2009年3月号
単発記事
地域大学サミット2008
パネルディスカッション「地域の特色を活かした大学戦略」

モデレーター:阿部 博之 Profile
(あべ・ひろゆき)

前 内閣府総合科学技術会議
議員/独立行政法人 科学技
術振興機構 顧問

パネリスト:城戸 淳二
(きど・じゅんじ)

山形大学大学院理工学研究科
教授

パネリスト:佐野 太 Profile
(さの・ふとし)

山梨大学 副学長

パネリスト:小島 義己
(こじま・よしみ)

奈良県商工労働部 次長
(商工労働部総務室長事務取扱)
農林部 次長

パネリスト:遠藤 守信
(えんどう・もりのぶ)

信州大学工学部 教授
(信州大学 カーボン科学研究所
所長)

パネリスト:柳 孝
(やなぎ・たかし)

文部科学省 科学技術・学術
政策局 科学技術・学術戦略
官(地域科学技術担当)

科学技術振興機構(JST)は平成20年11月4日、都内で、大学の進むべき道を考えるシンポジウム「地域大学サミット2008」を開催した。「地域大学をとりまく科学技術政策」と題する内閣府総合科学技術会議議員の薬師寺泰蔵氏の講演、宇都宮大学と徳島大学の戦略的な取り組みの紹介のほか、「地域の特色を活かした大学戦略」をテーマにパネルディスカッションが行われた。本稿ではこのパネルディスカッションの概要を紹介する。

地域産学官連携とそれへの取り組み

阿部  第3期科学技術基本計画の中に大学についての特徴的なものとして「世界の科学技術をリードする大学の形成」と「個性・特色を活かした大学の活性化(地域に開かれた大学の育成)」があります。今日はそのうちの特に後者に焦点を当てた、大学の活性化をどのように図っていったらよいかということが主題となっています。

そこでまず、パネリストの方々にご自身の取り組み、考えなどについてお話しいただければと思います。

城戸  山形の有機エレクトロニクスバレーを一言で紹介すると、大学の技術を地域に活かすということです。ただ、多くの地方都市にあるのは大企業の工場と地元の中小企業であり、そことわれわれの有機半導体の最先端技術とは接点がないわけです。ですから、私自身もほんの数年前まで地域ということを考えたことはありませんでした。

山形県と一緒に仕事をするようになったのは新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)のプロジェクトがきっかけで、山形県が43億円の予算を付けたことですが、県内の非常に素晴らしい技術を持った中小企業と共同で実用化研究を行う研究所を5年前に設立しました。

ベンチャーを創出して金持ちを生み出して「山形というのは面白い」といって若者が来る、そんなシリコンバレーのようなことを目指しています。実際に山形大学工学部では有機ELを研究したいといって受験する高校生が非常に増えています。このことが今後10年後、20年後へとつながると考えています。

写真1

                        佐野 太氏

佐野  「地域の科学技術振興」と「科学技術による地域振興」ということは全く意味が異なります。第3期の科学技術基本計画までは、この「科学技術による地域振興」という概念が明確には示されていませんでした。地域ごとの特徴を活かした科学技術によって多様な新産業を創出していくという「科学技術駆動型の地域発展」という思想を第4期の科学技術基本計画の中に入れることが重要ではないかと考えています。

地域活性化の観点から言えば、地方の行政と政治がまず「二番煎じ」から「日本一・世界一を目指す」という意識改革が大切で、中央依存型から自らの力による駆動型の施策展開を指向するということが重要だと思っています。また、今こそ文部科学省や科学技術振興機構(JST)は5年先の目先の利益を求めるのではなく、科学技術と人材育成で20年後、30年後という近未来の発展の布石を打つために、自負と勇気を持ってさらなる施策を推進していくことが重要です。それから地方の活性化を考えた場合、道路づくり中心の公共事業に加え、これからは「科学技術による新しいタイプの公共事業」を創出するという発想も重要だと思っています。

一方、知識基盤社会を標榜する日本において、国公私立大学の多様性が、創造の源であり、国力の基盤だと思っています。どれだけ国公私立大学が自分の個性を活かしながら教育と研究と社会貢献を行っていくのか、また、どれだけ理事側と教官側が一枚岩になれるかが重要なポイントとなります。

