2009年6月号
特集  - 産学官連携の新たな挑戦
成長力強化のための高度人材の活用 
-平成21年度補正予算案のポイント-

文部科学省
科学技術・学術政策局  基盤政策課
研究振興局  研究環境・産業連携課


昨秋の世界的な金融危機に端を発した経済不況が深刻化する中、資金繰りが困難な企業が数多く発生することが予想されており、その結果として、企業研究者の雇用環境の悪化や基礎研究分野への投資減退をはじめとした企業の研究開発活動の委縮が懸念されている。こうした研究開発活動の委縮は、わが国経済の長期的発展に向けた、将来にわたる継続的なイノベーションの創出を阻害する大きな要因であり、国としてこれら企業の研究開発活動を下支えすることや、大学における基礎研究の促進を図ることで、わが国全体の研究開発を維持し、さらには強化していくための取り組みが必要である。

その際、ポストドクター、企業研究者・技術者などの高度人材は、わが国の研究開発の維持・強化を図る上で鍵となる人的要素であり、これら人材の活躍により成長力を強化し、世界に先駆けて経済危機を克服することが求められている。そのため、文部科学省においては、平成21 年度補正予算案において以下の2 施策を計上している。

企業研究者活用型基礎研究推進事業【12 億円】
(独立行政法人科学技術振興機構運営費交付金)(図1
図1

図1 企業研究者活用型基礎研究推進事業

本施策は、大学、研究開発型独立行政法人(以下、「大学等」という)が企業の優秀な研究者を受け入れて基礎研究を行うことが可能な枠組みを構築することで、企業研究者が産業界の知見や視点を活用した基礎研究を推進し、大学等の研究活動を活性化するとともに、企業の研究開発力の強化を図るものである。

企業には数多くの優秀な研究者が在籍しているが、昨今の経済情勢の悪化により企業の研究開発投資が縮小傾向に向かう懸念があり、研究者のスキルの維持や雇用の確保が喫緊の課題となっている。

本施策の実施により、企業にとっては、雇用環境の創出・維持はもとより、自社の研究者が「知」の拠点たる大学等において基盤技術を獲得し、スキルを向上させる等の人的な付加価値の創出が期待される一方で、大学等にとっても、産業界の知見や視点といった新たな空気を研究現場に持ち込み、革新的な研究成果や新領域・融合領域の創出など、基礎研究の推進が期待できる。

今回の景気の悪化をむしろ好機ととらえ、大学等と企業との人的結び付きを強化するとともに、産学官連携の推進、新たな研究領域の創出等を図ることにより、わが国経済のオープン・イノベーションの推進、科学技術力・国際競争力の向上を目指す。

高度な専門的能力・知識をもつポストドクターの産業界での
積極的活用【5 億円】
(独立行政法人科学技術振興機構運営費交付金)(図2

本施策は、民間企業の研究開発等の活性化・高度化を図るため、ポストドクターを雇用し、その専門的能力・知識を積極的に活用する企業等を支援するものである。

図2

図2 高度研究人材活用促進事業

ポストドクター等の人数は年々増加しており、2006 年度の延べ人数は1万6,394 人となっている。一方、アカデミアにおける研究者の採用状況は、平成10 年度から平成19 年度において、本務教員の総数が約2 万人増えているのに対し、37 歳以下の若手教員の割合は減少(25.2%→ 21.3%)しており、ポストドクター後のキャリアパスが不透明であるとの指摘があるところである。

今回の施策の背景には「ポストドクターを取り巻く状況」と「企業におけるポストドクターの活用状況」の間にミスマッチが生じている現状がある。「ポストドクター等のキャリア選択に関する分析(文部科学省科学技術政策研究所 平成20 年12 月)」によれば、ポストドクター等の約4 分の3 は、大学・公的研究機関の研究者になることを強く希望している一方、半数以上のポストドクター等が企業の研究者・技術者に就くことに前向きである。

一方、産業界では、企業に雇用された博士号所得者の割合は、米国の半分以下(日:米= 17%:34%)であり「平成19 年度 民間企業の研究活動に関する調査報告(文部科学省 平成21 年1 月)」によれば、実際に約9 割の企業はポストドクターの採用に消極的であり(毎年採用している企業は2%程度)、企業でポストドクターの専門的能力を活用できていないのが実態である。

また、同調査報告では、ポストドクターを採用した企業からは「期待を上回った」と回答した企業の割合が経歴別で最も高い(例.論理的思考力:学士2.0% 修士:3.2% 博士:4.9% ポストドクター:11.8%)ことも示されており、ポストドクターに対する企業側の「食わず嫌い」が生じている懸念がある。

本施策は、以上のような背景を踏まえ、ポストドクターの専門的能力・知識を産業界で積極的に活用することにより、民間企業の研究開発等の活性化・高度化に加え、ポストドクターから民間企業へのキャリアパス形成を促進することを目的としている。


このように、文部科学省においては、組織を越えた双方向の「頭脳循環」により産学官の潜在能力を最大限に発揮することで、[1]産学官連携の強化、[2]新興・融合領域の創出、および[3]新たな雇用の創出を目指していく。各事業の詳細については、平成21 年度補正予算の成立後、JST(独立行政法人科学技術振興機構)のホームページ上で公表を予定している。