2009年7月号
イベント・レポート
第8回産学官連携推進会議
オープンイノベーション促進型の連携モデルを探る

第8 回産学官連携推進会議が6 月20、21 の両日、国立京都国際会館で開かれた。今回のキーワードはオープンイノベーション。「産学官連携のモデルにおいても、従来のリニアモデル(学の技術シーズ起点の産学連携)に加えて、産業の出口戦略起点、イノベーション・シナリオ起点、課題解決起点の産学連携モデルの重要性が高まる」(同会議趣旨)ことが背景にある。

20 日の会議の部は「産学官連携のオープンイノベーション促進型モデルへの進化を横軸に、資源・環境制約などの諸課題への対応、そしてそのことによる成長の確保を縦軸に」(同)構成された。午前の全体会議(麻生太郎内閣総理大臣からのメッセージ、基調講演、特別講演、特別報告)、午後の分科会とそれに続く全体会合(各分科会報告、提言取りまとめ)を通じて、こうした問題意識が参加者に共有され、議論もテーマにそって進み、内容も濃密だったという印象を持った。

太陽電池・燃料電池・蓄電池の産学官連携拠点の整備

野田聖子内閣府特命担当大臣(科学技術政策)が「オープンイノベーション型の産学官連携による新たなる挑戦」と題して基調講演を行った。最先端の技術や知識を組み合わせることにより新たな価値を生み出すオープンイノベーションの重要性がますます高まっており、政府一体となって「イノベーション促進型知財システムへの転換」や「連携を促す場の形成」などの取り組みを支援することを表明。

環境・資源制約への対応については、地球温暖化問題の解決に向け「環境エネルギー技術革新計画」の着実な推進と、わが国が強みを持つ太陽電池・燃料電池・蓄電池の産学官連携拠点の整備について述べた。また、科学技術振興に向けた革新的取り組みとして「最先端研究開発支援プログラム」を挙げ、同プログラムの活用により、最先端の研究開発課題を加速的に推進し、わが国の中長期的な成長力と底力を強化する、とした。

野田大臣に続き、ニューハンプシャー大学名誉教授でインタラクティブラーニング研究所代表のデニス・メドウズ氏が「Innovationof Social Structure for HarmoniousCoexistence with Limits」と題して、また三菱重工業株式会社代表取締役会長で日本経済団体連合会副会長の佃和夫氏が「“低炭素社会の実現” に向けた産学官連携」と題して、それぞれ特別講演を行った。

参加者が課題、問題意識を共有

また、堀場雅夫氏(全国イノベーション推進機関ネットワーク会長、株式会社堀場製作所最高顧問)、富田孝司氏(東京大学先端科学技術研究センター客員教授、元シャープ株式会社常務取締役)、妹尾堅一郎氏(東京大学特任教授、NPO 法人産学連携推進機構理事長)、広瀬研吉氏(科学技術振興機構理事)の特別報告もあった。

妹尾氏は「なぜ、日本は技術で勝るのに、事業で負けるのか」「なぜ、科学技術大国なのに、科学技術立国になっていないのか」「なぜ、日本の産業は次々と崩壊していくのか」と問題を投げ掛け、参加者の関心を呼んだ。妹尾氏は競争力モデル、イノベーションモデルが変容していることについて持論を述べた。

妹尾氏に限らず、午前の各講演・報告で示された状況認識、問題意識が、分科会のパネリストだけでなく、広く参加者にも共有されていたことが、分科会の議論が拡散しなかった大きな要因になったと思われる。

事実、低炭素社会移行をテーマとした分科会Ⅰでは、技術というより社会的なシステムについての意見、具体的には、既存の枠組みを超えた産学官と民によるプラットホームの必要性などの意見が多かった。

知財に関する分科会Ⅱでも、科学技術の成果、特許だけでは不十分で、出口イメージを抱きながらイノベーションシナリオを描くことの重要性が強調され、新しい産学官連携モデル構築が急がれることが示唆された。

展示コーナーは大盛況

展示コーナーは昨年以上に大盛況だった。大学、工業高等専門学校、研究機関、自治体関係機関のいずれにおいても産学官連携への関心が高まっていた。

第2 回会議から続いている「産学官連携功労者表彰」は昨年から4 つの賞が加わり11 賞になっている。

(登坂 和洋:本誌編集長)

