2009年6月号
特集  - 産学官連携の新たな挑戦
水素エネルギーの有効性とその課題
燃料電池技術の現状と将来
顔写真

松尾 義之 Profile
(まつお・よしゆき)

株式会社白日社 編集長/
東京電力科学誌「イリューム」
編集長

現在、燃料電池が多く使われているのは家庭用のコージェネレーションシステム「エネファーム」。小型の装置を1台350万円程度と見積もると、市場規模はおよそ40億円。まだ小さい市場だが、2020年には2,000億円程度になるという予測もある。普及の課題は長寿命化と低コスト化である。

水素エネルギーへの取り組みは、第一次石油ショックのあとのサンシャイン計画(1974 年-)から始まった。水素はクリーンなエネルギーだが、水素吸蔵合金などにため込む技術が必要だといった検討がなされた。その後、78 年からのムーンライト計画、ニューサンシャイン計画(93 - 00 年)に引き継がれ、現在もなお継続中の技術開発テーマである。道のりは長い。

この流れの中から燃料電池が開発テーマに取り上げられたのは、ムーンライト計画の中の90 年前後だった。燃料電池とは、水の電気分解の反対、つまり水素と酸素から電気エネルギーを取り出す仕組みのことで、意味からすれば「燃料発電機」である。つまり、燃料電池というのは石油や原子力のような大本の一次エネルギー源ではなく、いわゆる二次エネルギーと呼ばれるものだ。また、燃料は水素に限られているわけではなく、方式によって、天然ガス、メタノール、ナフサ、灯油と、さまざまな燃料を利用することができる。

もちろん一部ではあるが、燃料電池の実用化は速かった。理由の1つは、当時すでに実証化されていた技術で、人工衛星に使われていたこともあったと思われる。さらに電力自由化と関連して、工場などで独自の発電設備として採用・導入されていった。ただ、メーカーがその後、発電設備をどんどん増強しているという話は聞かない。

燃料電池がいま現在、最も多く販売されているのは、家庭用のコージェネレーションシステム「エネファーム」としてである。社団法人日本電機工業会による「2007年度燃料電池納入量統計調査報告」によれば、燃料電池システムは2007年に1,040台が新規に納入された。そのうちの1,008台が固体高分子型(第4 世代)という最も新しいタイプの燃料電池だ(うち930台が0.5 - 2 キロワットの住宅用)。残りは、リン酸型(第1 世代)が1 台、固体酸化物型(第3 世代)が31 台で、溶融炭酸塩型(第2 世代)の納入はゼロだった。

小型の装置を約350 万円程度と見積もると、現在の日本の燃料電池市場は、約40 億円程度といったところであろうか。まだまだ小さい市場だ。

技術のカギは安価な触媒

ところが、である。某シンクタンクの予測で、2020年には1兆円を超えるという数字が登場した。この種の予測は希望的観測といったところだが(修正予測では大幅に減少して2,000億円)、そうとばかりも言い切れない面がある。

燃料電池の現在の課題は、思い切って言えば、長寿命化と低コスト化である。特に、現在使われている白金触媒がネックだ。白金は高価な貴金属で、排ガス触媒などにも使われている。これを安価な触媒で置き換えることができれば、まさにブレークスルーとなる。例えば群馬大学の尾崎純一教授と日清紡ホールディングス株式会社が開発中の炭素構造物(カーボンアロイ)など、注目すべき技術開発が進行中だ。

製品の値段がちょっと高くても、許容範囲内であれば市場が形成されることは、トヨタのプリウスの例が見事に物語っている。そこにいかに持っていくか、日本の燃料電池にかかわる技術者の腕とマーケティングの力が問われている。

尾崎教授らの研究も含めて、現在の燃料電池の技術開発は、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)が中心となって進めている。平成20年度の関連予算の合計は約200 億円なので、決して半端な額ではない。もちろんそこには、単なる技術開発だけでなく、水素の輸送や貯蔵、水素社会を構築するための基盤整備事業も含まれている。

燃料電池と言えば、自動車を欠かすわけにはいかない。トヨタ、ホンダだけでなく、GM やベンツなどでも、すでに燃料電池車を製品化している。ただ、製品化とは言っても実際の価格は1 億円台で、リースで年間数百万円といったレベルである。コストを約100分の1 にしないと、本当の意味での実用化にはならない。ここでも大きな課題は白金触媒と見られている。また、いわゆる総合効率(燃料効率+車両効率)でも、現在の燃料電池車はプリウスのレベルを超えていないようで、今後の技術開発課題だ。

意外な頑張りを見せているのが、ノートパソコンなど携帯電子機器用の超小型燃料電池である(先の統計調査には入っていない)。ただ、この小型電源分野でどの技術が支配的になるのか、予想はつきかねるのが現実だ。

一歩先をゆく技術開発を

振り返ってみればこの35 年以上、エネルギー資源を持たない日本は「新エネルギーや省エネルギーの技術開発」という徹底した戦略を、維持・継続しつづけてきた。それが、今日のプリウスや太陽電池にとどまらず、優れた省エネ家電や高効率石炭火力タービンなどに結実したことは、ほとんど間違いない。いまや日本は多くの技術分野で世界のトップを走り、イノベーションの開拓者としての道を歩んでいるが、常に変わらずに徹底したエネルギー技術開発政策が貫徹されてきたことは、高く評価されてよい。

水素利用の燃料電池も、ようやく、本当の市場が開拓されようとしている。2008 年には、パナソニックから「100万円をターゲットとした製品」という発言が出た。これは、かなりの販売台数を意識してのことであろう。数十年にわたる開発の歴史を見れば、エネルギー機器として燃料電池(コージェネレーション)が普及していくことは必然的と見ることができる。しかしなお、一歩先をゆく技術の開発が待たれていると言えるだろう。