2009年6月号
特集  - 産学官連携の新たな挑戦
研究機関の米国での特許取得を支援
-製薬協がiPS細胞関連でプロジェクト-
顔写真

秋元 浩 Profile
(あきもと・ひろし)

日本製薬工業協会 知的財産顧問
知財支援プロジェクトリーダー/
財団法人バイオインダストリー協会
知的財産委員会委員長/
東京大学大学院 客員教授/
九州大学 特任教授

世界の医薬品市場のおよそ半分が米国。強い製薬企業として生き残るには同国で通用する特許権の取得が必須だ。製薬企業の集まりである日本製薬工業協会は、大学など研究機関がiPS細胞関連の研究成果を同国で知的財産とすることを支援するプロジェクトを実施している。

日本製薬工業協会(製薬協)は、2008 年11 月から、大学などの研究機関がiPS 細胞関連の研究成果を米国で知的財産とすることを支援する「知財支援プロジェクト」を、1 年間の時限で独自に推進している。

医薬品は、知財戦略による製品の保護が非常に強力である。世界の医薬品市場のおよそ50%が米国。強い製薬企業として生き残るには、知財戦略に基づいた、米国で通用する特許の取得が必須条件。一方、強い製薬企業には「より良い薬を生み出すことにより、国民の健康の向上に奉仕する」という理念が遺伝子の中に組み込まれている。当プロジェクトはこの2 つの要因から生み出された。

研究機関を訪問しアドバイス

製薬協の理事会社13 社の資金拠出による当プロジェクトは、製薬企業OB により構成されている。iPS 細胞関連の研究が行われている大学等の研究機関を訪問し、研究部門と知財部門の方々が同席されている場で、研究者の方、知財部門の方それぞれに、米国の特許制度の特徴とそれを活用した米国への出願戦略の考え方を製薬企業での経験に基づいて説明する。研究者の研究内容をご説明いただいたような場合には、守秘義務のもとに米国出願の考え方などをアドバイスしている。

iPS 細胞関連の研究を行っている大学等の研究機関については、各種の公開情報等を参考に選び、当プロジェクトの活動をご案内し、受諾いただいた施設から順次、訪問している。図1 で個別に挙げた施設は、2009 年5月29 日の時点で訪問したか訪問日程が確定した施設、それ以外の候補施設については、活動のご案内と日程調整を鋭意進めている。これまで訪問したいずれの研究機関でも、本プロジェクトからの説明は大好評だ。研究者の方は「初めて聞く話」とのこと。知財部門の方にとっても、製薬企業が行っている仮出願などの、米国特許制度の特徴を利用した出願戦略は「想像してみたこともない考え方」とのことである。

製薬協が米国での特許の権利化を支援する第1の理由は、iPS 細胞関連の研究のゴールの1 つが再生医療だからである。医療環境等の要因を考慮すると、再生医療が最も早く実用化されるのは医療分野のマーケットシェアが最も大きい米国になると考えられる。再生医療のゴールである治療方法は、米国では特許になるが、日本では特許を取ることはできない。米国でiPS 細胞を使った治療方法の強い特許を取ることができれば、ベンチャーが、その特許を使って技術をインキュベートして事業化することができる。iPS細胞関連の研究が治療方法にたどり着くには多くのブレークスルーが必要である。そのような研究成果も特許になると思われる。また、1 つの治療方法を実現するには、多くの特許が関係することになる可能性が高いので、これらの特許化を強力に推進する必要がある。また、iPS 細胞関連の研究は、治療方法以外にも広範に展開されると思われる。知財支援プロジェクトは、それらをすべて支援している。

第2 の理由は、米国と日本で特許制度がかなり異なるからである。日本の大学や研究機関の知財部門は、日本の特許制度を中心に考えており、また世界のマーケットシェアを意識していない傾向があり、米国の特許制度の特徴を基礎とした世界戦略を立てることはほとんどないようである。

iPS 細胞は日本発のバイオ分野でのノーベル賞級の発明。この支援活動で、日本の大学・研究機関の研究成果が米国で適切に権利化されれば、日本のiPS 細胞や再生医療に関連する学問・技術の水準が世界のトップレベルであることを証明することになる。これが当プロジェクトが目指しているゴールである。残された期間で、より多くの施設を訪問し、お役に立てる支援活動を行っていきたいと思っている。

図1

図1 製薬協・知財支援プロジェクト