2009年5月号
特集  - 育て新人 コンテンツ産業新潮流
京都国際マンガミュージアムは市、大学、住民連携の施設
2006年11月に開設した京都国際マンガミュージアムは、京都市、京都精華大学、地域住民の3者連携施設である。博物館と図書館を兼ね備えているが、マンガのすそ野の拡大、人材育成の場でもある。

写真1

写真1 京都国際マンガミュージアム

2006年11月に開館した京都国際マンガミュージアム(養老孟司館長)は博物館と図書館を兼ね備えた、わが国初のマンガの総合文化施設である。統合で閉校になった、元の京都市立龍池小学校の校舎を増改築して利用している(写真1)。烏丸通と御池通の交差点の近くにあり、西に700~800メートル行くと二条城、同じくらいの距離を北に進むと京都御所、南東には京都市街の1番にぎやかなエリアが広がる。オープンしてから2年間の入館者は約50万人。ある時期の調査によると10~15%は外国人だ。京都の観光拠点としても定着しつつある。

このミュージアムは、京都市、地域住民、それに30年以上にわたってマンガ文化の教育・研究を行ってきた京都精華大学(以下、精華大)の3者連携施設である。

京都市が土地と建物を無償で提供。さらに生涯学習部門から職員1人を派遣し、同ミュージアムの活動を学校教育や市民の文化活動に結び付ける事業を行っている。

住民との協働は京都ならではのものだ。京都の小学校は1869(明治2)年、町衆が私財を投じて番組(学区)ごとに創設したものがもとで、学校教育では常に行政と住民が二人三脚で歩んできた。マンガミュージアムとしての利用も市と住民の合意で決めたという。建物の一部には自治会の集会用ホールや体育館があり、地域のコミュニティーセンターになっている。

そして、市と精華大で組織する運営委員会の下、同大学がミュージアムを管理・運営している。また、大学はミュージアムの建物に、大学の一部門である「国際マンガ研究センター」を併設している。

精華大はこのミュージアム運営において「資料の調査・研究」「博物館・図書館の展開」という2つの柱に加え、次の3つの機能充実を目指している。

写真2

        写真2 マンガの壁。各国のマンガが
            ずらりと並ぶ

1.研究者・専門家の育成

    研究プロジェクトへの参画、成果の発表、資料の公開、情報ネットワークの構築などによって若い研究者や学生の研究を支援。クリエイターの養成、学芸員・司書技能のカリキュラム提供も。

2.新産業の創造

    国内外のマンガの社会的な活用事例を収集し、その効果や課題を検証しながらビジネスとしてのマンガ活用モデルを研究・開発。博物館の施設・機能の新たな在り方も模索。

3.生涯学習・文化の創造

    京都市が誘致して2008年に開催した「国際マンガサミット(国際漫画家大会)」など、マンガを通じた国際文化交流。地域社会に向けた各種講座。幼児・児童を対象にした学習プログラムなどの開発。

京都国際マンガミュージアムの概要
・  マンガの壁(写真2。140メートルにおよぶ書架に約5万冊のマンガ。手にとって読める)
・  研究閲覧室(閉架資料の閲覧を希望する場合、ここで利用登録すると見られる)
・  マンガ万博(さまざまな国・地域のマンガ約1,400冊を並べる。手にとって読める)
・  マンガ工房・似顔絵コーナー(土日祝日、大学卒業生によるマンガの描き方の実演など)
・  ワークショップコーナー(土日祝日)
・  こども図書館(子ども用のマンガ、絵本を集めた図書館)
・  100人の舞妓展(174人のマンガ家が描いた舞妓さんを廊下の壁に展示)
・  龍池歴史記念館(龍池小学校の歴史を紹介)
・  紙芝居(ヤッサン一座の紙芝居口演)
・  未来マンガ研究室(コンピューターを使ってマンガを読んだり、自分でキャラクターをデザインしたりすることができる)
・  セレクションギャラリー(日本マンガの歴史、海外のマンガ事情、風刺マンガなどを展示)
・  研究展示ギャラリー・収蔵庫(25万点を超える資料を収蔵している書庫の一部を見ることができる)

同大学が、長年の研究の成果や蓄積しているノウハウを同ミュージアムの運営に活かすとともに、そこで学生や卒業生が活動して得られた新たな知見を大学での研究・教育にフィードバックしようというわけである。

「小中学校の教育現場でもいろいろな試みがある。大化の改新を4コママンガで表現してみようとか、四字熟語をマンガにしようといったもので、こうした事例も蓄積されていく」と同大学国際マンガ研究センター研究員の表智之さんは語る。