戦略として「山梨を燃料電池で世界一に」ということで、渡辺政廣教授をリーダーとして研究開発を行っていますが、文部科学省関連の科研費、CREST、リーディングプロジェクト、都市エリア事業と行い、その成果が今年から7年間で70億円というNEDOの事業につながりました。これからは地域に雇用が創出され、環境エネルギーに貢献するために、研究開発と人材育成だけでなく「技術とシステムの国際標準化」を目指した実用化実証を三位一体でやっていくことが重要だと思っています。

写真2

                        小島 義己氏

小島  奈良県の特徴を産業的に見たとき、内陸県、可住地面積が少ない、中小企業ばかり、繊維・プラスチック・食品など既存産業の比重が非常に高く新しい産業が興りにくい、という状況があります。一方、奈良県には奈良先端科学技術大学院大学、奈良県立医科大学、奈良女子大学、近畿大学農学部、また、京都大学、大阪大学に近いので、科学技術を使って産業をやるべきだという考え方があります。

奈良県では産業の切り口だけではなく、人材育成等と文化財の保護も含めて科学技術振興指針をつくりました。その中で産学官連携の強化と、周辺大学はバイオサイエンスや情報通信分野が非常に得意なので、重点研究分野を設定しました。現在はシーズをつくって、それをステップ・バイ・ステップに企業化に持っていくという手法を取りながら進めています。

平成14年度から18年度にかけて知的クラスター創成事業を行い、いろいろなシーズを発掘したわけですが、その中で植物や医療用のバイオのシーズをつくり上げて次のステップへ展開しています。また、奈良県の特徴的な植物の機能性を商品化していくことをJSTの地域結集型共同研究事業で行っており、県でも企業化をフォローする仕組みをつくり上げています。

地域の大学に期待したいことは、産業に資する大きなイノベーションを起こすような研究を行い、成果を出すためのコラボレーション。公設試験研究機関や企業OBを県で採用して技術移転させる仕組みを持っていますので、うまく技術移転の仕組みをコラボレートして成果が出たら資本が投下され、そうすると研究も進むということで、良いスパイラルになっていくのではないかと思います。

遠藤  長野県は信州大学を中心に知的クラスター創成事業第・期、・期に採択され、地域の企業、行政すなわち産学官が一体化する大きな契機になりました。どちらかというと内弁慶的なビジネスを展開している地域企業も多かったのですが、大学の研究者と連携することにより国際的な視野を展開できるようになりました。また、大学においても教員がそれぞれの壁を取り払い連携することにより、連携の面白みが教員や地域企業に出てきたことは非常に大きな成果です。

長野県は今、大きく産業出荷額が減少して苦境の中にありますが、かつて生糸、養蚕で栄えていた地に戦後精密機械工業をいち早く成功させ、発展させたという成功ヒストリーに非常に大きな自信を持っています。そこで知的クラスター創成事業では、信州大学を中心にカーボン科学を進めており、主としているカーボンナノチューブはコンポジット、樹脂成型、スポーツ用品、さらに電子機械など地域産業に広く期待されています。

もともとこの技術は1987年に私共によって特許化され、現在では世界中で大きなビジネスへと発展してきています。また、知的クラスター事業参加の大学教員が中心となり、世界最大の石油探査会社と共同で技術開発も行われています。このように、大学が地域と連携して新しい地域時代を拓(ひら)くエンジンになっていきたいと思っています。

写真3

                        柳 孝氏

  「21世紀は知の世紀」であり、知識を基盤としたイノベーションを絶えず生み出していくことが重要だといわれています。そのため、国際競争力の維持・強化に向けて世界がしのぎを削る中で、知の拠点たる大学に対する期待はますます高まっています。平成18年に教育基本法が新たに制定され、その中で教育、研究に加え、第3の柱として大学に関して「成果を広く社会に提供」することが規定されています。

地域科学技術とは、国が活性化するためには地域が元気になることが重要で、地域の強いイニシアチブの下で大学の知を活用して、その地域が元気になることを意図しています。ただ、地域科学技術といったときには、当然、その地域に優れた研究開発ポテンシャル、大学の技術シーズが存在しなければなりません。

一般的に科学技術というときには、いかに最先端の知の創出を図るかが重要になってきますが、地域科学技術といったときには、最先端の知の創出よりも大学が持っているシーズをいかに活用して、地域に何を残していくのかがポイントになります。

そのように考えると、地域施策における研究資金については、大学向けのものであっても、シーズの実用化に向けて支援するための研究費であって、大学にとっては純粋な研究助成費というよりも社会貢献費的なものであると考えています。

