2009年9月号
特集  - 「起業」の心得
平成20年度「大学発ベンチャーに関する基礎調査」から得られるもの
顔写真

藤川 昇 Profile
(ふじかわ・のぼる)

独立行政法人科学技術振興機構
イノベーション推進本部 産学連
携展開部 産学連携担当 産学連
携アドバイザー

経済産業省の平成20年度「大学発ベンチャーに関する基礎調査」から幾つかのポイントを紹介。複数大学の技術シーズを活用しているベンチャー企業(全体の1割)の資本金は起業時の約50倍に拡大しているのに対し、単一技術シーズの企業の資本金増加は3倍にとどまっている。複数技術シーズを組み合わせたビジネスモデルの立案を心掛けることが求められる。

経済産業省は平成20年度の「大学発ベンチャーに関する基礎調査」を株式会社日本経済研究所に委託して実施、2009年5月に公表している。この調査は、平成13年に「大学発ベンチャー1000社構想(平沼プラン)」が打ち出されて以来毎年行っているもので、本年度で7回目の調査となる。

このたび「イノベーション・ジャパン2009」の開催を迎え、今回の調査報告の中から大学発ベンチャーの運営に役立つと考えられる幾つかのポイントについて述べてみたい。

調査結果の概要
1. 大学発ベンチャー総数は1,809社、その一方で活動停止、倒産件数312社

現在活動している大学発ベンチャー数はトータルで1,809社となったが、年度ごとの設立件数では平成16年度の247社をピークに減少を続け、平成20年度は54社となった(図1)。

図1

図1  大学発ベンチャーの年度別設立数の推移
     (出典:経済産業省「大学発ベンチャーに関する
     基礎調査」実施報告書)

特に、全体の35%を占めるバイオ系が平成20年度に限れば21.8%に減少している。

これは、昨今の経済情勢が大きく影響し、ベンチャーキャピタル(VC)の出資手控えに加え、設立予定者自身がベンチャー設立に慎重になってきた結果と見ることができる。

また、現在活動している大学発ベンチャー1,809社のほかに、これまでに合併、倒産、活動停止したベンチャーは312社となっている(従って設立ベースではトータル2,121社)。

2. 「単年度黒字・累積損失なし」は全体の20%

「単年度黒字・累積損失なし」の健全なベンチャーは回答企業の20%(55社)、多くのベンチャーは単年度赤字や累積損失を抱えており厳しい状況にある。

これは、早期の研究開発段階での起業が70%を占めていることに加え、起業段階での準備として「想定される市場特性の把握」を十分行っていないベンチャーが半数以上を占めていることが大きく影響しているものと考えられる。

3. 複数の技術シーズを活用した大学発ベンチャーの資本金増加率は起業時の50倍

複数大学の技術シーズを活用した大学発ベンチャー(全体の約1割、150社)は、資本金の増加率が起業時に比べ約50倍となっているのに対し、単一技術シーズを活用した大学発ベンチャーの資本金増加率は3倍にとどまっている(表1)。

表1  複数大学の技術シーズを活用した大学発ベンチャーの資本金の推移
(出典:経済産業省「大学発ベンチャーに関する基礎調査」実施報告書)

表1

複数の技術を活用することが、技術の高度化、事業の安定性、資金調達、ネットワークの広がりによる経営基盤強化等に効果があったものと思われる。

4. IPOを目指すベンチャーは30%弱、M&Aはわずか4.4%
図2

図2  大学発ベンチャーの出口戦略
     (出典:経済産業省「大学発ベンチャーに関する
     基礎調査」実施報告書)

大学発ベンチャーの出口戦略の意向は、「なるべく早い新規株式公開(IPO)」が30%弱(実際に平成20年度までにIPOしたベンチャーは24社)、「他企業への売却(M&A)」はわずか4.4%にすぎない。