分科会Ⅰ「低炭素社会移行に向けての産学官の新しい潮流」
分科会Ⅰ 「低炭素社会移行に向けての産学官の新しい潮流」
主査およびパネリスト(敬称略)
○主査
桝本 晃章: 東京電力(株)顧問
○パネリスト
寺島 実郎: (財)日本総合研究所 会長、
(株)三井物産戦略研究所 会長、
多摩大学学長
渡邉 浩之: トヨタ自動車(株)
技監
デニス・
    メドウズ:

ニューハンプシャー大学 名誉教授、
インタラクティブラーニング研究所代表
富田 孝司: 東京大学 先端科学技術研究センター 客員教授、
元 シャープ(株)
常務取締役
飯田 哲也: 特定非営利活動法人 環境エネルギー政策研究所 所長
村上 周三: (独)建築研究所理事長

論点は2 つ。第1 に低炭素社会への移行に必要な技術、システムは何か。第2 に、実現のために産学官はどう取り組むか、必要な条件整備は何か。

桝本主査のまとめをもとに整理すると次のようになる。個別技術の議論だけでなく政策・あるべき方向性が課題、課題解決には「見える化」を含めた統合的なアプローチが必要——など「個別から総合へ」という視点が提示されたが「行政に限らず日本の縦割りの仕組み自体が全体の統合化の妨げになっている」という指摘もあった。技術に関しては、明確な出口と具体的なシナリオを設定し、必要な研究開発に重点的に資金を投入すべきという意見が出された。

全体を通じて、具体的な技術うんぬんということ以上に、次のような取り組みについての意見、提言が多かった。

既存の枠組み、仕組みを超えた議論を行う産学官プラス民のプラットホーム、いわば場が必要である。
低炭素社会に向けた環境モデル都市などの構築は、その構築自体が一種の社会的な実験で、それを重ねることで課題、方向性を確認できる。
プロジェクトオフィサーが中心となって資金・予算配分の最適化を図ることが必要である。

(本誌編集部)    

分科会Ⅱ「プロパテントからプロイノベーション時代へ」
~競争力強化に資する知財マネジメントの意味が変わる~
分科会Ⅱ 「プロパテントからプロイノベーション時代へ」
~競争力強化に資する知財マネジメント
    の意味が変わる~
主査およびパネリスト(敬称略)
○主査
妹尾 堅一郎: 東京大学 特任教授(知的資産経営)、
NPO法人 産学連携推進機構理事長
○パネリスト
中村 勝重: 三鷹光器(株)
代表取締役社長
上野 剛史: 日本アイ・ビー・エム(株) 知的財産部長、理事、弁理士
浅見 正弘: 富士フイルム(株)執行役員、R&D統括本部 先端コア技術研究所長
平野 武嗣: (有)金沢大学
ティ・エル・オー(KUTLO)代表取締役社長、
「KUTLO-NITT」産学連携プロデューサー、
金沢大学客員教授
林 いづみ: 永代総合法律事務所 弁護士
松田 岩夫: 参議院議員、
元科学技術政策担当大臣

オープンイノベーションの時代はどのような知財マネジメントが有効なのかを探ることがテーマだった。「世界を相手に勝負できる中小企業は、ものづくりの技術があったからだけではなく、ビジネスに結び付ける工夫をしたから」「従来の大学の技術移転の制度に新しい仕組みを取り入れて成功に導いた」「基盤技術や標準で協業した上で、各自が独自色を出してビジネスチャンスを追求するアプローチが重要」「特許を積極的に活用する方法を考えるなら、ビジネスのシナリオを踏まえた上で『契約』の重要性を認識する必要がある」——パネリストからこうした意見が出た。妹尾主査はパネリストの意見を次のように整理した。

科学技術は科学技術のためだけにあるのではない。社会・生活・産業等に役立たせるために科学技術の出口イメージを抱きながら、イノベーションシナリオを描くべき。
知財は知財のためだけにあるのではない。技術をビジネスにつなぐために、知財マネジメントをテコにさまざまな工夫が必要。

そして、プロパテントからプロイノベーションの時代に移り、知財マネジメントはますます重要になってきているとし「産学官連携モデルの再構築を」と強調した。

(登坂 和洋:本誌編集長)


