2009年8月号
単発記事
『産学官連携の「質」の向上方策に関する調査研究』の概要
顔写真

谷口 邦彦 Profile
(たにぐち・くにひこ)

産学官連携の「質」の向上方策
に関する調査委員会座長/文部
科学省産学官連携コーディネーター
・広域(西日本)担当


2007年秋、調査研究代表(佐野太山梨大学・副学長)から、「これまで取り組んできた『産学官連携の質の向上』をさらに進展させるための研究構想が固まり、調査研究の形にするので、一員に加わってほしい」との連絡をいただきました。できるだけ幅広い課題に対応できるようにと、翌年の2008年4月に全国の国公私立大学等に所属する14名の委員からなる「質の向上方策に関する調査委員会」を発足させ、財団法人新技術振興渡辺記念会の助成により当該調査研究に着手いたしました。

その調査研究の目的は、調査研究代表による報告書の「はじめに」に記されております。

本調査の目的(『産学官連携の「質」の向上方策に関する調査研究』の「はじめに」)

21世紀のわが国においては、追いつき、追い越せのキャッチアップ時代のときとは異なり、もはや我々の前に進むべき用意された道はなく、あらゆる分野において自ら目標を定め、創意と工夫で、道無きところに道を切り拓いていかなくてはなりません。

第3期科学技術基本計画においても、「厳しい国際競争の中、独自の研究成果から絶えざるイノベーションを創出していかなければならないわが国にとって、産学官連携は、その実現のための重要な手段」であると位置づけ、わが国独自の持続的・発展的な産学官連携システムを構築することが必要である、としております。

これまで、知的財産基本法などの各種の法整備が図られてきたほか、大学知的財産本部整備事業など各府省の産学官連携推進制度の充実により体制整備等が行われてきた結果、わが国においても大学等と産業界との交流の機会が増え、共同研究件数、特許出願件数、特許実施件数などは大幅に増加し、産学官連携の量の拡充が図られてきました。

今後、イノベーションを生み出すシステムの強化として、本格的な産学官連携への深化を遂げるためには、「量のみならず質を求める」ことが必要であり、長期的に見れば途についたばかりのわが国の産学官連携において、今はまさに「量」のみならず「質」を追及する転換期にあるとも言えます。

そこで、この「産学官連携の「質」の向上方策に関する調査研究」においては、実務に産学官連携に携わっている全国から集まった専門家から成る「産学官連携の「質」の向上方策に関する調査委員会」を設置し、[1]産学官連携人材の育成、[2]共同研究、[3]地域連携、[4]地域の中小企業及び開発型ベンチャーとの産学連携、[5]国際産学官連携、[6]人文社会系の大学、研究者との連携、といった6つの視点から21項目について、具体的な事例調査を行い、同調査委員会委員の実践的かつ体系的な考察を加え、産学官連携の「質」の向上に向けた提言と期待効果を取りまとめました。

本調査研究の成果が、将来の大学等における産学官連携・地域貢献活動の加速と更なる進化への一助となれば幸いです。

第1回の調査委員会で「委員会座長を」との指名を受け、産学官連携の「質」の向上に向けた提言と期待効果を取りまとめるという調査活動方針を確認しました。

一年余りにわたる調査委員会委員などによる精力的かつ緻密(ちみつ)な調査研究の結果、次のスタイルの報告書に仕上がった次第であります。

質の向上に向けた提言:質の向上に向けた提言と期待効果の提言部分のまとめ
具体的な事例紹介:【概要】【質の向上のための仕掛け】【向上した連携の内容】
質の向上に向けた提言と期待効果

なお、この調査研究報告書は独立行政法人科学技術振興機構が行う「技術移転に係わる目利き人材育成研修」のテキストの1つに採り入れていただくことになりました。

産学官連携人材の育成
産学官連携活動におけるスタッフ人材の育成
【提 言】
(1)「職員の人材育成と体制整備」に関する質の向上

[1] 労働基準法第14条「契約期間」の改定をすべきである
[2] 学内ティニュアトラック制度の整備を確立する
[3] 「産学連携人材のキャリアパス支援事業」を制度的に恒常政策化すべきである

