2009年11月号
海外トレンド
中国・深セン ハイテク・新技術産業を育成
-科学・生活博覧会、虚擬大学園などを視察-

米山 春子 Profile
(よねやま・はるこ)

独立行政法人 科学技術振興機構
中国総合研究センター
フェロー

経済特区が設置されている中国・深センの輸出額は香港を抜き、上海に迫っている。この地域の産学連携、産業支援機関を視察した。

写真1

写真1 中国深セン科学・生活博覧会の開会式典



写真2

写真2 JST北京事務所の展示

私たち科学技術振興機構(JST)のグループは2009年9月23~25日、中国科学技術協会と深セン市政府主催の「中国深セン科学・生活博覧会」開会式典(写真1)に出席したのを機に、同市の産学連携、産業支援機関などを視察した。

この博覧会は深セン市園博園で9月24~27日の4日間開催された。テーマは「以人為本・科学生活」(人を中心にした科学的な生活の実現)。主に省資源や省エネルギー、環境に配慮した生活・住居関連の新製品や新技術(国内外)が展示されていた。

JST北京事務所はJSTの産学連携事業で得られた成果、JST発ベンチャー企業の製品であるインフルエンザ対策用抗体マスクや水浄化の新技術などを展示し(写真2)好評だった。博覧会場には、来場者に新製品、新技術がどのように生活に役立つかを体験してもらう展示もあった。特許コーナーも設けられていた。

深セン虚擬(バーチャル)大学園

深センハイテクパークを技術・人材面で支えている深セン虚擬大学園(写真3)は、深セン市政府の指導の下で2000年に設立された。国づくりは人づくりの言葉通り、世界の知が集結するこの取り組みはわれわれに深い印象を与えた。同大学園管理業務センターの謝照傑部長(政府の役人)によれば次の通りである。

写真3

写真3 深セン虚擬大学園

この虚擬大学園は、深セン開発初期に、深セン政府が土地、建物(ビル1棟)などを無償で提供するとして内陸の大学に深センへの進出を呼び掛けたのが始まりであった。まず清華大学が進出し、研究シーズを企業と連携して工業化に結び付けるなどして著しい成果を上げた。この成功に倣って次に北京大学とハルピン工業大学が進出して成功した。その後、全国から多くの大学が殺到した。このため同大学園のキャンパスを設定し立派な建物を建設した。入居審査を通った大学や企業などに55平方メートルの部屋や事務用品一式を3年間無償で提供し、大学や企業からの駐在員に手当も支給している(特区手当の支給や配偶者の仕事の世話、子供の就学・入園の周旋など)。

この優遇政策により、中国国内の主要な大学のみならず海外の大学も含めて現在計53大学が進出して、一大サテライト大学基地となっている。8年間を経て、累計で約7万名のハイレベルの人材を育成している。9つの産業化基地も形成した。304社の起業化を支援し、236件の技術移転を遂げた。71カ所の研究開発センターを設立し、97件の科学技術プロジェクトが進行中である。特許出願は136件に達した。こうして深セン虚擬大学園は中国の大学の科学技術の産業化基地の役割を果たしている。

最近入居協議を結んだ武漢大学、中国地質大学、南京大学、香港理工大学、中国科学技術大学、香港市立大学の6校は今後4.5億元を投資して、約13万平方メートルの産学研連携と産業化の基地を建設する予定である。この6校は18件の中国政府指定の国家重点実験室をベースに、22件の大規模で高水準の産業化プロジェクトに取り組む予定である。政府は、成功を収めた学校や企業に直接的な見返りを一切求めない。成功した企業からの税収や雇用創出、そして今後の成長をもたらす経済効果など潜在的な付加価値を期待している。「日本の大学や企業もぜひ深セン虚擬大学園に進出し、日中両国のさらなる交流に寄与してほしい」と謝照傑部長は述べている。

深港産学研基地
写真4

写真4 深港産学研究基地

深センハイテクパークにある深港産学研基地(写真4)は、1999年8月深セン市政府と香港大学、北京大学が共同で創設した研究基地である。JSTを何度も訪問している応用研究部の馬昂副部長に基地の設立の経緯や成果などを聞いた。

