2009年4月号
特集2  - ものづくり東京・大田区
大田区産業振興協会 東工大との連携を軸に講習、交流の場づくり
東京都大田区で、中小企業製造業と大学研究者の技術交流が活発になっている。最前線で産学連携促進に取り組んでいる財団法人大田区産業振興協会の活動を紹介する。

東京都大田区の産業活性化に最前線で取り組んでいる財団法人大田区産業振興協会(濱岡平一理事長、大田区南蒲田・大田区産業プラザ内)*1が地元製造業を対象にした産学連携促進に力を入れている。平成10年から活動を始め、同17年に体制を強化した。

隔月に交流セミナー

中心的な活動は、毎回、地元企業の経営者・技術者と東京工業大学の研究者が意見を交わす「東京工業大学技術交流セミナー」。現在は隔月に開催(昨年まではほぼ毎月)しており、これまでに47回実施している。

【東工大技術交流セミナーの最近のテーマと講師】

第43回(平成20年9月11日)
「精密化学めっきから、異方導電性材料、ナノインプリントまで
-異種材料の界面制御による先端機能材料の創製とその応用」
講師:資源化学研究所 中川勝准教授
第44回(平成20年11月13日)
「大気圧プラズマの基礎とその応用
-表面処理、材料合成、廃棄物処理などを中心に」
講師:大学院総合理工学研究科化学環境学専攻 渡辺隆行准教授
第45回(平成21年1月15日)
「室温とは違う高温変形の面白さ」
講師:大学院総合理工学研究科材料工学専攻 松尾孝教授
第46回(平成21年3月18日)
「燃料電池の将来展望-材料開発と要素技術開発の視点から」
講師:大学院総合理工学研究科物質科学創造専攻 山崎陽太郎教授
第47回(平成21年4月9日)
「電子機器実装のための接合・配線材料の開発と基礎研究」
講師:大学院総合理工学研究科材料物理科学専攻 梶原正憲准教授

開催時間は毎回、午後6時半から8時だが、質疑は9時近くまで続く。回を重ね、テーマとする技術のレベルが高くなっている。このため、最近は大企業の技術者などが多く、地元の中小企業関係者は半分程度という。それでも「こうした場が地元企業と大企業との接点となり、交流につながる効果もある」と、産学連携を仕掛けている田口信夫企業支援グループ経営サポートチームリーダーは言う。

技術を究める連続セミナー

東工大技術交流セミナーと並ぶもう1つの柱は、1つのテーマについて連続セミナーを行う「大田区産学連携道場」。技術を究めるというのがうたい文句で、年1~2テーマを取り上げている。

今年2~3月に実施した第5回の道場のテーマは「医工技術(医工連携)」(全4回)。ME(メディカル・エンジニアリング)講座を30年以上前に設置し継続している東京電機大学の研究者から技術講習を受けた。

昨年2~3月の第4回道場(全4回)のテーマも医工連携だった。このときは千葉大学工学部メディカルシステム工学科の研究者が講師陣だった。

大田区のものづくりの企業が、もっている技術を生かす新しい分野として医療・福祉に目を向けていることがわかる。大田区産業振興協会の情報紙「テクノプラザ」の本年1月号では、企業経営者が「医療に活かす、中小企業の技術力」をテーマに座談会を行っている。ここで、以前から、大学との連携で医療機器を手掛けている例が紹介されている。

半導体を中心にした精密加工の株式会社三幸精機工業は東京大学で研究しているヤギの人工心臓のロータリーポンプで実績をつくり、いまではマイクロリアクター、マイクロミキサーまで手掛けている。各種照明器具・照明用制御機器製造のトキ・コーポレーション株式会社は、形状記憶合金を通電加熱駆動させることを目指して早稲田大学と研究を始め、バイオメタル(金属系人工筋肉)を商品化した。

「バリ取り技術」では個別の相談会も

産学連携道場から幾つかの研究会が生まれている。「切削・研削研究会」は横浜国立大学の高木純一郎教授を講師にした平成17年12月~18年2月の道場を受講した地元企業の技術者17人がつくり、活動を続けている。

昨年実施されたバリに関する産学連携道場の受講生らは「バリ取り研究会」をスタートさせた。講師は、バリテクノロジーの第一人者である関西大学システム理工学部の北嶋弘一教授。

同協会は平成20年6月から21年3月まで「バリ取り技術相談会」を開催した。同協会が、企業と北嶋教授の日程を調整し、北嶋教授が現場で相談に乗る仕組みだ。さらに、同協会は今年2月20日、財団法人横浜企業経営支援財団、関西大学と共催で「バリテクノロジーシンポジウム2009」を、拠点の大田区産業プラザで開催した。

既に解散しているが「DLC(ダイヤモンド状炭素膜)応用研究会」は、参加企業(4社)の製品開発が比較的進んでいる。講師の大竹尚登氏(現在、東京工業大学准教授)との連携でベンチャー企業も誕生している。

しかし、上記の医工連携やDLCのように自社製品開発にまで進んでいるケースがあるものの、大田区のものづくり企業全体を見渡すと「学」との連携で脱下請け、新市場開拓を目指そうという機運が醸成されているとは思えない。大田区産業振興協会が仕掛けている講習や交流の場づくりを、次のステップにどうつなげていくのかが課題だ。

(登坂 和洋:本誌編集長)

*1
大田区が100%出資して平成7年10月に設立