(2)「産学官連携スタッフ人材育成」に関する質の向上

[1] 人材の流動性を確保するために、産学官連携人材は公募制とする
[2] より多くの若手人材が産学官連携人材を目指せるようキャリアパスを明確化する
[3] 産学官連携スタッフの職業意識を高める機会を増やす
[4] 産学連携スタッフに対する評価軸を明確にし、競争環境を維持する
 
(3)「産学官連携に携わる大学職員の人材育成」に関する質の向上

[1] 大学職員の産学官連携専門人材としての明確なキャリアパスを設計し、実力主義で評価する仕組みを導入すべきである
[2] 産学官連携部門の管理職ポジションには短期異動の事なかれ人材は不採用とし、外部人材のヘッドハンティングも含め戦略的人事を行うべきである

産学官連携プロフェッショナル人材の育成
【提 言】
(4)「TLOにおける技術移転ディレクター人材の処遇」に関する質の向上

[1] TLO技術移転ディレクター人材の、大学職員として地位を確立する
[2] TLOにおける専門職員用には、特別な給与体系の設定をする
[3] 産学連携・技術移転の、専門職員の大学間の雇用流動性でキャリア・アップを図る
 
(5)「産学官連携PM/PD の人材育成」に関する質の向上

[1] 新活動スタッフ「産学官連携プロマネ(PM)、および産学官連携プロデューサー(PD)」を育成する
[2] 新活動スタッフ(PM/PD)を、研究職・事務職に加えての第3の職種として、学内組織に組み入れる
[3] 新活動スタッフ(PM/PD)の組織化について、組織トップの認識が必要
 
共同研究
ニーズとシーズのマッチングにおける質の向上
【提 言】
(1)「共同研究に向けたニーズとシーズのマッチング」に関する質の向上

[1] 「お問い合わせシート」などニーズ情報を共有できるウェブサイトの開設を促進する
[2] 競争的研究資金応募までのつなぎ活動を活性化するため「先取りファンド」向けの支援を充実する
[3] マッチングによる共同研究成果に関わるライセンシングの配分ルールの確立を図る
(2)「産学官連携の入り口としての大学研究シーズ集」に関する質の向上

[1] 大学研究シーズ集の策定に当たっては大学の研究活動の外観や特徴が把握できることが必要である
[2] 大学研究シーズ集の策定に当たっては客観性、定量性を把握・確保されていることが必要である
[3] 大学研究シーズ集は産学官連携の入り口として機能し、マッチングに活用できることが必要である

マッチングを促進する環境整備の質の向上
【提 言】
(3)「シーズの的確な把握による共同研究」に関する質の向上

[1] 共同研究の高度化のため、いかなる課題にも対応でき、機能する学内産学連携支援体制の構築を図る
[2] 共同研究の高度化のため、学内研究者がチームを組み、的確なマッチングを図る
[3] 研究者側から、ニーズに付加価値を付けた共同研究の高度化を図る

(4)「研究者のグループ化による共同研究」に関する質の向上

[1] 研究者のグループ化を図り、研究そのものの質の向上を図ると同時に、企業ニーズとの整合をよくする
[2] 他学部との連携を進めより幅広い研究者の協働を図る
[3] 他大学との連携強化を図る

(5)「医農連携による共同研究」に関する質の向上

[1] 医農連携を図り医学研究シーズの事業化への期間を短縮する
[2] 医農連携促進のため医学・農学は互いのニーズを補うべきである
[3] 医農連携促進のためコーディネーターネットワークを活用する
[4] 異分野連携を促進するような適切な予算の裏付けを押さえる

地域連携
【提 言】
(1)「地域産業の育成を目指した産学官連携」に関する質の向上

[1] 地域産業の育成を目指した産学官連携を地域の産業振興のグランドデザインの重要課題として位置づける
[2] 地域産業の活性化のため継続的な活動として産学官連携を展開する
[3] 地域産業の育成のため研究開発・人材育成・事業化を同時に推進する
[4] 地域産業の育成のため地域を支える組織が相互に連携を図る

