2009年6月号
連載2  - 若手研究者に贈る特許の知識 基礎の基礎
第5回 特許を取るには事前先行技術調査が必要
顔写真

秋葉 恵一郎 Profile
(あきば・けいいちろう)

東京工業大学 グローバルCOE
コーディネーター/志賀国際特
許事務所 調査部/元 住友化学
株式会社 知的財産担当部長/
技術士(化学部門)

発明について特許を出願するかどうかを決める前に、調査が必要になる。同じ分野の出願されている特許を調べると、特許になるかどうかがよくわかる。その調査の方法、ポイントを解説する。

特許調査の目的

プロジェクトの企画、新規分野への研究開発を開始する場合、他社がどんな特許を保有しているか、自社保有特許との優位性比較等のために、技術評価に加えて特許調査をする必要性が生じる。業界内での位置付け、強みと弱み、将来の研究開発の方向付けといった各種データは、十分な特許調査によって明らかになる。

発明を出願するかどうかを決める場合も、出願前にその特許性を調査することが必要になる。特定技術分野に既に出願されている特許を調査すると、出願に価するか、特許になるかどうかがかなり明確に分かる。

設備投資して事業化する場合にも特許調査が必要になる。上市品や製造方法が他社の特許に抵触すると実施料の支払いが必要になるばかりか、最悪事業化そのものが不可能になるので、十分な特許調査が必要だ。

なお、邪魔になる特許があっても経営的にメリットが大きければ、その特許が無効化できるかどうか、実施権を入手するとしても実施料の低減化を図るために特許性を否定または低下させるような公知文献を調査することもある。

特許調査はこのようなときに行われるものであり、企業の経営上、時には死活問題となる。調査上の注意点を上げるとすれば、次のようになるだろう。

[1]他社が先行している分野

他社が既に築き上げた特許網を十分調査せずに、またこの特許網を無視した研究開発戦略を立てることはできない。
特に研究開発が済んでから「実は邪魔になる他社の特許があった」ということになれば、R&D推進者の資質が問われる。

[2]自社が先行している分野

有望な市場ほど、他社の進出意欲も強い。自社の特許網が実質的に効力を失わないよう、常に他社出願の動向を把握しておく必要がある。

特許調査の方法
(1) データベース
図1

        図1 特許情報へのアクセスツールと
            特許資料*1



図2

          図2 日本特許庁の特許調査用
              提供サービスの例(IPDL)

古くは、特許庁の資料室に行き“手めくり” で目的とする特許公報を探していたものだが、現在では国際特許分類(IPC分類)、国内特許分類(FI、Fターム)、技術キーワードや出願人名、発明者名を指定し、特許データベースを用いてパソコンからリアルタイムで各種特許情報を入手できるようになった(図1、2)。アクセスできる代表的な特許データベースは、株式会社パトリスが提供している“PATOLIS” データ(有料)、株式会社NRIサイバーパテントが提供しているデータ(有料)、特許庁が提供している特許電子図書館(IPDL)の各種データ(無料)だ。

前述したように特許出願は原則、出願日から1年6カ月経過後に公開されるので、世界的に標準化された書誌事項や要約を記載したフロントページ、クレーム、図面や実施例が記載された明細書本文を手軽に見ることができる。IPC分類、FI・Fターム分類の詳細は、IPDLの「特許・実用新案検索」欄の“パテントマップガイダンス”によって詳しく調べることができる。

(2) 特許分類

IPC分類(1件の特許に発明の範囲の広がり方に応じて1つないし複数付与される)は国際的に統一された技術分類で、CD-ROM公報、特許公報(紙)、分類索引、PATOLIS、NRIサイバーパテントが提供しているほとんどの特許データベースについて利用できる。また体系化された分類構造を有しているので、目的の情報に比較的迷わずに到達でき、非常に便利である。

