2009年10月号
連載1  - 起業支援NOW-インキュベーションの可能性
扇町インキュベーションプラザ・メビック扇町
クリエイターの創業・活性化をバックアップ
顔写真

堂野 智史 Profile
(どうの・さとし)

財団法人 大阪市都市型産業振興センター
扇町インキュベーションプラザ所長 兼
インキュベーションマネージャー

大阪市が設けている扇町インキュベーションプラザ・メビック扇町は主にクリエイターやデザイナーを対象としたビジネスインキュベーション施設である。1年契約で審査の上2回まで再契約できるが、再契約=「留年」という言葉で説明し、早期卒業を促す。手取り足取りの支援サービスを提供するのではなく、主体性をはぐくみ、自立を促すことを基本姿勢としている。

Incubation for Cluster
写真1

写真1 ロビー風景

扇町インキュベーションプラザ・メビック扇町*1(以下、メビック扇町) は、2003年5月に大阪市経済局が設置した、主にクリエイターやデザイナーを対象としたビジネスインキュベーション(BI)施設である。大阪市北区扇町公園の南に位置し、昭和初期に建築された古い水道局庁舎の一部を改装して利用している(写真1)。管理運営は財団法人大阪市都市型産業振興センターが行っている。

もともと扇町・南森町・天満など大阪市北区東部地域には、ソフト系IT、映像、デザイン、広告、印刷等のクリエイティブ関連産業が多数集積している。その数は2,000社を超える。メビック扇町では、こうした地域特性を活かし、入所するクリエイター、デザイナー等の創業支援(インキュベーション事業)と、地域に集積するクリエイティブ関連産業の活性化(クリエイティブクラスター創生事業)に取り組んでいる。

本当の意味でのBI施設であり続けたい

メビック扇町には、プレBIとしての創業促進オフィス(3階、23ブース)とメインBIとしてのインキュベーションオフィス(4階・5階、25室)がある。現在、民間出身の3人のインキュベーションマネージャー(IM)が、入所企業の創業支援に取り組んでいる。

創業支援に対する基本的な考え方として、「本当の意味でのBI施設であり続けたい」という思いがある。単なる賃貸オフィスではなく「保育器」としての役割を着実に果たすことを目指している。BI施設の意義は、起業家自身が自立した一人前の経営者として早く巣立つことにある。そのため、入所企業の選定に際しては、BI施設を正しく理解し、効果的に活用することによって早く自立・成長する強い意志がある起業家を、現場で支援に携わるIMが選び育てることを旨としている。既に自立した一人前の起業家や、支援しても効果的に成長が見込めない起業家を受け入れ支援する必要はないものと考えている。

写真2

写真2 成果報告会

入所後は、日常的な相談支援活動はもとより、定期面談と成果報告会(写真2)を支援活動の中心に位置付け、入所企業に対しては公的BI施設利用者の責務として参加を約束している。定期面談は、入所企業自らが設定した目標に対する進ちょく状況等を共有するため、初期、中間、再契約審査の年3回実施している。また、12カ月目には入所企業が1年間の奮闘ぶりを公の場で発表する成果報告会を実施し、市民に成果を報告する機会を設けている。その他、経営セミナー、交流会、販路開拓支援、コラボレーション事業等の各種事業を実施し、入所企業の情報発信、ネットワークづくり、人材育成、経営相談等さまざまな面での支援を実施している。

BIの「卒業」目標は、入所企業自身がBIの意義を十分に理解した上で、自ら設定することが重要であると考えている。各自が決めた目標をIMと共有し、IMが第三者的な立場から目標に対する方向性や進ちょく状況を確認しながら事業経過を見守り、日々叱咤激励(しったげきれい)を繰り返している。メビック扇町では、1年契約で審査の上2回まで再契約が可能であるが、再契約が決して喜ばしいものではないことを、再契約=「留年」という言葉で説明し、早期卒業を促している。

あくまでも弱者救済的な手取り足取りの支援サービスを提供するのではなく、入所企業自らが「自分で見て、感じ、考え、判断し、行動して結果を出す」という主体性をはぐくみ、自立を促すことを支援活動の基本姿勢としているのである。

成果と課題

オープン以降約6年が経過し、この間121社が退所し、うち「卒業」企業は58社、3年満期を含む「退学」企業も58社である。「卒業」企業の平均在所期間は1年11カ月であり、入所企業の多くが比較的早い段階で「卒業」している。中には売り上げ、従業員数ともに大幅に伸びた成長企業も存在する。また、2006年度以降本格化したクリエイティブクラスター創生事業の実施により、入所企業を含むこの街のクリエイターのネットワークが急速に拡大し、クリエイター相互に切磋琢磨(せっさたくま)し刺激を与え合える関係性、あるいは協働の関係性が醸成されつつある。

しかし、水道局庁舎解体のため来年3月末に閉館が決定し、一時的に活動が休止に追い込まれる事態が懸念されている。現在、今後のメビック扇町の在り方が議論されているところであるが、これまでの活動で得た資産を消失させないためにも、クリエイターの情報発信、ネットワークづくり、人材育成に向けた地道な取り組みを継続していく必要があろう。

*1
メビック扇町 http://www.mebic.com