2009年8月号
特集  - 問われる「医」応える「医」
鹿児島県指宿で産学官連携の“医療・健康都市”プロジェクト
~2011年春から九州初のがん粒子線治療~
顔写真

本田 知章 Profile
(ほんだ・ともあき)

財団法人メディポリス医学研究財団
理事・事務局長


薩摩半島の最南端の鹿児島県指宿市で「南九州から世界に向けて“光” を放つ医療」をコンセプトとしたプロジェクトが進んでいる。財団法人メディポリス医学研究財団などが進める「メディポリス指宿」構想だ。2年前に統合医療を行う医院を開院。さらに2011年4月のオープンを目指し、がんの粒子線治療研究施設を建設している。旧年金福祉事業団の保養施設「グリーンピア指宿」だった施設を利用している。

薩摩半島の南端にある鹿児島県指宿(いぶすき)市は温泉で知られ、海の幸、山の幸に恵まれた人口約4万5,000人の都市です。東は錦江湾を隔てて大隅半島と対峙(たいじ)し、南西部には薩摩富士の別名を持つ開聞岳、中央には九州最大の湖である池田湖を抱えます。その湖の近く、標高300メートル余りの大自然に囲まれた台地で「南九州から世界に向けて“光” を放つ医療」をコンセプトとした一大プロジェクトが進んでいます。「メディポリス指宿」―その名称が示すように“医療・健康都市” を目指す構想で、予防医学、先進医療、こころのケア、トランスレーショナルリサーチ(基礎研究で見いだされた新規発見を、医薬品などの評価・承認に必要な前臨床試験や臨床試験を行いながら、基礎理論を臨床の場で実証することにより、事業化へつなげていくこと)の4つを活動の柱としています。

地域活性化への市と県の熱い思い

「メディポリス指宿」プロジェクトの舞台となっているのは、旧年金福祉事業団が全国に13設置した保養施設の1つ「グリーンピア指宿」の跡地です。附属医院開院までの経過を表1にまとめましたが、年金福祉事業団解散・「グリーンピア指宿」閉園を受け、混沌(こんとん)とした状況の中、その復興を探り地域の活性化を模索する「メディポリス指宿」プロジェクトとして結実した背景には、産学官の諸機関、多くの人々の協働があります。

表1 附属医院開院までの経過

表1

第1に、「同施設を活用してもう一度地域活性化に挑戦したい」という指宿市、さらには鹿児島県の熱い思い、切実な願いです。

写真1

写真1
     株式会社新日本科学 
     代表取締役社長 兼 CEO/
     財団法人メディポリス医学研
     究財団 理事長
     永田良一氏

第2に、同市が直接取得を検討していたとき、鹿児島に本店(登記上の本店、東京には本社)を置く医薬品開発の受託研究事業会社、株式会社新日本科学(東証1部上場)にも協力の要請がありました。同社社長で当財団理事長でもある永田良一(鹿児島市出身)(写真1)が地元の期待に応えて入札に参加しました。同社が落札後、永田は実業家の観点からのみならず医師の視点からも、活性化に関する多くのアイデアを出し、実現に結び付けました。

第3に、プラン策定の段階を含め、鹿児島県、鹿児島県医師会、鹿児島大学、県内の各市町村、九州の各県ほか、地元の金融機関等多くの方々の支援をいただきました。

患者さん主体の統合医療

当財団附属医院(写真2)は、次の3つを基本理念としています。

写真2

写真2 病室には和洋折衷タイプもある



写真3

写真3
     財団法人メディポリス医学研
     究財団理事 附属医院 院長
     原田美佳子氏

1. 自己治癒力を癒やしの原点に置き、そのプロセスをサポートする
2. からだ、こころ、いのちを統合する医学の実践
3. ホリスティック(全人的)な人間観と医学観を持ち合わせた医療従事者の育成

通常の西洋医学の治療に、代替医療、こころのケア、運動療法などを統合的に組み合わせています。院長の原田美佳子(写真3)は、統合医療の創始者であるアンドルー・ワイル博士のもとで研さんを積み、日本では数少ない米国アリゾナ大学統合医療アソシエートフェローの1人です。原田は「現代社会では、病気でない状態が“健康” と考えられています。しかし、からだだけでなく、こころの状態、社会的環境、生きる意味や目的まで含めて考えることが必要になってきています」と、その必要性を説き、患者さん主体の統合医療の実践を推進しています。

世界初の乳がん粒子線治療研究
写真4

写真4 宿泊施設「天珠の館」(右)と、建設中の
     「がん粒子線治療研究センター」(左)


現在建設中の「がん粒子線治療研究センター」(写真4)では、2011年4月から粒子線治療を始める計画です。切らずにがんを治すこの治療法は世界各地で利用され、わが国ではすでに7施設に導入されています。しかし、西日本では兵庫県立粒子線医療センターにあるだけで、九州では初めての施設となります。

粒子線治療は従来の放射線療法(コバルト療法、ラジウム線やガンマ線治療など)とは異なります。陽子(プロトン)や炭素イオンなどの重粒子を、磁場を利用した加速器で光の速度近くまで加速して、がん病巣に狙いを定めて粒子のビームを照射する療法です。その特徴は、身体の深部にあるがん病巣に限定してエネルギーを集中させることが可能で、正常な組織にはほとんど影響を与えることなくがんを治療できることです。これまでに前立腺がん、肺がん、肝臓がんなど多くの症例で、高い治療効果が確認されております。

同センターは各種のがんの治療に加え、新たに乳がんの粒子線治療の研究も行います。これは世界初の取り組みとして注目され、文部科学省の補助事業の研究テーマとしても認められています。乳がんの発症例は、早期化・若年化の傾向が見られ、乳がん治療に粒子線治療が導入できれば、患部にメスを入れることなく治癒が望めるため、患者さんのQOL(Quality of Life =生活の質)向上にも多大な貢献ができるものと考えております。すでに「乳がん粒子線治療研究会」を立ち上げ、臨床試験の計画書なども作成し、着々と臨床応用への準備を整えております。また、当財団では各地で「粒子線治療市民公開講座」を開いています(写真5)。

写真5

写真5 メディポリス医学研究財団では、各地で
     「粒子線治療市民公開講座」を開いている。
     写真は宮崎県都城市の同講座


施設の建設と稼働に必要な資金は108億円でした。文部科学省、鹿児島県、指宿市の支援をいただいたほか、九州エリアを地盤とする金融機関(鹿児島、肥後、南日本、宮崎太陽、西日本シティの各地元銀行と日本政策投資銀行、商工組合中央金庫)を中心に融資を受けています。地元の金融機関からは「東アジアの先進医療拠点を目指すこのプロジェクトは非常に支援のしがいがある。地域に根差した金融機関という自分たちの志を貫きたい」という温かい声援をちょうだいしております。

免疫力や自然治癒力に着目

さらに、当財団では進行したがん患者さんの治療方法として、粒子線治療と組み合わせた免疫療法、温熱療法なども視野に入れています。附属医院では漢方やはり・きゅう、気功、ホメオパシー(病症と同じ症状を起こす薬を用いて治療する方法)、アロマセラピー、こころのケア、がん患者さんに対する食事指導など、西洋医学だけではないアプローチも行っています。病気や症状を排除するだけではなく、患者さんの免疫力や自然治癒力を増強するような医療を提供していきたいと考えています。

今、附属医院の自家菜園では無農薬の野菜を栽培しています。患者さんご自身が育てているものもあります。自分で丹精込めて育てた新鮮な野菜を食べて活力を得る、という大地の恵みを生命力の活性化に結び付ける試みにも取り組んでおります。