2009年8月号
単発記事
大学発ベンチャー成功の秘訣
-メンタリングの視点から-
顔写真

鈴木 啓明 Profile
(すずき・ひろあき)

特定非営利活動法人 日本MIT
エンタープライズ・フォーラム
理事長

米国でベンチャー企業を起こし成功させた経験をもとに、大学発ベンチャー成功の秘訣を伝授する。10カ条の筆頭は「起業家の態度」。懸命に働くことは情熱を持っていることに結び付くという。

大学発ベンチャーの育成について国を挙げて叫ばれてから久しい。しかし、諸外国の事例と比し、事業総売上、雇用総数、事業価値のどれを見ても、他国の後塵(こうじん)を拝している現状は否定できないところだろう。

ここでいう「大学発ベンチャー」とは、大学の研究成果を活用して、外部から資本を調達し、事業として成長を図る事業を指す。従って、投資家に対しては一定期間内に株式公開あるいは事業会社への売却などによるキャピタルゲインをもたらすことが求められる新規事業である。

成功に導く10カ条

大学発ベンチャーを成功に導く10カ条を以下にリストアップ、また成功を阻害する要因を別表にまとめた。

1.起業家の態度―Attitude

どれだけ懸命に働くか、どれだけ利口に働くか、どれだけ自分の持っているものを仕事で利用するか、そしてどれだけ勇気を持っているか。懸命に働くことは情熱を持っていることと結び付く。「知名度」や「メディアにうける」ことと成功は無関係である。

2.ビジョンとミッション―Big Picture

事業計画書作成に当たって、5つのキーワードを明確にする必要がある。すなわち、Vision(環境変化への方向性)、Mission(グループに求められている任務)、Values(グループの特筆される価値)、Goals(達成するべき目標)、Strategies(ゴール達成のための戦略)。ビジョンとミッションは途中での変更はあり得ない。

3.戦略構築―Strategies

戦略と戦術は異なる。戦略は、ビジネスモデルの根幹に対応するものであり、戦略を達成するためにその都度戦術を実践する。戦略のブレは致命傷となる場合もあるので、構築に当たって周到な検討と決断が求められる。

4.経営チーム―Management Team

創業者(経営者)と一連のイエスマンでは成功が危ぶまれる。他人資本を入れた事業で、会社を私物化するのは論外。建設的なチームワークこそ良いカンパニーといえる。

5.競合優位性の保全―Patents and Sustainable Advantage

「トンガリ」(Competitive Advantage)を明確化することは当然であるが、特許で飯は食えない。「売れて・もうけて・勝てる」の「勝てる」の部分での保全措置に特許が必要となる。「競合はありません」というベンチャーがあるが、これは、市場が魅力的でないか、単に調査不足であるかのどちらかである。

6.顧客満足への熱意―Passionate Behavior for Customer Satisfaction

信頼性の確保は重要事項の1つ。120%のサービスを心掛け、失敗とか客先からの檄(げき)こそ信頼挽回(ばんかい)のチャンスと思うが、あきらめが良すぎるベンチャーも散見する。

7.求められる投資家―Qualified Investors

ベンチャーの多くはうるさい投資家を敬遠する傾向がある。しかし、出資した後はお祈りしているようなベンチャーキャピタルは、いざというときに頼りにならない。うるさいベンチャーキャピタルの方がBig Pictureへの誘導などで頼りになる。

8.キャッシュフロー重視―Cash Flow Management

数値が頭に入っていない社長(CEO)が散見されるが、最高経営者として問題である。金払いが良く、集金に鈍感な会社は黒字倒産のリスクがある。

9.営業こそ命―Sales

ベンチャーの生命は、会社全体の営業特化によって保たれる。営業パイプラインの綿密なチェック・更新は重要である。営業を嫌う経営者に成功はない。製品が売れないのは [1]製品が悪い [2]市場がない [3]売り方が悪い、のいずれかであるが[3]のケースが実は非常に多い。

10.バックキャスティング―Back-casting

予測に対する言葉で「ある時点までにあることをなすには、今何をしなければならないか」と時間軸をさかのぼって考える習慣である。これがないために手遅れになって後で泣くことが多い。会議に臨む前に、この会議では、何を達成する会議なのかが分かっていない会議が多いのもこの概念の欠如である。

―大学発ベンチャーの成功を阻害する要因―
[1] 成功者が少ないため、後進のベンチャーへの真の支援者になる人が少ない。
[2] 講演会、支援センター、補助金などは数多くあるが、ハンズオン支援できる人材・組織・団体が不足している。
[3] 研究シーズ、技術シーズがそのままビジネスに発展すると考える誤謬(ごびゅう)が蔓(まん)延している。求める市場、そのためのアプリケーションの創出に知恵を出すコミュニティーが育っていない。
[4] 心底から情熱を注ぎ、支援する人材、団体が少ない。
[5] 人ごと、お任せ、指示待ちの感をぬぐえないベンチャーが多い。社会を変える、自己実現する、自ら切り開くために賭して戦うことなどない。
[6] 学校とベンチャーの二またをかけるベンチャー経営者が氾濫(はんらん)している。逃げ場を確保しており、投資家への説得力を欠く。
本解析の詳細は、ブレークスルーパートナーズの赤羽雄二氏の講演資料を参照されたい(http://www.b-t-partners.com/pdf/080801.pdf)。

メンタリング手法のポイント

大学発ベンチャーは、研究者・技術者に特化した人材が事業を志すことが多いので、ビジネスモデルの構築、市場への対応、資金調達・管理などの事業計画の確立・実行への指導が欠かせない。その方法としてメンタリングと呼ばれるものが有用である。

メンタリングとは、組織内などで経営幹部や出資者などからの指示や命令によらず、メンターと呼ばれる指導者が、対話による気付きと助言によって被育成者(メンティー)本人の自発的・自律的な発達を促す育成・指導手法である。

メンターの役割と留意点としては [1]事業の焦点を明確にする [2]事業計画書の「抜け」を見つける [3]潜在的協業会社・団体の紹介 [4]事業の各節目を見据える [5]知己の支援者の紹介 [6]発表の仕方のアドバイス [7]知財保全施策への助言 [8]会社設立と経営に関するアドバイスなどがある*1

筆者は米国で大学発ベンチャーの立ち上げ、成長、上場、拡大を経験した。本稿が、大学発ベンチャーを志している人たち、実際に事業に邁(まい)進されている方々、あるいは同ベンチャーの支援・育成をしている方々にプラスになればと願っている*2

*1
メンターとしての注意事項は [1]対象とするベンチャーに投資したり、アドバイスに対する対価を直接ベンチャーから受け取らない(利益相反)[2]立場をわきまえないで、自己の考え・手法を押し付けない [3]ベンチャーになり代わって、ビジネスプランを立案しない(主役はあくまでもベンチャー自身)[4]メンターも多忙であるが、メンターを引き受けた以上、途中で投げ出したりせず約束を守る、などである。

*2
特定非営利活動法人日本MITエンタープライズ・フォーラム(http://www.mit-ef.jp/)では、良いビジネスプランの評価とブラッシュアップを果たすための「ビジネスプランコンテスト・イン・ジャパン」を毎年実行している(2009年で9回目)。特筆されることは、最終選考されたトップ8チームの各チームに認定メンターが2~3名付き、2カ月間かけてビジネスプランのブラッシュアップを徹底的に行うことである。過去に表彰されたベンチャーの多くは、現在各方面でビジネス展開している。