2009年9月号
特集  - 「起業」の心得
基礎研究段階の企業が4分の1
~JSTのベンチャー企業調査~
顔写真

齋藤 和男 Profile
(さいとう・かずお)

独立行政法人科学技術振興機構
戦略的イノベーション推進部
大学発ベンチャー・若手ベン
チャー担当 調査役

「大学発ベンチャー創出推進」など科学技術振興機構(JST)の各種事業を通じて設立されたベンチャー企業(JST発ベンチャー企業)を対象にした平成20年度調査によると、早すぎる起業が多いことが分かった。基礎研究レベルでの起業が26.5%。研究開発成果が企業運営に活かされているかどうかについては、「ほとんど寄与していない」「かなり不足」「少し不足」が合わせて40%を超えている。

はじめに

未曾有の経済危機の中、イノベーションの担い手として大学発ベンチャー企業の設立が期待されている。経済産業省の調査(以下、「METI調査」という)*1では、平成19年度末時点で1,773社の大学発ベンチャー企業が活動している。独立行政法人科学技術振興機構(JST)は、その創出を促す「大学発ベンチャー創出推進」事業や、その前身事業である「プレベンチャー事業」のほか、基礎研究事業、産学連携事業、地域関連事業等を通じて大学発ベンチャー企業の設立に貢献しているが、これらの事業を通じて設立された大学発ベンチャー企業(以下、「JST発ベンチャー」という)を対象として、その設立の状況や活動状況を平成19年度に引き続き調査したので、その概要を報告する。なお、今回のJST調査では、一部の事項についてMETI調査と比較したほか、JST発ベンチャー10社(平均資本金額:82百万円、平均売上高:180百万円、平均従業員数:11名)に訪問調査も実施した。

調査結果の概要
図1

図1 年度別設立割合の推移

平成20年11月末現在のJST発ベンチャー数を調査したところ、214社が抽出された(このうち「大学発ベンチャー創出推進」事業〔平成14年度は文部科学省、平成15年度以降はJSTが実施〕と「プレベンチャー事業」により設立されたベンチャー企業は113社)。調査時点は異なるものの、METI調査が把握した大学発ベンチャー企業の約1割強がJST発ベンチャーであった。いずれの調査においても平成16あるいは17年度をピークに新規設立企業数の伸びは鈍化していた(図1)。

JST 発ベンチャーに対するアンケート調査を平成21年3月に実施した。回答のあった104社の内容を集計したところ、売上高が1億円を超える企業が10社、資本金が1億円を超える企業が16社、従業員が10名を超える企業が26社という結果になった。

図2

図2 事業ステージ(METI調査との比較)

次いで、回答企業の平均売上高から、JST 発ベンチャーの経済波及効果(直接効果〔総売上高〕と間接効果〔生産誘発額等の額〕)を算出した。直接効果は109億円、経済波及効果は200億円であった。METI調査では大学発ベンチャー企業の経済波及効果は5,111億円であり、JST発ベンチャーのそれは約2%にとどまったことになる(両調査とも調査・算出手法は同一)。JST発ベンチャーの設立後経過年数が平均4.8年であり、研究開発段階にある企業が53%であるのに対し、METI調査ではそれぞれ5.7年と46%であることから、JST発ベンチャーではいまだ販売すべき商品が完成していない企業が多いことが経済波及効果の少ないことの原因と推定している(図1図2)。

しかしながら、事業ステージが事業段階にある企業が平成19年度調査よりも増加し(40%→47%)、また、単年度黒字で累積損失の無い企業もわずかではあるが増加しており(11.7%→13.3%)、製品化、黒字化に向かっていることが分かる。

図3

図3  研究開発成果のベンチャー運営への寄与
     (全体)



図4

図4  研究開発成果のベンチャー運営への
     寄与(基礎研究レベルで起業)

さらに、起業前に大学等において得ていた研究開発成果の段階を聞いたところ、基礎研究・応用研究・開発研究レベルとの回答がそれぞれ26.5%、43.1%、30.4%となっており、これらの企業では前述の成果が企業運営に「ほとんど寄与していない」「かなり不足」「少し不足」との回答が全体で41.6%(図3)、基礎研究レベルで創業した場合では59.2%にまで達しており、早すぎる起業がなされていることがうかがえる(図4)。

わが国のベンチャー企業をとりまく状況は厳しい(エンジェル、ベンチャーキャピタルの不足、社会や市場からの信用の不足、公的支援の不足等)ことから、起業前に十分な準備をしておくことが必要と思われる。実際、アンケート調査の記載コメントや訪問調査の結果から、起業までに市場調査を実施すること、それを基にした製品やサービスならびに顧客のイメージを持つこと、学会などに参加してできるだけ多くの人的ネットワークを構築すること(実際、このネットワークを活用して人材や販路の確保をしている例が多い)、研究開発成果を開発段階まで持っていくことなどの重要性を指摘する意見が多かった。

JSTの取り組み

JSTでは平成21年度より、技術移転関連事業を統合し、研究成果最適展開支援事業(略称:A-STEP)を発足させた。「大学発ベンチャー創出推進」も「起業挑戦タイプ」としてこれに組み込まれたが、従来、基本的データが不足しているとみられて不採択となる課題もあったことから、フィージビリティスタディとして「起業検証タイプ」も新設した。

また、起業時までにとどまらず、起業後の研究開発に対する支援を行うため、中小企業やベンチャー企業を対象とした実用化挑戦(中小・ベンチャー開発)も組み込み、これにより一部ではあるが、事業化まで継続的に支援することが可能となった。

最後に

最近、JST発ベンチャーが各種の表彰制度で受賞する例が増えている。その中の1社は創業1年目にして1億円を超える売り上げを達成しており、大学発ベンチャーの成功例となることを期待している。

*1
「大学発ベンチャーに関する基礎調査」(平成20年8月報告)