2009年6月号
特集  - 産学官連携の新たな挑戦
つくばの目覚め
つくば発ベンチャー企業の育成
-新事業の創出を目指して-
顔写真

石塚 万里 Profile
(いしづか・まり)

株式会社つくば研究支援センター
総務企画部 創業支援室長
インキュベーションマネージャー

茨城県、日本政策投資銀行のほか、三井物産、東京電力など大手企業約70社が出資している第3セクター、株式会社つくば研究支援センターの業務の柱の1つがビジネス・インキュベーション。現在入居しているベンチャー企業は約40社。同じ施設内に県が作ったインキュベーション施設「つくば創業プラザ」の管理運営とあわせ、地域のベンチャー企業による新事業創出を最前線で支えている。

はじめに

株式会社つくば研究支援センターは、世界有数の研究開発機関が集積する「サイエンスシティつくば」に立地するという特長を最大限に活かし、産学官連携による新事業の創出と地域の活性化を目指すセンターとして1988 年に設立された(写真1)。

写真1

             写真1 株式会社つくば研究
                  支援センターの外観

設立当初から、つくばにおける産学官連携ネットワークの形成や産学官連携プロジェクトのコーディネーションを通して新事業の創出を推進してきたが、さらに近年は、ベンチャー企業による新事業の創出を目指して、ビジネス・インキュベーション事業*1にも大きな力を注いでいる。

ここでは、つくばのベンチャー企業に対して当社がどのようにビジネス・インキュベーション事業を行い、新事業の創出を推進してきたかについて紹介したい。

当社におけるビジネス・インキュベーション事業の始まり

今から7 年前、当社では施設内に「創業準備ルーム」という名の小さなシェアードオフィスを4 つ作った。わずか30m2の部屋をパーティションで4つに区切り、1 番小さい部屋は3m2。事業を始めるのに必要最小限の机・キャビネット・インターネット環境を整え、これから起業しようという人に「第一歩を踏み出す場」として提供した。

これが当社にとっても、ビジネス・インキュベーション事業の第一歩だった。現在では20区画のシェアードオフィスに16 社が入居しており、その後、茨城県が当社敷地内に作ったインキュベーション施設「つくば創業プラザ」(管理運営は当社)の24 室とともに、ベンチャー企業のスタートアップを支えている。

また、この施設の設置と並行してベンチャー企業の創業サポート体制を充実させた。まず社員をインキュベーションマネージャーとして育成し、企業の立ち上げを支援するとともに、社会保険労務士、税理士、行政書士といった専門家の支援ネットワークを構築し、無料相談会を実施した。これらのネットワークに参加してくれる専門家は、当時まだ業歴の浅い人がほとんどであったが、ベンチャー企業とともに歩み、親身に起業家を支えてくれた。ちなみに、それから7 年がたった今、彼らはそれぞれベンチャーサポートのエキスパートとなり、さらに力強くつくば発ベンチャー企業の成長を支えている。

つくば発ベンチャー企業の成長と当社の役割

当初施設内の企業を中心としたこれらの活動は、つくば発ベンチャー企業の急増とともに、その対象はつくば発ベンチャー企業全体に広がった。特につくばのベンチャー企業は、高い技術力を持ちながら経営力の伴わない企業が多いため、社内の人的体制が整備されるまで、インキュベーションマネージャーや専門家の支援が必要であり、同時に当社の役割も重要になっていった。

また、創業支援から始まった当社のビジネス・インキュベーション事業は、企業の成長とともにその範囲を拡大している。

例えば、ベンチャー企業が競争的研究資金を獲得しようとするとき、当社は管理法人を引き受け研究の推進と事業化を支援する。この5 年で地域新生コンソーシアム研究開発事業など、実に7件の管理法人を行ってきた。また民間からのスピンアウトベンチャーが研究機関との共同研究を望むときは、そのパイプ役ともなり、電子回路のシミュレーションソフトを開発しているあるITベンチャーは、自社で開発したソフトに研究機関の解析技術を取り入れることで競合大手をしのぐ製品を作り上げた。