興味深いのはマンガを媒介とした新しいビジネスモデルの研究・開発だろう。精華大のマンガ学部の学生は1学年173人。そのうち83人がマンガを描くことを専門に学ぶが、全員がマンガ雑誌に連載ものを描くプロマンガ家になるわけではない。大学にとって、マンガの多様な活用方法、学生らの進路開拓は重要な仕事でもある。表さんはこう見ている。

「このミュージアムでアルバイトをしている学生もいるが、なぜマンガを習うのかを考えるいい機会だ。子どもにマンガを体験させるイベントを企画する、似顔絵や結婚式のウエルカムボードを描く、マンガのルポルタージュを制作する——こうした活動で培ったノウハウが学生にも、ミュージアムにも、大学にも蓄積される。そうした中から、マンガを学んだ学生の進路、ビジネスモデルができるかもしれない」

同大学名誉教授で、国際マンガ研究センター長の牧野圭一さんは、このミュージアムの果たしている役割について次のように述べている。

「マンガ家の個人名を付した美術館、記念館は数多いが、『マンガ文化』を標榜(ひょうぼう)し、専任の学芸員を置いて、俯瞰(ふかん)的な視点で研究を進める専門施設は少ない。マンガ学部を持つ京都精華大学を背景に、マンガ学会のバックアップまでを守備範囲にする当館は、京都の中心部にあるという立地も含め、象徴的位置を占める。また、その姿勢にふさわしい成果を着々と築いている」

京都精華大学、マンガ教材など受託制作
写真3

        写真3 京都精華大学 事業推進室長
            黒飛恵子氏

京都精華大学のリエゾン部門である事業推進室は、企業、官公庁、各種団体からマンガを使った教材、啓発用パンフレット、広報・PR資料などの制作を精力的に受託している。こうした分野は「実用マンガ」と呼ぶが、制作に携わった卒業生の中からプロとしてデビューした人もいる。マンガの可能性を広げ、マンガ学部卒業生の活躍する場づくりに結び付けようという試みだ。

知的財産権の啓発(近畿経済産業局)、中小企業の輸出を支援するマニュアル(日本貿易振興機構=ジェトロ)、医師のインフォームドコンセント(十分な説明と同意)に役立てる「くも膜下出血」や「脳出血」の発症から回復までの解説(京都府立医科大学)——と、依頼されるテーマは幅広い。同室が企業などから請け負って契約する。作画については同室が卒業生に依頼する。年間70件ほど手掛ける。

民間のプロダクションや出版社との違いについて、同推進室長の黒飛恵子さん(写真3)は「精華大はマンガだけでなく、ほかの学部、分野のノウハウを持っていること」と説明する。3月に、子どもたちを対象にした繊維製品リサイクルの啓発資料を作成したときは、地元の京都工芸繊維大学の繊維関係の研究者から声が掛かり、精華大人文学部の環境系教員らと連携、作画はマンガ学部卒業生というチーム編成だった。

こうしたマンガ制作は同大学の産学官連携の取り組みでもあるのだが、“ビジネス” としてもまずまずの結果が出ていることは注目に値する。「作画者にはきちんとお金を払う。やるからにはプロだから」(黒飛さん)。制作対価の交渉、著作権契約などのマネジメント機能が大切という。

黒飛さんは「われわれの仕事はいかにいいクライアントを見つけてくるか、そして受けた仕事を通じてマンガの新しいジャンルを確立すること」と明快だ。それがビジネスのサイクルとして循環しているわけである。

今、理工系の大学院生、ポスドクの深刻な就職難が社会問題となっており、文部科学省と大学が連携してその進路開拓に注力している。京都精華大学のマンガを学んだ学生の進路多様化の試みはヒントを与えているのではないだろうか。

京都市、コンテンツの新産業創出の可能性探る

京都市は昨年12月、マンガ、アニメ、映画、ゲームなどの大学の研究者や業界関係者に参加を求めて「京都市コンテンツビジネス研究会」を設置、産学官(公)連携によるコンテンツの新産業創出の可能性、既存の産業の振興策を探っている。

「分野を横断する『融合』」「グローバル」「企業活動の現場から」——の3 つの視点から議論を進める。「融合は単にマンガ、アニメ、映画、ゲームなどの個別分野の領域を超えるだけでなく、それらと京都の文化、伝統を融合させて新たな事業展開の可能性・方向性を探るという意味もある」(京都市産業観光局産業振興室)。

同研究会は第一線で活躍する学識者、業界人のほか、経済産業省、文化庁、観光庁などの関係者およそ30人で構成。市が企業の現場が抱える課題や市場のニーズを調査(アンケートやヒアリング)。その調査結果も参考にしながら平成22年3月まで研究会を継続する。研究会の提言を踏まえ、市が同産業振興策を取りまとめる予定だ。

(登坂 和洋:本誌編集長)