2009年7月号
連載3  - 子どものインターネット利用問題解決のための社会システム開発
(中)
学校だけでは手に負えないメディア
顔写真

下田 博次 Profile
(しもだ・ひろつぐ)

群馬大学 特任教授/
特定非営利活動法人
青少年メディア研究協会
理事長

子どもの携帯電話利用の最大の問題点は、保護者や教師の知らないところで、子どもたちがインターネットで危ない人たちとつながってしまうことだ。青少年メディア研究協会理事長の下田博次氏は、群馬大学教授時代から保護者や行政機関と、啓発活動や親のコントロール能力を学ぶ教材開発、講座を行ってきた。さらに、人材養成の効率化と教員や保護者のネット利用見守り能力を向上させる地域の情報通信システムの開発に着手した。

前回は、この10 年の間に社会や学校でさまざまな子どもの携帯電話問題が広がり、子育て教育に責任を持たねばならない保護者や教師が困る図式が出来上がってしまったことを紹介した。

携帯電話利用による援助交際という名の売春をはじめ、ネット詐欺、脅迫、ネットいじめのような非行・犯罪にかかわる少年少女の数は増え、学校などでも、特に高校などでは、校内への持ち込みはおろか授業中に携帯電話でメールをしたり、わいせつ画像を見ることなどが珍しくはないという状態になってきた。現場の生徒指導から養護教員さらには学校長らは、ネットでの生徒の誹謗(ひぼう)中傷発信を見つけ、削除したり、家出や自殺の書き込みへの対応マニュアルを作成するなど、子どもたちのネット犯罪、トラブルへの対応に振り回されている。

こうした現状から「子どもだけでなく保護者にも情報モラル教育が必要だ」という声も出始めた。子どものインターネット利用の責任は家庭、保護者にある、という海外の常識からしても、それは理解できる主張だ。ただし保護者への社会教育プログラムはモラルだけでは足りない。モラルよりリスクの認識が必要であろう。

図1

図1 ペアレンタルコントロールの概念

今するべきことは、子どもらのインターネット利用、とりわけ携帯電話やオンラインゲーム機からのインターネット利用についてリスクアセスメント(危険性評価)という視点からとらえ直すことであろう。未成年の子どもにインターネットというメディアをフィルタリングも無く好き勝手に使わせると、子育て教育上のリスクが保護者、教師の側にも発生する。そのため、親たちがテレビとは違うインターネットのメディア特性を学び、子どもに買い与える前にフィルタリングをかけるなど利用の注意をし、利用状況を把握、管理することができるペアレンタルコントロールの能力を獲得して、学校にネットトラブルが及ばないようにすべきである(図1)。

群馬県では、保護者、教員とかつての私の研究室(群馬大学社会情報学部下田研究室)が群馬県庁と協力して、啓発活動やペアレンタルコントロール能力を学ぶ教材開発、講座開設を行ってきた。こうした動きはほかの県にも広がり、さらに次の段階として、独立行政法人科学技術振興機構社会技術研究開発センターの委託事業として、人材養成の効率化と教員や保護者のネット利用見守り能力を向上させる地域の情報通信システム(「子どものインターネット利用・見守り指導活動支援システム」= CISS = Civil Instructor Support System)の開発に着手した。

学校と地域の見守り能力を

CISS は、子どもの携帯電話からのインターネット利用のリスクを理解し、そのリスクを回避するための知識(ペアレンタルコントロールの理論)を学び、実技指導(携帯電話やパソコン、ゲーム機などから子どもらに人気のサイト・遊び場をモニタリングするトレーニング)も受けた教員や保護者(市民インストラクター)らによって活用されるシステムである。

例えば群馬県では、地域で啓発活動に当たってきた市民インストラクターや教員が、携帯電話やパソコンを使って子どものインターネットの遊び場での振る舞いを見守り、管理者に注意をしたり、緊急の場合は警察につなぐなどの仕事を手作業で続けてきた。この活動をCISS で能率化、活発化する。このため教育委員会や警察との情報共有も目指している(図2)。つまりは、地域の子どもらのネット利用に関する大人社会の見守り能力を高めようというのである。

図2

図2 CISSの設計概念

またCISS での、そうした見守り、注意活動の過程で得られた各種のデータの蓄積、分析を通じて、子どもたちのネットトラブルの予防や啓発活動の質的向上を図ろうというものである。特に地域のPTAなどに啓発活動を続けてきた市民インストラクターたちに向けて、啓発効果をより高めることができるような情報提供を行うことができる。

既に述べたように、子どもらのネット利用トラブルの予防ということでは、生徒指導など現場の教師のネット遊びに関するリスクアセスメント能力の向上が不可欠となる。CISSは、次々と繰り出される子ども向けネット遊びサイトの利用リスクを評価するための情報を学校に提供し、保護者たちと連携した効果的な啓発や生徒指導ならびに緊急事態への対処を可能にすることを目指している。

ようするにCISS の設計、開発概念は、地域のネットボランティア活動にかかわる市民インストラクターの養成や能力向上を効率化するとともに、学校現場で子どものネットトラブル問題に直面している教師の負担を減らし、インターネット時代の学校のパワーアップを実現することにある。

次回はCISS の開発計画の進捗(しんちょく)状況と、このシステムの利用による学校の具体的メリットについて解説する。