2009年7月号
連載2  - 「わかる・できる・うごける」博士の育成
後編 「高度技術経営塾」で博士に実務応用力と人間力を養成
塾生が自主活動で相互研鑽
顔写真

渡辺 幸男 Profile
(わたなべ・ゆきお)

東北大学高度技術経営塾長
特任教授


東北大学高度技術経営人財キャリアセンターの「高度技術経営塾」は、「博士」に「実務応用力」と「人間力」をつけて社会に送りだすことを狙いとしている。これまで卒塾した1~3期生は塾の講座に加え自主的にさまざまな活動に取り組み、相互研鑽(さん)を行っている。

前回は、東北大学高度技術経営人財キャリアセンターの「高度技術経営塾」について、企業人講師による講義・演習や合宿研修などの継続的な塾活動を通じ、塾生が実務応用力に加え人間理解やコミュニケーションの方法を学び、実社会で仕事をやっていける自信を持つようになったことを紹介した。

今回は、塾生(卒塾生も含め)が下記に述べるような自主活動を立ち上げ、ユニークな相互研鑽と交流を行うように進化してきていることを紹介する。

ネットワーク活かし専門外の分野を学ぶ
博士100人ネットワーク

第1 期生から第3期生までの卒塾者がウェブサイトを活用して取り組んでいるネットワーク。期を超えた塾生の異分野交流が狙いである。第2期生から提案されたもので、多忙な博士たちの相互連絡のほか、研究上の悩み・相談とそれに対するヒントや熱いメッセージが寄せられるなど活用が進みつつある*1

このネットワークを活用し、昨年11月、全国から約60名の塾生および卒塾生が仙台に集い、交流会が開催された。

研究イントロダクションタイム(期ごとの横の連携活動)

2年前、第2 期塾の後半に「自分の専門分野のことには詳しいが、ほかのメンバーがどんな研究をやっているのかほとんど知らない。さらに理解を深め視野を広げるため、各自の研究内容を発表し合う場をつくってはどうか」という意見が出された。塾生たちで相談の結果、2期生は自主的に毎週塾の開始30分前に集まり、1人当たり持ち時間15 分で、2 人ずつ発表と質疑を行った。

これは好評であったが、質疑応答の時間が十分取れず、時により質疑が塾の講義開始時間に食い込む等の問題点も残した。このため第3期生は考え方を受け継ぐとともに、塾の開催日時とは別に土曜の午後に毎回1人当たり20 ~30分をかけて年間5回、キャンパス持ち回りで完全実施するように改善した*2

「第1回博士博」(Doctor Expo)の開催(期を超えた縦の連携活動)

本年2月末には、第1期卒塾生が発起人となり、自主的に各期から手を挙げた塾生が主催・運営し、第1 期~第3期生まで巻き込んだ「博士による異分野交流研究発表会」が開催された。

写真1

「第1回博士博」の様子

この狙いは、第1に「異分野融合によるイノベーションへの種まき」、すなわち幅広い分野の博士が集い、お互いの高度な研究を深いレベルで分かり合うことで、イノベーションにつながる異分野融合を目指す。第2に「期を超えた仲間意識の向上」、すなわち本塾の塾生または卒塾生として、所属学科や入塾期を超えた交流を通じ、博士100人ネットワークを立体的に拡大する-ことにあった。


当日は約40名の塾生が、持ち寄ったA0版のポスターを基に、それぞれ熱の入った研究発表を行った。中にはポスターに加えて、パソコンを持ち込んで発表に工夫を凝らす塾生や、インターネットを経由したビデオチャット機能を用いて、卒塾生がメキシコから発表する場面も見受けられた。会場では熱心な質疑応答が行われ、時間を忘れるほどの盛会だった。研究発表後には懇談会が開催された。

企業から高い評価

博士の高い専門能力を評価しながら、他方で「コミュニケーションが下手で、協調性がない。リーダーシップや柔軟性に乏しく使いにくい」といった博士に対する批判は、なお産業界やマスコミに相当多い。

しかし、考えてみれば、大学の学部を卒業してから、修士課程・博士課程と5年以上も住まいと研究室を往復し、朝から晩まで研究に没頭する環境に置かれれば、大抵の人は「専門バカ」とか「視野が狭い」と言われるようになるのもやむを得ないことではないだろうか。むしろその位集中しなければ素晴らしい研究などできないとも言える。

従って、もし視野の広さや人間力といった付加的能力を産業界が望むのであれば、大学にハッキリとそれを要望すべきであるし、それを受けて立つ大学も、指導教員や学生任せにするだけではなく、大学院教育システムの中にそういったものを習得する場を構築するべきであると考える。

本塾の教育は、これまでの博士教育をサポートし、社会が期待する「実務応用力」と「人間力」を付加する新たな試みとしてスタートした。3年経過した現在、幸いにも卒塾した博士たちが就職先の企業経営者や人事部長等から高い評価を受けている。「このような人材であれば、もっと採用したい」と経営者から要望が出されている企業もあり、卒塾生の中には、企業入社後1年3カ月で開発課長に昇進した者もいる。また就職者数に関しても、キャリアアップ相談室の努力により、この3年間で就職希望塾生の約80%の就職先が決まっている。3月末で文部科学省からの委託事業は終了したが、総長決裁で今後も塾を継続させていくことが決定した。

これまでの試みを通じて、博士は専門分野以外のことが教えられていないだけで、十分な教育のチャンスを与え、本気で取り組ませると、大きく伸びる素晴らしい力を持っているということを学んだ。人により伸び方も異なり、課題も山積しているが、地道に活動を継続し将来を担う博士人材の育成に少しでも貢献できたらと願うものである。

なお、この教育現場からのリポートは、産学官連携ジャーナル2008年4月号に掲載された「東北大学 博士に付加価値をつけて社会に送り出す」(高橋富男副センター長)に続く各論として報告するものである。

*1
当初、予定の3年間で博士の数が約100人になることから、「博士100=∞」を合言葉にネットワークづくりと相互交流を推進してきたが、今後年次を重ねるごとに参加者が増えることになり、改訂の必要がある(!?)との声も出ている。

*2
塾生からは「刺激を受け視野が広くなった」「専門分野の異なる人たちへ自分の研究内容を分かりやすく伝えることの難しさを痛感し、非常に勉強になった」等の声が寄せられている。