分科会Ⅲ「ナノテクノロジー多様性と集中の戦略」
~世界的ナノテク拠点形成と産学官連携の強化~
分科会Ⅲ 「 ナノテクノロジー多様性と集中の戦略」
~世界的ナノテク拠点形成と産
    学官連携の強化~
主査およびパネリスト(敬称略)
○主査
橋本 和仁: 東京大学大学院教授
○パネリスト
大林 元太郎: 東レ(株)理事 研究本部(IT全般)担当
渡辺 久恒: (株)半導体先端テクノロジーズ 代表取締役社長
川合 知二: 大阪大学 教授
岸  輝雄: (独)物質・材料研究機構 理事長
田中 一宜: (独)科学技術振興機構研究開発センター 上席フェロー

日本におけるナノテクノロジー研究は、学術文献引用件数で世界のトップクラスに位置し、ナノ材料や装置など産業分野においても世界で高いシェアを維持している。

現在、日本のナノテクノロジー研究拠点は13 拠点(26 機関)あり、ナノ加工・計測、ナノ造形・観察、ナノ構造・機能解析、新材料創生、複合機能化などさまざまな研究開発がなされているが、拠点が分散しているためか各機関による情報や設備の囲い込みなどの弊害が見受けられ、必ずしも連携が十分とはいえないと言う。

一方米国では、産学官に軍まで加えた大連携により、巨額の費用と人材を集中させ、研究開発のみでなく産主導によるビジネス化(用途ドリブン)の戦略が進行中である。

このたび、つくばに半導体の国際競争力強化のためNational / Global と言うべき拠点が誕生する。これを機会に、例えばナノバイオは分散型、ナノエレクトロニクスは集中型など、分散(多様性)と集中、競争と協調の戦略のもと、連携して「ビジネスシナリオ」をしっかり描くことにより、世界トップレベルの研究拠点として長期的な発展を目指す必要があると結論付けている。

(藤川 昇:独立行政法人科学技術振興機構 イノベーション推進本部     産学連携展開部 産学連携担当 産学連携アドバイザー)

分科会Ⅳ「新しい社会を拓く高度理工系人材の育成」
分科会Ⅳ 「新しい社会を拓く高度理工系人材の育成」
主査およびパネリスト(敬称略)
○主査
西山  徹: (社)日本経済団体連合会 産学官連携推進部会長、
味の素(株) 技術特別顧問
○パネリスト
大下  滋: 新日本製鐵(株)常務執行役員
吉川 誠一: (株)富士通研究所常務取締役
谷口  功: 熊本大学学長
阿草 清滋: 名古屋大学大学院情報科学研究科 教授

資源が豊かでないわが国にとって、イノベーション創出力を強化するためには、人材が鍵となる。とりわけ、プレーヤーたる高度理工系人材に求められる姿の共有化と育成が課題であり、その取り組みに向けた議論が行われた。その中で、あるべき姿として [1]困難に立ち向う [2]世界と戦える[3]新しい価値の創造能力を備える [4]技術実践力、展開力を持つこと、が目標として挙げられた。これに対する戦略課題を抽出し有効な方策を策定すべく、産業界、大学のそれぞれの立場から事例を交えて提案、議論があった。そして、方策の実践に向けて、大学、産業界、および政府への提言が取りまとめられた。主な内容は、育成に向けて [1]切磋琢磨(せっさたくま)する仕組みを作る [2]人材が活躍する場を開拓する [3]教育基盤を整備する、の3 点で、パネリストの総意として「中・長期的な視点に立ち、粘り強く継続することが必要」との結論を得た。

議論の中で、コメンテーターから、高度人材に対しては、明確なインセンティブの付与と社会的地位の向上が必須ではないかとの発言、本音も出始めたが、かかる場に顧客である肝心の学生が不在で、一面的な議論に終わってしまうのではないかとの印象を持った。

(藤井 堅:東京農工大学大学院 技術経営研究科 非常勤講師)

分科会Ⅴ「元気な大学・中小企業・ベンチャーが牽引する地域活性化」
分科会Ⅴ 「元気な大学・中小企業・ベンチャーが牽引する地域活性化」
主査およびパネリスト(敬称略)
○主査
安浦 寛人: 九州大学 理事・副学長、
産学連携センター長、知的財産本部長、知的クラスター創成事業(第Ⅱ期)福岡先端システム
LSI 開発クラスター研究統括
○パネリスト
土井 尚人: (株)ヒューマン・キャピタル・マネジメント 代表取締役社長
落合 孝次: (株)シードライフテック 代表取締役
秋山 昌之: (財)長野県テクノ財団 技術顧問、
知的クラスター創成事業(第Ⅰ期)長野・上田スマートデバイスクラスター元事業総括
飯田 耕一: (財)千葉県産業振興センター 理事長、全国イノベーション推進機関ネットワーク運営委員長