地域施策の実施に当たっては、人の問題、大学、行政、民間企業なども含めてやる気のある人たちが集まり、地域構想を練り上げていくことがとても重要です。地域の持つ研究開発ポテンシャルや産業構造はさまざまな状況であり、国による画一的な施策にはなじむものではありません。だからこそ、地域が独自の発想で、自らの構想を立てていくことが重要なのです。

地域大学とそこにおける問題

阿部  皆さんのお話を聞いていますと、あまり深刻に考える必要はないというような印象ですが、課題が無いことはないでしょう。これまでの各パネリストのご提言、各地の紹介に対してご意見をいただければと思います。

佐野  産学官連携や社会貢献に携わっている人は全国的に1、2割程度という感じがしており、その1、2割を今後どれだけ増やしていくか、つまり、どれだけ多くの大学の先生方に外向きに活動していただくかが初歩的な課題だと思います。また、多くの地域大学で「ミニ東大」を目指しているような気がしますが、これでいいのか疑問が残ります。これからは地域大学の持つ多様性として特色のあるピークをどれだけ伸ばして、育てていくかに重点を置くべきだと思います。研究フィールドや社会フィールドを考えれば、地域大学の方が都心の大手の大学より勝る点は必ず何か存在すると認識しています。

写真5

                        遠藤 守信氏

遠藤  日本には東京大学をはじめとして立派な大学がたくさんありますが、この中央集権的な社会をどうやって変えていくかがこれからの課題で、富士山に加えて日本アルプス型の峰をたくさんつくることによりイノベーションが生まれてくると思います。特徴ある研究施設や研究プロジェクトを地方の大学でしっかり確立して、そこの地域が特徴的に持っているものをコアにして分散型の科学技術国家をつくっていく。それでこそイノベーションの素地ができるのではないでしょうか。あとは、任せられた私たち大学人がタックスペイヤーの皆さんにしっかりと説明できるような成果に結び付けていくことです。

城戸  地方大学にいるわれわれが一番現場レベルで危機感を感じているのは、学生の偏差値がどんどんと下がってきていることで、これは定員と受験生の数、大学全入の問題です。いくら素晴らしい研究センターをつくっても、そこで働く学生が低いレベルではどうしようもない。結局、どれだけ良い学生を自分のところに引っ張ってくるか、そのために何をすべきかです。新聞や雑誌に出るなどマスコミを利用することが重要であり、そういう活動を大学はもっと評価すべきと思うのですが、大学の教員が助教から准教授、教授に昇進する際の実績欄には一切書かれません。論文数で評価される。その辺をわれわれは大学の中で改革していかなければいけないと思います。

遠藤  最近理工系離れは顕著ですが、これだけ工業で身を立てた日本で工業や技術に対して人々の尊敬心が無いことが一番の社会問題だと思います。大人の科学技術知識の調査を行っても世界13位と、技術と科学で今日の発展を勝ち得た日本の社会としてはお粗末です。社会が科学や技術というものをしっかり評価し、認識する社会に大きく変えていく必要があります。そしてそのためには、例えば、液晶テレビを見たときにその素晴らしさに感動すると同時に、それをつくり出した技術者にもっと社会が思いを寄せるような教育も必要とされます。これはまだ5年、10年かかると思いますが、今すぐ行っても遅くはないと思うのです。

佐野  これからは、大学の経営を国の行政はもとより、県の行政とどれだけ一枚岩になって進められるかが、地域にとっても、また大学にとっても活性化を図る上での非常に重要なポイントになるのでないかと感じています。例えば、大学のポスドクを県や市の職員や研究者として積極的に雇ってもらう人事システムを構築するといったことなどです。

地域分散と拠点化

阿部  日本の場合、いろいろなところに日本一の拠点をつくっていくことが非常に重要だろうと思いますが、どのように考えますか。

遠藤  7年前の知的クラスター創成事業に採択されたときに大変だと思いました。個人で研究をやるのであれば、企業の寄附金も成果も独り占めできる。ところが、知的クラスターはその成果を共有するのです。しかもその相手の多くは大学や地域の企業などで大変だと思ったのですが、一方で、私の中に地域貢献や社会貢献という新しい意識が確実に芽生えたのです。

