2009年9月号
特集  - 「起業」の心得
中国における大学サイエンスパークの動向
顔写真

張 輝 Profile
(ちょう・き)

株式会社技術経営創研
代表取締役社長


大学発ベンチャー企業に関する中国の大きな特徴は、国による強力な支援システム。その1つがインキュベータの「国家大学サイエンスパーク」で、全国69カ所にある。入居企業に、創業に際しての法的手続き、マーケティングや企業経営、融資、M&A、上場などさまざまなテーマについてのサービスを提供している。

日中の大学発ベンチャーの相違点は[1]その創出背景や事業化の原点 [2]大学発ベンチャーの製品・サービスが顧客と相対するマーケットの段階 [3]大学発ベンチャーに対するサポートシステム、などであると筆者は考える*1。拙稿では、特に[3]のサポートシステムに注目し、その一要素となる大学サイエンスパークについて俯瞰(ふかん)的に紹介する。

大学発ベンチャーの揺籃(ようらん)~大学サイエンスパーク

中国における大学発ベンチャー*2は、非技術型ベンチャーを主とする従来の「大学発企業」の延長線上にある。1990年以降、日本でも議論されたように、中国においても「教育」や「研究」に加えられる「大学の第3の役割」として「社会還元」を意味する「服務社会」という理念が提起され、大学で創出される研究成果を活かした起業が活発に行われるようになった。

その結果として、日本の大学発ベンチャーに相当する大学発技術型ベンチャーの占める割合が増え、2004年には、大学発企業全体に占める割合が51.61%と全体の半分を超えるまでに至った(大学発企業総数は4,563社、大学発技術型ベンチャーは2,355社)。

これは2000年以降、大学発ベンチャーを単体としてではなく、それらを集積した大学サイエンスパークという「インキュベータ」を国策として強化・発展させる流れが本格化してきた結果の1つである。また、2006年12月現在、国家大学サイエンスパークに入居している企業の合計数が5,500社余りであることからも、国家大学サイエンスパークは名実ともに「中国における大学発ベンチャーの揺籃」という地位を確立したといえる。

大学サイエンスパークの認定基準

国家大学サイエンスパークは2001年3月に、中国科学技術部や教育部が「国家大学サイエンスパークに関する管理試行規則」に基づいて、イノベーションに関する[1]地域環境の優劣 [2]経営リソースの有無 [3]技術移転の実績 [4]技術開発の実績、および[5]地方政府の重視度といった観点から審査し、これを認定するものである。

2006年11月には、国家大学サイエンスパークの発展を加速するため、中国科学技術部と教育部が「国家大学サイエンスパークの認定と管理規則」を制定した。ここでは例えば、独立法人資格を持つ専門的な管理機構を備えること、自主的に使用可能な建築面積を1.5万平方メートル以上有すること、その内インキュベーションに使用する面積が1万平方メートル以上であること、入居する企業の半分以上が技術、成果および人材等で所属する大学と実質的な関係を有すること、入居中の企業数が50社以上であること、社会のために1,000件の就職機会を創出すること等が定められている。

さらに近年では、「大学サイエンスパークのイノベーション環境を評価する指標の体系化」という研究プロジェクトが進んでいる*3

大学サイエンスパークの分布や基本的な類型
図1

図1 大学サイエンスパーク分布図

2009年5月現在、中国各地に設置された国家大学サイエンスパークは合計69カ所にのぼる。これらは100以上の大学、地方政府および研究機関等により設立・運営されている。その地理的分布を図1に示す。

国家大学サイエンスパークは、その設立組織構成の観点から次のように分けられる。

1大学・1パーク

北京大学や重慶大学を例とする、1つの大学が1つの大学サイエンスパークを設立する形。

1大学・複数パーク

清華大学のように1つの大学が複数の地域に複数のパークを設けるもの。

複数大学・1パーク

例えば湖北省の華中科技大学や武漢大学など、または雲南省の雲南大学や昆明理工大学などのように、複数の大学が共同で1つのパークを設立するもの。

学官連携によるパーク

例えば南京市の南京大学や南京工業大学などに南京市鼓楼区政府が加わった形で大学サイエンスパークを設立したようなケース。

このように、国家大学サイエンスパークの組織構成は一律ではなく、多様な形で存在している。これは、各地域別の事情を踏まえ、その特長を活かした戦略的な展開の一面であるともいえる。

