2009年4月号
特集  - 熱い「水」技術とビジネスの課題
低圧で従来の10倍長持ちする水処理膜
顔写真

新谷 卓司 Profile
(しんたに・たくじ)

日東電工株式会社
基幹技術センター
第3グループ長

水不足が年々深刻になる中、水処理用分離膜の1つである逆浸透膜(RO)の需要が海外で増加している。海水淡水化と下排水の高品位再生処理の設備が伸びているからである。課題は、原水に含まれる微生物などによる膜の汚染。これに、間欠的な薬品洗浄で対応してきたが、連続的に薬品注入可能な「薬品洗浄に強い膜の開発はできないか」と考え、産学で開発に取り組んできた。

はじめに

世界の水不足が年々深刻な問題となっており、21世紀は「水の時代」とも言われている。現在、安全な飲料水が不足しているのは世界に約12億人いて、水が国家間紛争の火種にもなろうとしている。

弊社の水処理技術と事業

こうした中、当社は高分子合成・加工技術をベースにした600以上の技術を保有し、それらの技術をコラボレートさせて世界の市場にユニークな製品を提供している。水処理用分離膜を中心とするメンブレン製品は、界面重合技術・コーティング技術・物性評価技術などを融合させたものであるが、この研究開発のスタートは、1970年代初めにさかのぼる。

1980年代前半からは、国内の半導体工業が急速に立ち上がり水洗工程で使用する超純水装置に膜の導入が始まった。当社はこの市場ニーズに対応する逆浸透膜(RO)・ナノフィルトレーション膜(NF)・限外ろ過膜(UF)・精密ろ過膜(MF)を投入してきた。その他の市場においても、自動車産業での電着塗料回収用UF膜、食品プロセス用耐熱RO膜など多くの新製品を開発してきた。1986年に滋賀県草津市に当時世界で初めての膜専門工場を建設しメンブレン製品の供給体制を整え、さらにその翌年の1987年にハイドラノーティクス社を子会社として世界展開を図っている。

近年、グローバル化が進む中で海外でのRO膜の需要が増加してきている。特に海水淡水化と下排水の高品位再生処理を目的とする造水関連のRO膜市場の伸長が目覚ましい。

松山教授との共同開発のきっかけ

水不足を解決する有効な手段の1つとして、膜法が近年盛んに用いられるようになってきた。しかし、従来から問題となっているのが原水中に含まれる微生物等の有機物による膜の汚染(Bio-Fouling)である。膜がこれらで汚染されると膜面にバイオフィルムが形成され、塩阻止率(Rej.)および透過水量(Flux)の低下を招く。そのために連続的あるいは間欠的な薬品洗浄がなされているのが現状である。また、そのためのRO装置薬品洗浄システムが導入されており、これが造水コストを増加させている一因といえる。

この課題に対し、新規膜開発からの解決方法としては「汚染されにくい膜の開発」あるいは「薬品洗浄に強い膜の開発」が考えられる。当社は、以前より技術的ご相談をさせていただいている神戸大学大学院工学研究科松山秀人教授と共同研究を実施した。松山教授はこれまで熱誘起相分離法(TIPS)という手法を用い、MF膜やUF膜について長年研究されており、薬品洗浄に強いRO膜の開発に関しても今回一緒に検討していただいた。

薬品洗浄に強いRO膜の研究・開発
図1

         図1 新規開発RO膜耐塩素性試験
             評価条件: 操作圧力1.5MPa
             1,500ppmNaCl, pH6.5, at 25℃



写真1

写真1 新規開発RO膜表面SEM

現在使用されているRO膜素材のほとんどは全芳香族ポリアミド系である。薬品として汎用に使用されるのが、水道水中にも1~2ppm程度含まれている次亜塩素酸ナトリウム(NaOCl)である。しかし全芳香族ポリアミドは、このNaOClによりアミド結合が切断されRej.の低下とFluxの増加を誘引する。そこで、NaOClで切断されにくい素材の開発を行うため、反応に用いるモノマーのスクリーニングを実施した。同時に高性能を兼ね備えたRO膜を得るためコンピューターシミュレーションを用い最適構造を予測した。

こうして開発した新規RO膜の耐塩素性試験結果を図1に示した。初期Rej.は若干低いものの、市販RO膜のRej.が急激に低下しているのに比較して新規開発RO膜のRejは安定しており、結果10倍以上の耐性を有していることが確認された。また、新規開発RO膜の表面SEMを写真1に示した。

展望

このように耐塩素性を有した新規開発RO膜を用いることで、RO装置内に常時NaOClの存在が可能となる。その結果、微生物等を殺菌しバイオフィルムの形成を防ぐことで安定した水質・水量を得ることができる。またRO装置配管内の汚染も同時に防ぐことができ、装置全体としての定期的な洗浄回数も大幅に減少することで装置システムも非常に簡単になり、造水コストの大幅低減が期待できる。今後実用化に向けて応用展開を実施していく。

新技術の意義

今後ますます深刻になってくる水問題に対し、海水淡水化および下排水の再利用は必要不可欠。特に水資源に乏しい中東、オーストラリア、中国などで水の再利用が進み、膜処理プラントも大型化していくものと予想される。

また、再利用する水は生活排水、農業・工場排水であるので、水中に溶存する各種イオンやマイクロポリュータント(農薬・薬理活性物質・トリハロメタン・環境ホルモン)など中低分子の有害な化学物質なども混入する。そのために生物処理などの既存技術で処理できない場合もある。RO膜ではそのような物質を除去できるので再生水として利用可能である。

おわりに

日東電工グループは分離膜製品を通じて、世界中のすべての人々に「安全で良質な水を安価で継続的に提供する」ことにより、持続可能な環境保全や安全で健康な生活に貢献することを使命としている。そのためには、まだまだ多くの課題を解決する必要がある。当社のRO膜技術は今も進化し続けており、今後もそのための努力を惜しむことはない。それらの課題を乗り越えて新たな水資源を創造し、社会に貢献していきたいと考えている。