2009年9月号
単発記事
研究者が「研究成果を世の中で役立てたい」
と悩む時
~コンサルティング機能を制度化した「つなぐしくみ」~

独立行政法人
科学技術振興機構
イノベーション推進本部
産学官連携展開部
産学連携担当


自分の発明をモノやサービスとして世の中に送り出したいという思いは大学*1の自然科学分野の研究者の多くが抱いているものなのではないだろうか。例えば、東京工業大学の細野秀雄教授は「材料科学を縛るのは、世の中のために役に立つ、それを目指すことだけです*2」と語っている。

ところが、研究から新たな発明が生まれた時、「そもそも、自分の発明した新技術は世の中の役に立つのだろうか」「特許を企業で実用化してもらうにはどうすればいいのか」―こんな悩みを持つ大学の研究者は少なくないはずだ。大学の研究成果を活用して産業界で事業化してもらう「技術移転」を促進するため、独立行政法人科学技術振興機構(JST)など各種支援機関がさまざまなメニューを取りそろえている。しかしそうした制度に精通している研究者ばかりではないし、現時点では、大学の産学連携部門の科学技術コーディネータなどに気軽に相談できる研究者も限られるであろう。

実用化を目指す大学の研究者の味方「つなぐしくみ」

上記のような「自らの発明を世の中に送り出すために、どこに、何を相談しに行ったらいいか分からない」「何から手を付けたらいいのか」と悩んでいる大学の研究者の心強い味方が、JSTの公募事業「良いシーズをつなぐ知の連携システム(通称:つなぐしくみ)」である。

「つなぐしくみ」は、実用化のためのコンサルティング機能をそのまま1つの事業に組み立てたもので、JSTの技術移転関連事業の中でもユニークな制度である。

「つなぐしくみ」の利用が効果的なケース

どのような場合に「つなぐしくみ」が有効か、代表的な活用事例を紹介する。

事例1
事例2

*3  *4          

事例3

*5          

これまでの支援状況

表1  H19・20年度「つなぐしくみ」
     の支援状況

表1

図4

図1 「 つなぐしくみ」申請者の支援希
     望(1課題当たり複数の希望、H20年度
     回答総数395件)



図5

   図2 「 目利きレポート」に対する満足度
        (回答数176件)

本事業は平成19年度に開始したばかりでまだ実績は少ないが、これまでの2年間の支援状況が表1である。

製品化の事例としては、長岡技術科学大学の中川匡弘教授がスポーツメーカーと連携して、脳波のフラクタル解析に基づく感性評価という手法を用いてテニスラケットを開発し、販売を開始した例などがある。この事例では、中川教授が「つなぐしくみ」の支援のもと、テニスラケットの使用感についての解析データを取得した結果が、企業の製品化を後押しした。

そのほか、JSTの技術移転プランナー(「つなぐしくみ」を担当する技術移転に関する目利き。コンサルティングとコーディネート機能を併せ持つ)が声を掛けた企業との交渉が成立し、ライセンス契約・製品販売が実現した例や、研究フェーズのまだ早い段階の技術では、技術移転プランナーが特許補強の必要性を指摘し、明細書の補正により強い特許を確保した例、連携する企業が見つからなかった技術では、ほかの大学の研究者を紹介し(「産学」連携の前に)学学連携でまずはデータを積み上げるというステップに進んだ例など、それぞれの技術が着々と実用化に向けて進んでいる。

「つなぐしくみ」に申請する際に申請者が希望している支援内容について集計した結果を図1、また、申請技術を評価分析した「目利きレポート」に対する満足度を調査した結果を図2に示す。

それぞれの課題に応じた支援が始まってまだ間もないところであるが、JSTの技術移転プランナーによる懇切丁寧なコンサルティングが、現在のところ関係者の間で大好評だ。

おわりに

最近、大学では知的財産本部などの整備が進み、科学技術コーディネータなどの肩書の方々が精力的に産学連携のための活動を行うようになってきた。JSTによる「つなぐしくみ」の取り組みは大学におけるそのような活動を補うものであり、知的財産本部などとも協力しながら進めている。ぜひ、有効に活用していただいて、少しでも大学の研究成果の実用化、社会貢献の一助になれば幸いである。

●つなぐしくみ URL:http://www.jst.go.jp/tt/tsunagu/

*1
本稿でいう「大学」には、国公私立大学のほか、大学共同利用機関、高等専門学校、公設試験研究機関、研究を行っている特殊法人・独立行政法人・公益法人を含む。

*2
「産学官連携ジャーナル」2009年6月号掲載。

*3
企業の方々に大学の技術シーズを紹介し、連携を呼びかける場。JST東京本部(千代田区四番町)などで開催。これまでに1,600件以上の技術紹介を行い、うち340件以上のマッチング実績がある。

*4
必要な課題には「つなぐしくみ」で1年間・300万円程度の費用を提供することがある。

*5
特許調査・技術調査・市場性調査や今後の展開に対するアドバイスをまとめた報告書。サンプルはhttp://www.jst.go.jp/tt/tsunagu/sample1.pdf 参照。