2009年8月号
特集  - 問われる「医」応える「医」
ベーダ国際ロボット開発センター理事長 橋爪 誠 氏に聞く
連携の狙いと日本の研究者の課題
顔写真

橋爪 誠 Profile
(はしづめ・まこと)

一般社団法人 ベーダ国際ロボット
開発センター 理事長


ドイツ、イタリアの研究者を含むロボット工学・医療・生命体工学の専門家10人とロボットベンチャー企業がベーダ国際ロボット開発センターという社団法人を設立した。日本では「研究開発」で止まってしまい、研究成果が事業化につながらない現状を打破する糸口にしたい、という狙いもある。

日本、ドイツ、イタリアのロボット工学・医療・生命体工学などに携わる世界トップクラスの研究者10人と日本のロボットベンチャー企業1社が今年4月、医療、介護、生活支援分野のロボット開発を行う組織「一般社団法人 ベーダ国際ロボット開発センター」(福岡県宗像市)を設立した。センターの使命は「最先端の研究開発とともに、ロボットおよびロボット技術を使った製品の産業化、事業化」。具体的には、企業や公的な機関からの受託開発を主な業務とする。宗像市の拠点には、合併で空いた旧町役場の広大な敷地と建物を利用し、模擬実験場、坂道、砂利道、階段など、ロボット開発に必要な実証実験をする環境が整っている。研究者が連携してこうしたセンターを設立するに至った背景、その狙いを理事長の橋爪誠九州大学大学院医学研究院教授に聞いた。

―11人が連携して「ベーダ国際ロボット開発センター」という組織をつくるに至った背景を教えてください。

写真1

ベーダ国際ロボット開発センターの作業場

橋爪  参加メンバーは国際的に連携して、一緒に研究をしてきた仲間。ドイツのトーマス・クリスタラー氏とイタリアのパオロ・ダリオ氏の2人はこの分野では欧州の中心的研究者で、多くの外部資金も得ている。

連携してこうしたセンターをつくったのには幾つかの理由がある。

まず、単独では資金を集めるのが難しく、グループ化すれば公的な資金も得やすくなるのではないかということ。

第2に、われわれの研究開発の成果が欧米で標準として認められるためには、国際的に連携したほうが力になる。

第3に、日本では「研究開発」で止まってしまい、事業化につながらないといういら立ちがある。ベーダ国際ロボット開発センターを設立し、事業化を目的とすることでそうした現状を打破する糸口にしたいという狙いがある。

株式会社にせず、社団法人にしたのは、国立大学の研究者は企業に参加しにくいことと、1つの企業の色に染まりたくないという事情もある。メンバーの研究テーマは少しずつ違うので、かえって目的に応じて研究成果を出せるのではないか。近く当センターから出せるものがある。

―日本の状況はそんなに海外と違うのですか。

橋爪  国の資金を使うと製品を海外に出せないというケースが多いし、機械、電機メーカーがわれわれ研究者の新技術の事業化提案に乗ってこない。CTなど一部を除くと日本の総合電機メーカーは医療機器を手掛けなくなった。事故があった場合、訴訟、イメージ低下のリスクがあることや、もうからないというのが理由である。研究者は辞めていっているし、若い人が育たない。わが国で使われている医療器具の80%程度は外国のものだ。海外では、米国のGEや欧州のシーメンスにしても積極的に医療分野に力を入れている。

―海外ではロボットなど先進的医療機器がたくさん使われているのですか。

橋爪  例えば、CTは治療器との融合の時代に入っている。カテーテルを使って心臓の治療をする場合、病変部分の四次元画像を見ることができ、機械がカテーテルの先端を誘導してくれる。先進的な機器は、こうした治療におけるナビゲーションだけでなく、治療計画のシミュレーションから結果の予測までできる。海外では医療現場で使えるこうした機器をつくり始めている。

欧米だけでなく、韓国では、ロボットができることはロボットに任せるという趣旨の法律ができ、あらゆることをロボット化しようとしている。自動車組み立て用ロボットなど産業用のロボット技術を医療、福祉など、ほかの分野で活用しようということだ。

―日本の産業の多くは技術で勝っていても事業化で負けていると指摘されますが、その1つですね。

橋爪  「事業化で負けている」だけならまだしも、こういう状況は研究開発にも影響している。有名な米国産の手術ロボット「ダビンチ」は世界で1,000台以上臨床導入されている。このうち、米国に800台。日本には5台しかない。こうなると、米国は標準化にも有利だ。多くの設備が使われる中から、改良点、新しい技術が研究開発にフィードバックされる。このスパイラルを考えると、800台と5台の差は極めて大きい。

―九州大学は平成21年度経済産業省の補正予算の補助金を得て、先端融合医療研究開発センターをつくるそうですね。

橋爪  このセンターの目的は、大学の持つ先端レベルの研究と企業の製品開発とをつなぎ、先端研究を産業利用で促進させること。具体的には、再生医療やロボット技術などの研究開発から、臨床試験・治験までを一貫してできる場所を提供し、事業化までのプロセスを効率化し、時間を短縮することで国際競争力の向上に貢献したいと考えている。

―ありがとうございました。

聞き手・本文構成:登坂 和洋(本誌編集長)


橋爪誠
(九州大学大学院医学研究院 教授)

九州大学病院救命救急センター長。遠隔手術支援システムなどロボティクスシステムの開発に取り組む。ロボット産業振興会議委員(福岡県)。
髙西淳夫
(早稲田大学理工学術院 教授)

福岡県出身。人間型ロボット、2足歩行ロボット開発の第一人者。テムザックとの共同開発の実績多数。ロボット産業振興会議副会長(福岡県)。
北野宏明
(特定非営利活動法人システム・バイオロジー研究機構 所長)

ロボカップの発起人、創設会長。PINOなど一連のヒト型2足歩行ロボットを開発。ベネチア芸術祭、ニューヨーク近代美術館へ招待アーティストとして出展。Ars Electronica受賞。システムバイオロジーの提唱者で、システム創薬などの研究に従事。
トーマス・クリスタラー
(フラウンホーファー研究機構IAIS 研究所 所長)

小型の知的ロボット群を開発。欧州の環境問題への対応等を目指す。テムザックとはロボット研究用プラットフォーム台車「VolksBot」の国内販売等で提携。合気道を28年追求。
パオロ・ダリオ
(聖アンナ大学院大学 教授)

欧州最大のロボット研究所の所長。医療・福祉から環境・衛生まで多種多様なロボットを開発。世界的なロボット研究の権威。教授
南戸秀仁
(金沢工業大学 教授)

においセンサおよび放射センサシステムなどのセンサシステム工学の第一人者。テムザックとの共同開発により「におい」センサを搭載した留守番ロボットを製品化した実績あり。
横小路泰義
(京都大学大学院 准教授)

遠隔操作型探索用移動カメラシステムの開発、レスキューロボット等次世代防災基盤技術の開発を行う。
相良慎一
(九州工業大学大学院 准教授)

腕を持つ水中・宇宙ロボット、防犯・防災ロボットなどのデジタル制御に関する研究に従事。
石井和男
(九州工業大学大学院 准教授)

自律型移動ロボットの研究開発を行う。2008ロボカップジャパン(サッカー)中型リーグ優勝実績あり。
宮本弘之
(九州工業大学大学院 准教授)

脳型ロボット(運動制御モデル、運動軌道計測、自律移動ロボット、画像処理等)の研究に従事。
株式会社テムザック
民間企業として唯一参画する国内最先端のロボットベンチャー。医療・介護・生活支援分野において研究者とともに開発と実用化を行う。