2009年2月号
イベント・レポート
2009ライフサイエンス知財フォーラム
ライフサイエンス先端技術の特許保護:問題点とその整理 ~ヒトiPS細胞を例として~

2009ライフサイエンス知財フォーラム(日本製薬工業協会、以下「製薬協」/バイオインダストリー協会共催)が1月28日に経団連ホールで行われた。日本発のヒトiPS細胞を樹立した山中伸弥京都大学教授をはじめ、各界の著名人を講演者として迎えた本フォーラムでは400名を超す聴講者が集まった。

重要になる知的財産戦略

2007年秋に京都大学の山中教授らのグループが発表した人工多能性幹細胞(iPS細胞)は、再生医療分野の発展に大きなインパクトを与え、実用化への期待が大きく膨らんでいるライフサイエンス先端技術の1つである。多額の国家予算も投入され、大学等における実用化研究を加速させる体制づくりも進んでいる。一方では、先端技術の宿命として国際的な研究開発競争が展開され、日本で見いだされた世界的研究成果を順調に育成し、今後も世界をリードしていくことができるのか厳しい状況が予想される。このような優れた研究成果を保護し国際的な競争で生き残るためには、適切な知的財産の保護や知的財産戦略が重要になる。

今回のフォーラムでは、ヒトiPS細胞を具体的な例として、ライフサイエンス分野における先端技術の特許保護の在り方について、各界の方々に講演をしていただき、パネルディスカッションでは、その特許保護の在り方についての今後の課題を中心に討議していただいた。

講演概要
写真1

パネルディスカッションの模様

基調講演では、山中教授が初めて特許を意識した幼少時代や、iPS細胞をめぐる特許競争が激化する中での特許出願などの話を織り交ぜながら、特許の重要性やそれが与える影響について語り、世界のiPS細胞研究をリードするには、適切に特許を確保すること等が課題であると強調した。

南孝一特許庁技監は、先端技術保護に向けたこれまでの特許庁の取り組みを紹介し、さらに先端医療分野の保護の在り方に関しても、内閣官房知的財産戦略本部下に検討委員会を設置し調査検討を行っている旨述べた。

玉井克哉東京大学先端科学技術研究センター教授は、大学発ベンチャーの現状の問題点は、人のネットワーク不在、資金の調達、技術移転等がスムーズに行われていないことにあると指摘し、政府には規制改革や「真のプロ」の育成等のインフラ整備を行うことを、製薬協には「プロ」のネットワーク形成と同時に、大学研究におけるプロデューサー機能および実用化のための支援ならびに助言、さらに、政府への規制改革、「真のプロ」の育成等のインフラ整備等に関する政策提言を期待していると強調した。

前田裕子東京医科歯科大学知的財産本部技術移転センター長は、同大学知的財産本部のかかわった成果を紹介しながら、大学の知財戦略は、成果を産業に生かすことを想定して、大学の特性に合わせて商品価値の高い特許に仕上げていくことが重要であると語った。その上で、企業や関連団体との連携をしていくことが鍵となると強調した。

稲葉太郎三井ベンチャーパートナーズ社長兼最高経営責任者は、先端技術育成の仕組みを例とした米国ベンチャーの投資と知財について語った。ライフサイエンス分野では、他の分野に比して知財による保護が強く影響する点を指摘し、ベンチャー企業が融資を受けるためには強固な特許権を有していることが重要であることを強調した。

寺西豊京都大学産官学連携センター教授/メディカル・バイオ分野長は、京都大学のiPS細胞研究成果の知財管理・活用について紹介し、大学の知財確保に向け [1]米国における仮出願制度のような安価で簡略化された様式による特許出願が可能な制度の導入 [2]画期的な発明では特定の具体例にとらわれない包括的な権利範囲を認めること、等を要望した。

高柳昌生日本ライセンス協会会長/協和発酵キリン株式会社知的財産部長は、リサーチツール特許の高額なライセンス対価要求は、研究の進展や産業発展の障害となりうることを指摘し、リサーチツール特許の円滑な活用に向けた合理的対価の指針が示されることが必要であることを強調した。

渡辺裕二製薬協知的財産委員会委員長/アステラス製薬株式会社知的財産部長は、ライフサイエンス分野の特許保護に関する課題として [1]治療方法の特許保護 [2]基本発明の適切な保護 [3]特許期間延長制度の見直し [4]特許要件の見直しを挙げた。特許の適切な活用については、2008年11月に設置された製薬協の知財支援プロジェクトの取り組みを紹介し、基本発明の適切な実用化は民間の知恵を利用したオールジャパン体制の知財戦略の確立が必要であることを強調した。

最後のパネルディスカッションでは、秋元浩製薬協知的財産顧問/バイオインダストリー協会知的財産委員会委員長がコーディネーターとなり、講演者と共にライフサイエンス先端技術の特許保護の在り方についての課題抽出と意見交換を中心に討議が行われた。施行後50年が経過した現行特許法の抜本的な見直しに対する要望や、人的ネットワークの充実、研究者へのサポート体制、人材育成、リサーチツールに関する課題が挙げられた。

(長井 省三:2009ライフサイエンス知財フォーラム 事務局長/
日本製薬工業協会 知的財産部長/弁理士)

2009ライフサイエンス知財フォーラム
日時: 2009年1月28日(水)
             13:00~17:25
会場: 経団連ホール(東京都千代田区・経団連会館)
主催: 日本製薬工業協会
             財団法人バイオインダストリー協会