香港・澳門(マカオ)に隣接した地理的条件を生かして、積極的に香港の高い技術を誘致し、人的資源を有効に利用するのがこの研究基地をつくった目的であった。現在、人材を育成し、官・産・学・研・金を融合した深セン・香港区域のハイレベル産業の拠点とすることを目指している。人材育成は重要な使命の1つであり、創設以来、北京大学と香港科技大学の大学生・大学院生の教育、研修およびシンポジウムの開催、教育プログラムなどを行っている。特に聴講コースでは、産学連携や最新の経済テーマを中心に開講している。また同時に、先端産業プロジェクトも遂行しており、バイオ、光ファイバー通信、集積回路、環境保全技術、新エネルギー技術に重点を置いている。

新しい科学未来館の建設
写真5

写真5 深セン市科学技術協会

深セン市科学技術協会では、周路明主席および深セン市科学館の張永華館長らの歓迎を受けた(写真5)。中国の改革、開放以来、中国各地の「科学技術館」は新しい社会教育の場として定着している。中国政府は2008-2015年「科学普及基礎施設発展計画」の多くの要綱を発令している。これらの計画要綱は中国の科学技術普及活動の指針であり、明確な目標も設定している。例えば「全国民科学素質行動計画綱要」は、[1] 各省都市や自治区首府に、大型・中型の科学技術館を少なくとも1館設置すること [2]人口100万人以上の都市に、科学技術系博物館を1館設置すること [3]年間延べ5,000万人の見学者を受け入れること、としている。この政策に従って、2008年末に深セン市で新しい科学館を建設するプロジェクトを立案し、2010年に建設を開始し、2013年に完成する予定であると周主席は述べた。総建設規模は約20億人民元で、現在中国で最大規模を誇る上海科学館の17億元規模を上回る見込みであるという。建設地は深セン市のハイテク区に予定している。虚擬大学園、深港産学研基地にも近い。企画関係者はJSTの「日本科学未来館」(東京・台場)を何回も視察した。張館長は日本科学未来館の毛利館長と会ったばかりとのことであった。張館長から「今後もJSTおよび日本科学未来館との交流を深め、計画している深セン科学技術館建設への協力を得たい」との要請があった。

写真6

写真6 中国科学院広州技術移転センター

このほか、中国科学院先進技術研究院および中国科学院広州技術移転センター(写真6)を訪問した際、産学連携推進についての中国の政策、資金の提供方法、シーズの探し方などについて紹介していただいた。また、中国最大の通信事業社である華為(ファーウェイ)技術有限公司本社では、華為技術日本株式会社東アジア地区程肇副総裁より、華為の歴史や理念、経営方式、研究開発などの説明を受けた。アフターサービスに熱意を持って当たっていることや、本社工場の管理システムを日本のトヨタ自動車株式会社に委託していることなどの説明が印象的であった。また、工場敷地の広さ(見学は車での移動が不可欠)、見学コースの完ぺきさ(見学スケジュールの正確さ、英語、日本語による専任説明スタッフの常駐、大型バスでも自由に回れる心遣い)、華為トレーニングセンターの立派さ(日本の高級ホテル並みのデザイン、教室の設備の整備や居心地の良さ、欧米からの社員の在籍)などは、とても20年の歴史しかない企業(1988年設立)と思えないものであった。なお、華為の研究開発戦略や知財戦略については、本誌を通じて別途紹介する予定である。

中国深セン科学・生活博覧会の参加および各機関の訪問は、われわれにとって中国に対する理解を深める貴重な機会となり、大変勉強になった。今後もいろいろな機会をとらえて交流および連携を積極的に進めていきたい。

香港の対岸に当たる深セン市は、もとは小さな漁村であった。1980年に経済特区が設置され、30年足らずで急速な発展を遂げてきた。1人当たりのGDPが中国本土の都市では初めて1万ドルを突破。輸出額では香港を抜き、上海に迫っている。経済特区としていち早く外資を導入して市場経済体制の整備に力を入れてきた。近年はハイテク産業や技術力の高い製造業と、物流や金融、情報サービスの分野を産業構造の「支柱」としている。大学や研究機関、多国籍企業も誘致し、研究開発基地をつくるなど、ハイテク・新技術産業の育成、集積に力を入れている。従来の4大支柱産業のほかに、特に通信、デジタル電気製品、ソフトウエア、エネルギー備蓄材料、バイオケミカルおよび医療機器、化合物半導体の6分野を戦略的産業としている。また、サービス、リサイクル・エコノミー、自動車部品と機械設備、ファインケミカル産業を奨励している。