そういう意味で、私はさらに続けたいと思います。世界の中心となる地域が企業に支えられているという現実もあります。ですから、例えば有機ELで山形県、ナノカーボンで長野県などいろいろなスマートバレーがあちこちにできて、日本の未来に地域の力が大きく寄与する。こんな期待を持っています。

写真6

                        城戸 淳二氏

城戸  日本の拠点形成は、実際には産業クラスター、知的クラスターなど文部科学省、経済産業省がやっていますが、不十分であると思います。また、東京に一極集中していることは東京にとっても、地方にとってもよくありません。では、地方にどうやって人を戻すかというと、やはり研究開発を中心としたバレーをつくらないといけない。

どういう形で研究開発拠点をつくるかというと、それは単純で、例えば、有機半導体はここでやりますという国のお墨付きがあれば必ずそこに人が集まると思います。研究者というのは研究がやりたいわけで、その研究環境がそこにあれば人が集まると思います。文部科学省、経済産業省が横の連携を深めるなど国がその気になれば、各地方にそれぞれ拠点をつくれると思います。

大学発ベンチャーに対する問題
写真7

                        阿部 博之氏

阿部  日本の産業で非常に気になることの1つは、大学発ベンチャーが非常に多くの問題を抱えていることです。アメリカではベンチャーの技術や製品を大企業がどんどん買ってくれるのに対して日本は違うと。もっと違うのは、失敗をしたことに対して日本は非常にきつい。そういう風土の問題もあると思います。

どうしたら大学発ベンチャーを増やしていけるか。あるいは実質的に実のあるものにしていけるかということです。

小島  事例が少ないのですが、奈良県でできている大学発ベンチャーを見ますと、きれいなビジネスモデルをつくり得るのが難しそうなベンチャーが出てきているのではないかという気がします。

ベンチャーを起こして企業化し、商売をしていく上で、大学のシーズはある程度大事ですが、大学のシーズをどううまくビジネスにつくり上げるかが非常に大事ではないかなと。アメリカではベンチャーキャピタルが入り込んでビジネスモデルをつくり上げるというように聞きます。その辺が日本のベンチャーでは弱いのではないかなと感じています。

城戸  自分自身もベンチャーを起こしたいと思っていろいろ勉強していますが、日本には3つ足りないと思っています。1つは、SBIR(中小企業技術革新制度)の制度がない。もう1つは、会社を立ち上げても目利きで、かつビジネスがわかるような社長が非常に少ない。それから最終的な出口です。大企業に売却するのか、自分でその製品をつくるのかというところで、大企業は日本のベンチャーに対して非常に冷たいです。ですから、この3つを何とかしないと日本のベンチャーは成功しないなと思います。特に、SBIRが直近の課題かと思います。

佐野  日本の大学発ベンチャーを考える上で重要な視点の1点目は、研究者と経営者の適切な役割分担と連携を図ることです。研究者による経営にはやはり限界があります。

2点目は成長に直結する実現可能なきちっとしたビジネスプランをつくらなければいけないということです。ここが、これまでの大学発ベンチャーは甘かったと思います。3点目は販路開拓です。大企業とのアライアンスとM&Aも必要に応じて必要ですし、グローバルマーケットを相手にする必要もあります。

なお、日本には失敗・撤退や再チャレンジに対して必ずしも寛容でない社会風土があることも事実です。

阿部  ベンチャーについては成功例もかなりあると思うのですが課題も非常に多いので、何かある機会に総点検をして日本としての方向性を示すべきと思っていますが、もう示されているのでしょうか。

  直接の担当ではないのですが、総点検については多分行われていないと思います。ベンチャーを立ち上げるのは意外と簡単だけど、その後うまく回していくことがなかなか難しい。第3期の科学技術基本計画がそろそろ評価というタイミングであり、そういった中でもベンチャー創業の話については議論をされていくべきであり、国としてどう取り組んでいくのか非常に重要な問題だと思っています。

阿部  いろいろな意見を伺いまして、いわゆる地域のスター教授を中心として拠点化を図っていくことが今日の1つのメッセージではないかと思います。

ただし、そういうスタープレーヤーをつくっていく前段階として、中規模総合大学を中心に国公私立含めて研究費の底上げを図っていくことが必要であると思います。地域の大学の問題は今日1回で終わることでないので、来年も続けていくことを期待して終わらせていただきます。

(文責:財団法人全日本地域研究交流協会 事業部次長 遠藤 達弥)