2009年11月号
単発記事
ハマナス花酵母と伏流水で化粧品開発
北海道の産学プロジェクト、販売会社も設立
顔写真

城野 理佳子 Profile
(きの・りかこ)

北海道大学 産学連携本部
事業化推進部 産学連携
マネージャー

北海道の花として親しまれているハマナス。釧路の酒造会社はその花弁から単離した花酵母を使った日本酒を作っている。これにヒントを得て、北海道の企業3社と4つの大学がハマナスと伏流水を使った化粧品を開発し、売り出した。

北海道の企業3社と4つの大学が連携して、北海道の花として親しまれるハマナス(写真1)と伏流水を用いた化粧品を開発した。北海道ブランドの「北花エッセンス」(写真2)だ。この販売のために大学発ベンチャー企業の合同会社ノースラボを設立し、かかわった大学の生活協同組合、道内のエステティックサロン、旅館等を中心に営業を展開している。

化粧品開発に至った経緯
写真1

写真1 北海道の花「ハマナス」



写真2

写真2 北花エッセンス

北海道には豊富な天然資源と、バイオ関連の中小企業が数多くある。平成15年から、北海道大学創成科学研究機構田中順三研究室では、道内の企業と共同でコラーゲンやキトサンなどの海洋資源を用いた医療デバイスの開発を進めてきた。しかし医療デバイスの認可を得るまでには長い時間と多額の研究費が必要となり、そのためビジネスモデルとして化粧品の応用展開を検討してきた。

平成17年7月に『次世代化粧品素材研究会』を発足し、北海道の天然化粧品素材と皮膚科学に関する情報を発信し、道内の化粧品関連企業へ呼び掛けた。そこでは北海道の化粧品企業は販売力が弱く、多くの企業が原料の供給かOEM*1を行っているのが実情であり、付加価値の高い最終製品を市場に届けたいという声が多く聞かれた。

次世代化粧品素材研究会と並行して、北海道開発局の協力のもと北海道内の伏流水についても調査を行った。水の誘電分散、ミネラル成分、感性(味、におい、触覚など)を調べ、実際に化粧水を試作し「化粧品に適した水」を見つけることができた。北海道の花として親しまれるハマナスにも着目した。釧路の福司酒造株式会社では、ハマナスの花弁から独自に単離したハマナス花酵母を使った日本酒を開発していた。またハマナスの果実は古くから食用として利用されており、豊富なビタミンとポリフェノール類が含まれている。そこで、ハマナスと北海道の伏流水を用いた化粧品の開発研究を行うため、企業3社と3大学(2年目から4大学)が共同で平成19年度経済産業省地域資源活用型研究開発事業に応募し、採択され(「感性工学と誘電分光によるハマナス花酵母配合の北海道化粧品開発」)、開発を進めてきた。

「北花エッセンス」は平成21年11月1日より店頭に並んでいる。販売を行う合同会社ノースラボはこのプロジェクトを進めてきた大学の研究者と企業関係者らが出資して、平成21年6月に設立した。営業活動は企業からの出資者が中心となって行い、新商品の開発やメディア戦略については、教員も参加して検討を行っている。

産学連携による人材教育の可能性

表1 北花エッセンスの開発チーム一覧

表1

このプロジェクトには企業、大学だけでなく、アドバイザーとして多くの機関がかかわってきた(表1)。大学は多くの研究成果が活用されることを望み、企業はより良い製品ができれば良いということで、一見同じ方向性に見えるが、製品が具体化していくほど両者の違いを感じることが多くなった。企業からすれば、使い勝手の良い大学の成果だけを利用して製品化するのが最も手っ取り早い方法だが、それでは本来の大学の持つ多様性や、教育機関としての能力を生かしきれない。田中教授は地場産業の育成と、若手研究者が活躍することも大切と考え、製品の開発から販売戦略に至るまで、教員も参加して何度もディスカッションを行ってきた。ネット販売を行わず、購入できる店を厳選して販売を展開する「プレミアム戦略」も、教員のアイデアから出てきたものである。

大学の「組織化」と「安全管理」意識

田中順三東京工業大学教授のコメント

北海道大学の創成科学研究機構は、道内の産業を育成するため、北キャンパスの広大な敷地に建設されている。そこで4年間近く研究を行った。北海道には、65社以上の化粧品関連企業が存在し、社長さんたちは活発で、さまざまな天然素材を活用している。しかし、その規模は小さく、化粧品の機能性を十分評価できず、先に進めないでいる。多数の企業が共同利用できる天然素材評価共同システムのような施設整備の必要性を強く感じた。

一方、製品を販売するに当たり、企業はその製品の安全性や性能をアピールするため、大学との共同開発の成果であることを積極的に出したいという要望がある。また近年は大学にも具体的な成果が問われるようになり、自らの研究成果が社会に還元されることを望む教員も増えている。しかし、製品によるトラブルが発生した場合、その責任は製造業者にある(製造物責任法:PL法)が、報道等により大学や教員が取り上げられることで、社会的不利益を被る危険性も高い。そのため、教員は社会貢献を目指しながらも、「何か訴えられるようなことになるのでは…」という不安も抱えているのが現状である。大学は教員が自由に研究テーマを選択することで、幅広く、また画期的な研究成果が生まれる可能性を秘めているが、その責任もまた教員自身にあるという考えが強く、企業のような組織としてのまとまりは低いと感じる。しかし、大学が社会へ開かれる以上「安全管理」という概念は必要であり、また大学という文化を社会に知ってもらうためにも、情報の活用方法も検討する必要があると思う。

化粧品の開発はまだ進行中であるが、これまでもたくさんの皆さまに助けていただき、新しい展開も生まれてきている。人と人とのつながりを大切にしながら、これからも仕事に取り組んでいきたい。

*1
Original Equipment Manufacturerの略。他社ブランドの製品を製造すること。