(2)「自治体(市・町、商工会、団体等)との連携」に関する質の向上

[1] 自治体との連携を強力に行うためには、はじめに人的ネットワークを築き、課題を共有すべきである
[2] 地域の「まちづくり」のためには、利害関係等を乗り越えたところに価値を見出すべき
[3] 自治体との連携においては、連携主体それぞれの相互理解を一層進め、発展的に新事業に取り組むべき

(3)「理科離れ対策に向けた地域活動」に関する質の向上

[1] 教職(小学校)志望の人文社会系学生に、「実験主体の理科授業」の必修化を図る
[2] 地域および企業が理科離れ対策に主体的に取り組む環境を醸成する
[3] 理科離れ対策のためのJST「地域ネットワーク支援」事業の自立化を図る

(4)「地域における学部分散型の大学の産学官連携」に関する質の向上

[1] 分散した各キャンパスや地域に産学官連携室や拠点を設け、幅広い産学官連携ネットワークを形成し、蛸足の弱点を強みに変える
[2] 設置した連携室・拠点を中心に地域の産学連携を強化する
[3] 産学官連携拠点を利用し、地域の企業ものづくり中核人材育成を図る

地域の中小企業及び開発型ベンチャーとの産学連携
【提 言】
(1)「地域産学官連携の活性化」に関する質の向上

[1] 産学官・金 連携の強化促進を図るため金融機関の職員を客員社会連携コーディネーターとして委嘱する
[2] 技術系コーディネーターと金融系の客員社会連携コーディネーターとの連携によりビジネスプラン作成を行うべき
[3] 客員社会連携コーディネーターの表彰制度等を設け、成果を明らかにするとともにモチベーションを高めるべき

(2)「地域中小企業との連携」に関する質の向上

[1] 技術相談会などのアンケート等による顧客の満足度の把握を行いプログラムの進化と大学と金融機関の連携基盤強化を図る
[2] 信用金庫のキーパーソンを介して多面的・組織的連携の促進を図る
[3] 教員の実のある知識創造へ寄与するため現場の実課題に基づく情報の反映を図る
 
(3)「産産金学学連携による中小企業との連携」に関する質の向上

[1] 金融機関などの中小企業との連携を促進する人材への助成措置を図る
[2] 信用金庫・地銀など金融機関の産学官連携活動に対する顕彰制度を設置する
[3] 中小企業との連携には、地域の信用金庫・地方銀行・中小企業関連機関などを介した連携で促進を図る

国際産学官連携
【提 言】
(1)「グローバル技術移転人材の登用・育成」に関する質の向上

[1] 海外ビジネス実務経験ある技術系企業人を積極的に登用し、全国のTLOに配置する
[2] グローバル技術移転人材になり得る中堅の専門人材を育成する

(2)「国際産学官連携」に関する質の向上

[1] 国際産学官連携促進のためには、まず、国際間「学・学」連携活動の事例・現況を把握する
[2] 次に、「学学」学術・教育交流協定から「学学成果活用」協定の成約を目指す
[3] 最終的に、国際間「産学学産官」連携に進展させる

人文社会系の大学研究者との連携
【提 言】
(1)「社会科学系大学の産学官連携」に関する質の向上

[1] 人文社会科学系大学の関係教員は責任意識を持ち、地域振興中核でプロジェクトをリードする
[2] 人文社会科学系大学は地域社会に常に中長期的な視点を提示する
[3] 人文社会科学系大学は地域社会に対して公正・中立的立場で支援を行う
[4] 人文社会科学系大学はあらかじめ国際的な協調関係の構築に注力する

(2)「産学官連携における文理融合」に関する質の向上

[1] 優れた人文社会系の取り組み事例から、「文系」と「理系」の結節点を探り、全学的な文理“連携” 組織の構築を図る
[2] 地域大学・地方公共団体・商工団体は、グランドデザインを協創・共有する文理“融合” 組織の構築を図る
[3] 人文社会系の産学官連携活動事例の「見える化」を図り、教育・研究へ活用する