多くのベンチャーは、企業形態を維持しつつ開発技術やノウハウを売却、あるいは従業員5~50 人、売上高数千万円~数億円程度の企業成長を望んでいる(図2)。

M&Aの件数がIPOの件数の3.5倍である米国の状況とは大きく異なっている。日本ではM&Aの有効性が十分理解されていないことが原因の1つと思われる。

5. ベンチャーが直面する3つの経営課題は人材、資金、販路

ベンチャーが直面する3大課題として、「人材の確保・育成」「資金調達」「販路開拓」が挙げられている。このうち特に資金調達については、公的支援策の活用が有効である。

例えば、今回の調査において「光る大学発ベンチャー20選」が掲載されているが、現在までに確認できたところでは、10社が科学技術振興機構(JST)の諸制度を活用している。JSTに限らず、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)、中小企業基盤整備機構等が研究開発段階での公的支援策を実施しており、資金的なリスクを回避するうえから積極的な活用が望まれる。

ベンチャー設立時における留意点

調査結果から、ベンチャー事業者は設立に際して少なくとも次の事項に留意する必要があると思われる。

1. 「顧客(市場)」「製品サービス」「要素技術」「研究成果」の見える化

優れた研究成果があるから起業するのではなく、少なくとも起業前に、「研究成果」の優位性を基にした「顧客(市場)」の想定、それに対応する「製品・サービス(コンセプト)」、そのコンセプトを実現する「要素技術」の組み合わせについて、それぞれのつながりと開発期間をロードマップとして描き「見える化」する。

これにより、顧客(市場)を強く意識でき、商品を上市するまでのプロセスを関係者間で共有しベクトルをそろえることができる。

2. 複数技術シーズを組み合わせたビジネスモデル

経営基盤が脆弱(ぜいじゃく)な大学発ベンチャーは、事業の柱が単発では極めて不安定であるため、複数の技術シーズを組み合わせ、「シナジー効果」のある複数の事業を柱としたビジネスモデルの立案を心掛ける。

ビジネスモデルの立案では、「誰に(対象顧客)」「何を(提供機能)」「どのように(実現技術、実現方法)」を明確にしておく必要がある。つまり「利益を生み出す仕組み」が見えている必要がある。それでも現実との乖離(かいり)は大きいのが一般的ではあるが、小回りの利くベンチャーでは修正しやすく環境変化に対応しやすい。これまでの経験からみても、ビジネスモデルがあいまいなまま起業したベンチャーは失敗する確率が高い。

なお、ビジネスモデルを補強し、事業の優位性を保つだけでなくオープンイノベーションへの対応、有利な資金調達、M&A等のためにも知財戦略(知財のポートフォリオ)は欠かせない。

3. 公的支援策の活用

大学発ベンチャーの設立を考える場合、公的支援策の活用を検討する。

公的支援策は、研究開発資金リスクの回避のみならず、パブリシティー効果による人材確保、販路開拓への好影響、さらには自治体や支援機関等との連携効果が期待される。

また、事業化以降の時点では、最近発足した大型官民ファンドの株式会社産業革新機構の活用を検討してみるのも1つの方法かと思われる。当機構では、大学、ベンチャー企業、中小企業、大企業が持つ技術、知財を組み合わせ大きな事業としてまとめ上げていくことや、ベンチャーと大企業をつなぐ仕組みを用意する等の支援を目指している。

おわりに

最近の報道によると、米国の投資会社の門をたたく日本のベンチャー企業が増加しており、日本人が起業し太陽光発電の事業化で350億円を集めた環境ベンチャーが出てきている。また、アジア諸国による日本企業(ベンチャー)誘致が盛んとなっており、例えば、シンガポールではハイテクベンチャーの法人税を18%からさらに17%に下げ、韓国では税の優遇措置に加え土地使用料を免除するなどの優遇策を始めた模様である。

日本のベンチャー企業をイノベーションの担い手とみなし、新産業の創出を期待するならば、国、自治体、支援機関、VC 等がベンチャーを育成する過程において、資金提供のみならず、技術人材、経営人材の確保、海外を含めた大学や企業との連携支援、販路開拓等の幅広い経営面での支援(ハンズオンのサービス支援)の充実が必要である。ベンチャー企業への一層の支援が望まれる。