2009年4月号
単発記事
大学における利益相反(COI)マネジメント体制の構築
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平井 昭光 Profile
(ひらい・あきみつ)

レックスウェル法律特許事務所
所長 弁護士・弁理士/
東京医科歯科大学客員教授

大学が利益相反のマネジメント体制を築くときの注意点、課題を解説する。専門のチームをつくり、担当副学長がそこに権限を与えることが重要であるという。キーワードはフレキシビリティとコンセンサス。

はじめに

時代が利益相反(COI:Conflict of Interest)マネジメントを要求していることは疑いない。COIの意義と機能を正しく理解すれば、COIが産学官連携を阻害するものではないことは明確であるし、産学官連携を推進する1つの正当化理由(rationale)として、納税者への責任・アカウンタビリティーの確保と軌を一にするものであることもわかるだろう。日本のアカデミアにおいては、独立行政法人化後だけを見ても、知財部門などさまざまなマネジメント体制を構築してきたが、COIは経験がないため、どのようにマネジメント体制を構築したらよいのか、悩む機関が多い点であろう。特に、運営費交付金が減少し、十分な人員を割くことも難しい昨今、人的・物的にも困難は多いであろう。

しかしながら、実は、COIマネジメント体制の構築はそれほど困難なものではない。唯一「人を得る」という点を除いて、という留保があるが。以下には、これから体制の構築を試みようとしている機関および体制について悩んでいる機関を念頭に、体制構築のノウハウを若干述べたいと思う。

体制構築の考え方

アカデミアでは、これまで「人治」が行われてきた。学内で何らかの問題があると、優れたマネジメント能力・問題解決能力がある研究者が、その解決に当たり、見事に解決してきた歴史がある。COIのマネジメントは、この「人治」の延長線上にあるといってよい。この「人治」を、COIという理念に沿って、正しくシステム化するのがマネジメント体制構築の基本である。

具体的には、まず、事務方2、3名とCOIアドバイザー1、2名でチームを組み、このチームに担当副学長が理解と権限を与えることが必要である。COIマネジメントは、在籍する何百名という研究者・教員から自己申告書を収集し(その前提として、自己申告書を配布し、説明し、提出を促すという作業もあるが)、この内容をマトリクスを用いて分析し、そのCOIから見た重要度を判断するという作業を含む。この作業は、なかなかに大変で、人手を要するものである。また、このような自己申告書の申告内容に血と肉を与えるのは、学内の事情に詳しい事務方であることも言うまでもない。このように、優れた事務方の協力こそ、COIマネジメントの最も重要な点である。

次に、このような事務方による分析結果をCOIアドバイザーと議論し、その重要性に応じて、個々のアドバイスの概要を形成することとなる。ここでは、経験豊かなCOIアドバイザーの関与が必須である。何しろ日本では歴史の浅いCOIマネジメントであるため、ここでの目算を誤ると大きな影響を与え、機関における産学官連携そのものを破壊することにもなりかねない。

そして、アドバイスの全体像が見えてくると、研究者によっては追加の情報収集が必要となることがある。この場合には、COIアドバイザーは、研究者に面談し、さまざまな情報を聞くこととなる(ヒアリング)。実のところ、このヒアリングは、研究者にCOIを理解してもらう場でもあり、かつ、アドバイスを実際に与える実施(enforcement)の場でもある。COIマネジメントは、実質的にはこのヒアリングでほぼ終了するといっても過言ではない。

これらのヒアリングが終了し、すべてのアドバイス案ができると、この案をCOI委員会に提出し、担当副学長の下、さまざまな部局の代表者等を交えて、ディスカッションし、COIを全学として理解することとなる。同時に、COI委員会はこのアドバイス案に対してオーソライゼーションを与え、その後、当該アドバイスは各研究者に送付されることとなるのである。

体制構築のポイント

以上のようなマネジメント体制を構築するポイントはどこにあるのであろうか。組織により、また、研究者の数・カルチャーなどにより異なってくるとは思われるが、2点挙げることができる。

まず、フレキシビリティが重要である。COIマネジメントは、物事をスムーズに進めるための肯定的(affirmative)なマネジメントであり、物事を禁止するためのものではない。よって、関係者の知恵を絞って、適切な産学官連携活動を形成することが必要となり、そのために必要なのはあくまでフレキシビリティである。柔軟に物事を捉え、本質を見つめ、社会との接点を考察しなければならない。

次に重要なのはコンセンサスである。研究者とアドバイザーと担当副学長の間にコンセンサスがなければ、COIマネジメントは機能しない。このようなコンセンサスをいかに築き上げるかが大事なのである。

他方、しっかりした組織図や、マネジメントに携わる人の人数や、肩書きやガイドラインなどはあまり重要ではない。むしろ、場合によってはCOIマネジメントを進める弊害となることもあるので注意が必要である。

今後、大学は、新しいコンプライアンスの時代に適合し、社会の中でよいプレゼンスを発揮しなければならないと思われる。COIマネジメントは、ある意味でその良い試金石であるともいえよう。各大学における有為な試みとCOIマネジメントの適切な運用に期待する次第である。