであった。

特に、観光消費の減少を懸念する声に対しては、実験開始の前年に本格的な観光者の意識・消費の実態調査を行い、交通規制を支持する観光者の多いこと、さらに地元における観光消費額の大きい観光者ほど、環境を守る意識が強く、摩周湖への車の乗り入れ規制を求めていること等を実証的に明解に示してくれた。大学研究機関の科学的な分析結果によって、実験に向けての関係者の機運が高まっていったことの意義は非常に大きかった。さらに実験終了後は、観光消費の経済効果等の分析調査を通じて、環境と共生する観光産業の発展方策についての提言をいただいた。

写真2

写真2 
     小磯修二 学長

また、研究面だけでなく地域経済研究センター長の小磯修二教授(現学長、写真2)は、2カ年の実験の推進母体である協議会の会長として、また地域フォーラムや講演会の開催など関係機関との調整役、啓蒙役として尽力していただいた。今回の実験が行政部門だけでなく、地域の大学と一緒に進められたことの意義は大きかったと感じている。

環境に向き合うまちづくり

今後とも摩周湖における交通規制については、関係機関と連携を図りながら環境にやさしい観光交通の実現を目指したいと考えている。何より弟子屈町に来て大自然を体験し、そこから地域の魅力や地球環境の大切さを感じていただけることこそが皆さまに選ばれる地域になるための必要な条件ととらえ、これまで以上に産学官連携による地域づくりに邁進していきたいと考える。