2009年6月号
巻頭言
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阿部 博之 Profile
(あべ・ひろゆき)

前 総合科学技術会議議員




イノベーションの今日的意義

米国型の資本主義が大きな亀裂を生じ、世界中に影響を与えていることは、連日報道されている。米国は「モノづくり」重視の方向を修正して「金融王国」に向けて舵(かじ)を切った。その原因の1 つに、日本などとの「モノづくり」の競争があったことは否めない。米国が今後、どのような資本主義を目指すのかは、現在のところ不明である。しかし、日本が今までのように、米国の過度な消費を当てにした輸出依存に乗り過ぎるのは望ましいことではない。

一方、国内の方策として、内需振興が叫ばれている。しかし、ここ数年はともかく、長期的に見れば、今までの路線の延長では限界が見えている。最大の要因は、少子化による人口の減少である。その結果として、家屋の数はもちろんのこと、自動車への需要も減少する。家電製品への影響も小さくない。この流れを乗り越えるにはどうしたらよいであろうか。

第1 は、新しい需要を生み出す産業を立ち上げることである。しかし、内需をすべてハードの製品に期待するとすれば、やはり限界があろう。実は日本人が切に願っているのは「教育」「医療」「年金」「介護」の水準向上、システムやインフラの整備であり、従って第2 は、これらの改革に投資することである。加えて「結婚」「育児」の環境整備である。国もこれらの分野に対して予算を抑える側に立つのではなく、世界に誇れる積極的な戦略に転じるべきである。出生率を向上させること、人口増を図ること、をも念頭に置いての戦略であり、そのための環境と基盤の整備である。内需振興は、長期的かつ総合的な視点に立たなければ、メッキと矛盾に終わってしまうのである。

イノベーションの芽はどこから出てくるかわからない。特に研究と人材育成の多様性が生命である。また、東京一極集中と国全体の画一化は、21 世紀型先進国として大きいリスクを伴うことになる。いま、国内各地域の多様な活性化が求められている。三大都市圏はともかく、例えば、幾つかの県は、自由になる予算増を求めるだけではなく、世界的に見て優れた人材を集めることに専心すべきである。シンガポールの人材政策は1 つの参考になるであろう。

イノベーション戦略は、21 世紀にふさわしい社会、国そして世界をどのようにつくっていくか、という課題と重なるのである。