また、当社が主宰するBio Tsukuba というバイオベンチャーのネットワークでは、分析・計測技術を持つ会員のベンチャー企業11 社が「つくばバイオビジネス・ネットワーク」という組織を立ち上げた。ここではお互いの得意分野を活かして共同受注を始め、少しずつではあるが成果を上げている。当社はインキュベーション事業の一環として、また産学官連携促進事業の一環としてこれらの活動を側面から支えている。

新事業の創出とその成果の普及に向けて

つくば発ベンチャー企業によりさまざまな製品やサービスが生まれているが、新事業の創出が成功したと言えるのは、製品やサービスが売れてからである。ベンチャー企業の製品やサービスが市場に受け入れられ普及するまでには高いハードルがあり、製品の信用力や企業の知名度の低さ、営業力の弱さを克服していくことが今後の課題である。

数年前から、つくば発ベンチャー企業の間からも、販路が開拓できず行き詰まっているという声が数多く聞こえてくるようになり、これを打開するため、私たちは販路開拓支援にも力を入れた。

例えば、ベンチャー企業1 社単独では資金的に出展が難しい大規模な専門の展示会に数社で共同出展したり、大手企業のOB を抱えるNPOとともに個別の販路開拓支援事業を実施したり、大手企業とベンチャー企業のビジネスマッチング会を開催したりしている。

この中で特徴的なものとしては、KSP(かながわサイエンスパーク)を中心に当社をはじめ全国のインキュベータが共同で開催している「ベンチャーマッチング商談会」が挙げられる。この商談会は、あらかじめ大手企業がベンチャー企業に求める技術の「ニーズリスト」を作成しておき、ベンチャー企業がこれに提案する形で商談を行う。大手企業のニーズリストがあるので、マッチングの確率の高い商談会になっている。また、1インキュベータだけでは大手企業が興味を持ち続けるレベルのベンチャー企業およびその提案はそろわないが、全国のインキュベータが協力することで、大手にとってもベンチャー企業にとっても魅力ある商談会が継続できている。

写真2

       写真2 三井物産株式会社で開かれた
            「つくばビジネスマッチング会」

当社独自の事業の中で特徴的なものとしては、三井物産株式会社と共催で行っている「つくばビジネスマッチング会」(写真2)が挙げられる。毎年、東京・大手町の三井物産本社に同社関係者のほか、メーカーやベンチャーキャピタルの人など約150名に集まっていただき、つくば発ベンチャー企業10 社が事業および技術のプレゼンテーションを行う。これは当社の発起人株主でもある三井物産の多大な協力のもとに実現しているもので、将来は同社とつくば発ベンチャーの連携により大きなビジネスを生むことができればと願っている。

これからの役割

これらのマッチング会は、高い技術力を持つベンチャー企業と大手企業のマッチングを目的に開催しているため、下請け受注ではなく、ある面では対等の立場でのマッチングを目指している。これまでにもベンチャー企業の技術が大手企業の製品に組み入れられるなど大きな商談が成立したものもあるが、簡単に話が進むものは少ない。

商談成立の確率は今のところ高くはないが、こうしたマッチング会にはもう1 つのメリットがある。それは、今、大手企業が求めている技術、これからのトレンドを知ることができることだ。どんなに素晴らしい性能を持つ製品ができても、時代の要請に合わなかったり、大手企業の研究開発が別の方向へ歩み出している場合がある。どうしてもシーズ発となりがちな産学連携やその成果を売るベンチャー企業にとって、大手企業との商談は、ニーズからのアプローチに目を向ける重要な機会となる。

現在、景気の悪化で足踏みをしているベンチャー企業が多いが、これを乗り越えて次の時代を切り開くためにも、時代のニーズを的確にとらえて前進していかなくてはならない。同時に私たちも、さらに効果的な商談会の在り方を探るとともに、民間企業OB の活用などを通して、可能な限り時代と地域が求める役割に応えていきたいと思っている。

*1
ビジネス・インキュベーションとは、事業を始める人または始めて間もない人に対して、不足している知識や資源を補い、その成長を促進させる活動である。施設整備のほか、インキュベーション・マネージャー(起業家を総合的にサポートする者)が各種支援機関や専門家との連携のもと、会社設立から事業計画策定、研究開発、販路開拓まで幅広く支援する活動を指す。