大学サイエンスパークが提供する主なサービス

入居企業に対して、国家大学サイエンスパークは主として次のようなサービスを提供している。

第1は、創業に際しての法的手続き等の支援サービスである。具体的には、オフィスや家具、会議室および関連設備、開発環境を貸与するほか、企業登録、ハイテク企業の認可や、中小企業イノベーション基金・タイマツ計画*4プロジェクト等の申請に対する支援等が挙げられる。

第2は、マーケティングや企業経営などへのサービス支援である。コンサルタント会社、弁護士事務所、監査法人、資産評価事務所*5等の仲介機関(またはその窓口)をサイエンスパークに駐在させ、これらの専門機関を通じて創業企業に対する組織設計、技術開発および法務財務等の相談サービスを提供している。

第3は、融資、M&A、買収、上場等に関する諮問サービスの提供である。サイエンスパークがファンド、リスク投資家や上場企業に優秀な入居企業を推薦することで、入居企業はタイムリーに資金取得のチャンスを得ることができ、これが健全かつ迅速な成長の支援策として機能するので、比重が高まってきている。

大学サイエンスパークが向かう方向

2006年12月6日、「国家大学サイエンスパークに関する第11回5ヵ年発展規画綱要」が策定された。同綱要は、一流大学として認められるには大学サイエンスパークの発展が不可欠であるという重要な位置付けを再確認した上で、大学サイエンスパークの現状分析を行い、将来への戦略やビジョンを描いており、現在それが具現化されつつある。

大学サイエンスパークにおける産学官連携は盛んであり、その目標は「ハイテク企業(大学発ベンチャー)のインキュベーション」および「イノベーションの揺籃」の具現化である。今後は、これらの具現化を通じて、大学における教育研究の質のさらなる向上や、産業界における新商品や新事業の創出が加速し、国家大学サイエンスパークが政府の関連政策の策定立案や国家ハイテク産業開発区全体のグレードアップに、また産業クラスターの形成やイノベーションにも貢献する、と期待されている。

中国における国家大学サイエンスパークは大学発ベンチャーの誕生や成長を加速化している。中国の戦略的産業シフトの流れに合致し、最終的にはハイテク産業の国際化につなぐプラットフォームの1つとなっていけるか、今後も注目されよう*6

*1
張輝.中国における大学発ベンチャーモデルの現状、背景及び最新動向~日中比較の観点から.中央大学政策文化総合研究所主催研究会報告.2005-6-7.

*2
中国では日本でいう「大学発ベンチャー」に相当する用語が存在しないため、拙稿では便宜上、まず中国「大学発企業」に区別する用語として、中国「大学発技術型ベンチャー」を日本の大学発ベンチャーに相当するものとして用いることにする。

*3
謝輝.関於大学科学園創新環境評価体系的研究.中国高校科技与産業化.No.11, 2008, p.67-70.

*4
「火炬(タイマツ)計画」とは、1988年8月にスタートしたハイテク成果の商品化、ハイテク商品の産業化、ハイテク産業の国際化を目的とする中国の一大国家プロジェクト。主な分野は新素材、バイオ、電子・情報、光・機械・電子一体化、新エネルギー、高効率省エネ、環境保全など。

*5
資産評価事務所の主要業務の1つは技術評価業務である。会社の設立に必要な資本金としては株主による出資が一般的であるが、中国では資金ではなく、技術による出資も認められている。その場合、資本となる技術がどの程度の資産に相当するかという資産評価を受けなければならない。

*6
2009年2月現在の国家大学サイエンスパーク一覧やパークごとの概要については、独立行政法人科学技術振興機構中国総合研究センター.中国におけるサイエンスパーク・ハイテクパークの現状と動向調査報告書.2009.資料p.71-136.を参照。また最新一覧等に関してはJCTBF(日中テクノビジネスフォーラム)運営のサイト(http://www.jctbf.org/jp/CHBW/link.0.03.sciencepark.htm)を参照。