2009年6月号
特集  - 産学官連携の新たな挑戦
つくばの目覚め
活発化する筑波大学とつくば地域の連携
顔写真

新谷 由紀子 Profile
(しんや・ゆきこ)

筑波大学 産学リエゾン
共同研究センター 准教授


研究機関が集積している茨城県つくば地域ではベンチャー企業が相次いで誕生し、大学などと連携して研究開発を進めている。筑波大学の産学連携活動をITとロボットに絞って紹介する。

筑波大学は総合大学としてさまざまな技術シーズを有しているが、つくば地域において最近特に活発化している産学連携活動はIT とロボットの分野である。

IT 関連の地域連携

つくばでは、文部科学省の「都市エリア産学官連携促進事業」が2002 年度から2007 年度まで実施された。前半の3年間は成果育成型事業で、後半の3 年間は「発展型」の事業として引き継がれた。この事業は、大学等の「知恵」を活用して新技術シーズを生み出し、新規事業等の創出等を図るとともに、産学官連携基盤の構築を目指すものである。

これは茨城県が提案者となって申請したものであり、筑波大学のほか、独立行政法人産業技術総合研究所、同農業・食品産業技術総合研究機構が中核機関となって、株式会社日立製作所やその関連会社、電子機器メーカー等多数の企業が参加し、次世代型マルチメディアの開発や、高精細映像情報モニタリングシステムの開発など、IT関係を中心に研究開発が行われた。

この事業によって、例えば、多数のセンサーやデバイスを搭載した高機能なフィールドサーバー・エンジンを開発し、このエンジンを用いた監視カメラをつくば市の不法投棄エリアに設置、映像サーベイランスを実施するなどした。この装置は無線LAN でインターネットに接続できるため、遠隔地のパソコンからリアルタイムで監視できるとともに、保存画像を用いて不法投棄者を追跡できるなど、実用化につながる成果を挙げることができた。

こうした大規模な研究機関が相互に連携協力して成果を挙げる一方、筑波大学の学生の間からも有望なIT 関連企業が生まれた。

株式会社ニューフォレスター(2005 年2月設立、星野厚代表)は、コンピューターソフトウエアの研究開発などを行う学生起業のベンチャーである。同社の開発する「スポーツミラー」は、パソコンに接続したデジタルビデオカメラまたはウェブカメラで撮影した映像を任意の時間遅延させて表示するソフトで、体育の授業やゴルフ練習等で動作確認用に使用されている。

また、ターンテーブルを模したDJ 用の音楽再生用プレーヤーソフト「iPJ」は、iPhone 用に作成したものであるが、インターネットショッピングサイトを通じて62 カ国で販売されており、無料試用版は3 カ月で5 万件のダウンロードを記録している。

同社は創業当初の目標に地域振興を掲げ、2008 年には筑波研究学園都市発ベンチャー企業のネットワーク「T’ znet」を構築、各社との協力体制を整備して「つくば」のブランド化戦略を図っている。

こうしたベンチャーの連携の広がりは、2005 年12 月の「筑波大メンターの会」の設立が発端になっているといえるだろう。筑波大学卒業生や、つくば市在住企業経営者による筑波大学発ベンチャーを支援する会員組織が、ベンチャーのよき協力者になっている。

また、仮想ネットワーク(VPN)構築ソフトウエア「PacketiX VPN2.0」の開発・販売で大きな実績をつくった学生発ベンチャーのソフトイーサ株式会社(2004 年4 月設立、登大遊代表)は、つくばエクスプレス(TX)つくば駅前に拠点を設けて活躍している。

同社は、2008 年12 月から、ギガビット広域イーサネット専用線サービス「HardEther」も開始した。このサービスは、筑波大学の教員が起業したベンチャーのCYBERDYNE 株式会社(2004 年6月設立、山海嘉之代表)からの相談がきっかけとなった。2 拠点間800Mbps という高速を保証し(最大1Gbps)、しかも低価格を実現した。

さらに、同社は、中小・ベンチャー向けの割引価格を設定するなど、地元の企業支援も始めている。また、筑波大学との共同研究を実施しており、つくばの地の利を十分に活用しているといえる。

ロボット関連の地域連携

リハビリや自律動作支援、重作業支援用のロボットスーツ「HAL」の研究開発で有名になった前掲の教員発ベンチャーCYBERDYNEは、実用化の段階に入った。2008 年10 月にTX 研究学園駅前に新社屋を設け、付近の大型ショッピングセンター内に展示等を行うサイバーダインスタジオを開設するなど、つくばに根を下ろした活動を展開している。

一方、つくば市では、2007 年11 月に「つくばチャレンジ」という知能ロボットの初の公開実験を行った。これは、つくば市中心部の遊歩道で、ロボットが自力で1km を走るというもので、全国から27 チームが参加したものの、完走したのは筑波大学のチームを含めてわずか3 チームという結果となった。

ロボットは、センサーやモーター等の多数の要素が集積したものであるため、個別にそれらの要素の開発から行っていくと、手間やコストが膨大になってしまうという問題がある。

写真1

写真1
     筑波大学産学リエゾン共同研究センター
     CYBERDYNE 社をはじめとする筑波大
     学発ベンチャーの研究開発がここで行
     われている。また、共同研究、ベンチャー
     創業のための研究を支援している。

このため、ロボットシステムの実現に必要な要素をモジュールとして開発し、それを市場から入手可能な状態にしていくためのプロジェクトを現在、筑波大学産学リエゾン共同研究センター(ILC)(写真1)で支援しているところである。これは、上記の完走した3チームの中に入った筑波大学の油田信一教授とソフトウエア会社の富士ソフト株式会社との共同研究に対する支援である。

こうした事例を背景に、2009 年3 月には、つくば市の「ロボットの街つくば推進会議(座長:油田信一教授)」が提言をまとめた。これは、筑波大学をはじめとする筑波研究学園都市内の独立行政法人研究所や企業等の有識者が参加してまとめたもので、ロボット技術の問題等の解決を提案する産学官ネットワークの拠点「つくばロボットソリューションセンター(仮称)」の設立や、ロボット関連ベンチャーを集積させる「つくばハイテクパーク(仮称)」の整備・用地確保などが盛り込まれた。

前述のように、つくば市の研究学園駅前エリアには、CYBERDYNEのR&D センターや「CYBERDYNE STUDIO(サイバーダインスタジオ)」が設置されているほか、財団法人日本自動車研究所の模擬市街路(実験道路)や市が管理する公園が存在する。また2010 年には、つくば市の新庁舎の完成が予定されている。提言では、新庁舎において実験的に案内・警備・清掃等各種ロボットを活用することで、市民がロボットと触れ合う機会をつくり、一層のロボット技術進歩を促すとしている。

おわりに

つくば地域では、いま、IT やロボット分野が際立って元気である。しかし、筑波大学には、ユニークな体育科学の研究シーズや医学・バイオなどの研究シーズもある。「地理的な集中が産業における国の競争優位をもたらすことが多い*1」とM. ポーターも指摘している。今後、つくば地域におけるこれらの分野の産学連携の一層の進展が、国の競争力強化にもつながっていくことが期待される。

*1
Michael E, Porter. The Competitive Advantage of Nations. 2nd ed. London, 1998, 622p.