本分科会は、クラスター事業に関与してきた大学関係者、企業関係者や全国的なネットワーク形成事業に関与している人を中心に行われ [1]大学独自の知を活用した産学官連携の促進 [2]グローバルに活躍できる地域発ベンチャー企業の促進 [3]中小企業が持つ技術のさらなる高付加価値化 [4]農商工連携による新産業の創出——を一体的に推進していくために、論点として「いかにして地域の取り組みを全国、世界レベルに発展させていくか(方向性)」「地域発のイノベーションを生み出す仕組みとして何が必要か( 方法論)」について、それぞれ議論がなされた。

この中でも特に印象的であったのが「連携の輪に農林水産業者も含めた『農商工連携』による新産業の創出」の必要性である。農商工連携における1番の課題は、変動要素の大きい自然相手の農作物を、一定水準の規模、品質が常に要求される市場ニーズにいかに合致させるかであるといわれている。パネリストである株式会社シードライフテックの落合氏による、農商工連携における「素材戦略」「地域戦略」「地域連携戦略」「商品戦略」の4 つのステージ戦略は非常に説得力のあるものであった。地域性が時には閉鎖性にもなり得ることを考えれば、こうした戦略を意識してのプラットホーム作りが不可欠であると思っている。

(吉国 信雄:金沢大学イノベーション創成センター長)

分科会Ⅵ「地域の産学官連携活動を支える基盤の整備」
分科会Ⅵ 「地域の産学官連携活動を支える基盤の整備」
主査、キーノートスピーカー
およびパネリスト(敬称略)
○主査
松島 克守: 東京大学大学院工学系研究科
イノベーション政策研究センター 教授
○キーノートスピーカー
榊原 裕二: (独)科学技術振興機構 審議役
○パネリスト
近藤 裕郷: 塩野義製薬(株)執行役員 医薬研究本部長
志茂  武: (株)ケイエスピー元取締役
田中 健一: 三菱電機(株)先端技術総合研究所副所長
江刺 正喜: 東北大学 原子分子材料科学高等研究機構(WPIAIMR)教授
小野 浩幸: 山形大学 地域共同研究センター長

独立行政法人科学技術振興機構は文部科学省、経済産業省等と連携して、地域の産学官連携活動を支援する「地域産学官共同研究拠点整備事業」に取り組む。キーノートスピーチで事業の詳細が報告された後、「基盤整備による地域の産学官の協同に向けて」のパネル討論に移った。

ロボット知能化技術での京都大学と三菱電機との組織連携、集積回路とMEMS を一体化する東北大学とトヨタ自動車などとの産産学連携、有機EL照明パネルでの山形大学、山形県、企業との産学官連携等の活動報告を踏まえ、拠点形成の課題はオープンイノベーションの場、イノベーティブな人材育成の場、インキュベーションの場としての役割が挙げられた。双方向で話し合い相手の要求も考えること、高度な専門知識とビジネスプランが描ける人材の育成、気楽に集まって話ができる環境が重要等の発言が相次いだ。会場からもいろいろ意見が寄せられた。企業は人材を抱え込むことに拘泥すべきではない、実績豊富なTLO(技術移転機関)も重要な役割を果たせる、地域間連携を含め地域経済活性化に向けた議論を強化させる機会にすべきと集約。地域に根付いた活動と共に地域の人々をインスパイアできる地域の核となる拠点になってほしいと結んだ。

(戸田 秀夫:独立行政法人科学技術振興機構 イノベーション推進本部                地域事業推進部 エキスパート(科学技術コーディネート担当)

第8回産学官連携推進会議
日時:平成21年6月20日(土)(会議の部、展示の部)~21日(日)(展示の部)
会場:国立京都国際会館(京都市左京区宝ヶ池)
主催:内閣府、総務省、文部科学省、経済産業省、日本経済団体連合会、日本学術会議
URL:http://www.congre.co.jp/sangakukan/top.html