FI(File Index)は特許庁内の審査官のサーチファイルの編成に用いている分類で、IPC分類を日本独自のFターム分類につなげるべく細展開したものである。

図3

図3 FI分類の例*1



図4

図4 Fターム分類の例*1

IPCおよびFI は図3 のようにセクション、クラス、サブクラス、グループと呼ばれる階層構造を有しており、それぞれ下位に細展開している。「焼却炉技術」を例に挙げると、同技術はセクションF(機関またはポンプ)のF23G 5/00「廃棄物の焼却」に分類され、さらにFI の下位のA(分冊識別記号という)に分類される。

F タームは、特許庁審査官の審査に用いる先行技術検索のために開発されたもので、約2,200の技術分野について記号が付与されている。Fタームは、FIの展開では特許文献の絞り込みが不十分なものについて、概念としては重複する部分もあるが、技術内容や応用分野について多面的かつ横断的に細分化したものである。

IPCやFIとFタームを組み合わせて検索に用いると、探すべき文献の絞り込みが容易になり、またキーワードを組み合わせるとさらに目的文献を探しやすくなる。

前述の「焼却炉技術」の場合“テーマコード(図4:特許庁により独自に区分された技術範囲)” 3K061(廃棄物の焼却(1))に該当する。この技術は、FI のF23G5/00、F23G7/00の細展開に入り「焼却炉の形式」によって、さらに下位展開の分類が付与されている。通常、公開公報にはこれ以上下位に分類されないところの分類が付与されている(ラスト・プレイス・ルール)。

(3) 調査情報の解析

実際の特許情報調査は、おおむね次の手順で実施することになる。

[1] 調査依頼元の調査ニーズの聴取
[2] 調査対象となる技術・製品、対象国、調査年月の特定
[3] 調査対象資料(データベース)の選定
[4] 特許分類・技術キーワードを組み合わせた検索、抽出、資料の取り寄せ
[5] 抽出資料の検討
[6] 依頼元の調査ニーズに適合する解析・解説作成
[7] 調査結果の報告

図5

図5 ナノテクノロジーに関する
     “特許分類別・出願数推移”*2



          表1 国内企業の「再生医療関連」
               特許出願件数

表1

調査のニーズが、例えば「10億分の1メートル単位の超微細技術であるホットな競争分野“ナノテクノロジー” でどのような分野の出願がどれだけ出ているかを見たい」というのであれば、直近の1年間を指定して、FI分類等の特定により出願数をはじき出す。そして、ナノテクノロジー関連“特許分類別・出願数推移グラフ” (図5)を作成すればよい。ナノ構造材料や電子デバイス関連の特許出願が突出して多いことが分かるグラフとなる。

“自社がどこを狙うか” までは分からないとしても、今後どのような追加詳細調査を行っていくかその辺の“あたり”をつけたり、またナノテクノロジーを俯瞰(ふかん)する有用な情報になり得る。さらに、自社の研究開発データとあわせることでR&D方針の方向性検討資料として有用な情報になり得る。

また、調査のニーズが、例えば「近年目を見張る進歩が見られる再生医療分野で、どの会社が活発に研究しているか」ということならば、FI分類のうちバイオ、再生医療分類、特にA61K27/00(補綴または補綴用品のコーティングのための材料)の中で出願人名を特定して特許出願件数を調べれば、国内企業の「再生医療関連」特許出願件数(表1)のランキングが分かる。ウェブ上、新聞紙上でVB(ベンチャービジネス)の活躍が報じられているが、特許出願件数の統計からは大手企業の研究開発活動がかなり活発であることが分かる。

(本連載は今回で終わります)


(謝辞)

本稿の執筆に際しては、志賀国際特許事務所 柳井則子弁理士より資料の提供、助言およびご協力いただいたことをこの場を借りてお礼申し上げます。

【参考図書】

産業財産権標準テキスト(特許編:第6 版).工業所有権情報・研修館.社団法人発明協会.

*1
https://www.jpo.go.jp/shiryou/s_sonota/map/kikai06/4/4-3.htm

*2
http://www.nanonet.go.jp/japanese/patent/images/g200701a.gif