2009年12月号
特集2  - 酒造りで醸成する連携のこころ
滋賀県生まれの幻の酒米「滋賀渡船」復活 米と清酒の地域ブランド目指す
顔写真

西村 宏一 Profile
(にしむら・ひろかず)

JAグリーン近江 営農企画課



滋賀県では「滋賀渡船(しがわたりぶね)」という酒米が半世紀前まで生産されていた。滋賀で生まれた品種で、人気の高い「山田錦」の親系統に当たる。貴重な日本古来の品種だ。JAグリーン近江酒米部会(沢晶弘部会長)は年々減少している酒米の生産を拡大するため、この「滋賀渡船」に着目し、県や酒造会社の協力のもと、その復活に取り組んでいる。中長期的には米と清酒の滋賀ブランド化を目指している。

文献に残るだけの幻の酒米

滋賀県農事試験場(農業試験場を経て現在、農業技術振興センター)は明治28年に開設された。そこで福岡県産「渡船」が品種試験に供試され、純系分離により「滋賀渡船2号」「滋賀渡船4号」「滋賀渡船6号」が育成され、県の奨励品種として昭和34年まで湖南地方を中心に栽培されていた。生産されなくなって半世紀、「滋賀渡船」は文献に残るだけの幻の酒米だった。

県農業試験場の保存品種

「滋賀渡船」の生産復活は、平成15年、JAグリーン近江酒米部会が東近江農業改良普及センターに「山田錦」の父に当たる「渡船」をつくりたいと要望したことが始まりだった。平成16年、農業技術振興センターから、県が品種保存していた「滋賀渡船」の種子を一握り(50グラム)譲り受け、東近江農業改良普及センターの普及員の指導と農業技術振興センターの協力で増殖に成功、約3坪の水田で採種した。平成17年には、約50アールで試験栽培を行い、醸造適性試験を行った。分析から、酒造好適米の指標となる山田錦の標準値と遜色(そんしょく)のないデータが得られた。

平成18年には、「滋賀渡船」を酒米部会員である生産者6名で6ヘクタール栽培した。その生産量は21トンになり、そのすべては県内酒造会社8社と契約した。

「滋賀渡船」の系図

「滋賀渡船」の系図

同年、「滋賀渡船」について、滋賀の地酒の振興や発展の方向性を検討するため、県をはじめとした関係機関合同の研修会を滋賀県農業技術振興センターで開催した。研修の概要は [1]「滋賀渡船」の品種特性について東近江地域振興局農産普及課から説明 [2]酒米の品種育成について農業技術振興センターから解説 [3]醸造技術については県工業技術総合センターと県農業技術振興センターが説明 [4]次年度にかかる同品種の栽培指針についてJAグリーン近江が説明―である。この研修会をもって、「滋賀渡船」の復活に向けたプロジェクトが動き出した。

原酒ならではの力強さ
写真1  JAグリーン近江酒米部会豊作祈願祭・近江米醸造 酒振興祈願祭

写真1  JAグリーン近江酒米部会豊作祈願祭・近
     江米醸造酒振興祈願祭

酒造技術関係者でつくる滋賀県酒造研究会が、県内酒造業界の活性化の一環として、香りや味に特徴ある清酒造り可能な酵母を開発したことがある。その酵母を用いて「滋賀渡船」の醸造が開始された。その結果、同じ酵母を使って醸造しても蔵ごとで独特の味に仕上がり、精白により吟香や吟味が出ることが分かった。その鮮やかな輪郭は「雄町」よりも「山田錦」に近く、深みのある味わいである。「原種ならではの底知れぬ力強さと魅力を秘めた味が出るのは『滋賀渡船』である」と各蔵から高い評価を得た。

翌19年度から現在まで、数多くの研修会を開催し、各機関主催の販売会や交流イベントに参加した。こうした情報交換を通じて、JAグリーン近江酒米部会は生産品質向上を目指し、酒造会社や消費者のニーズ把握を図っている(写真1)。

酒造会社8社が販売
写真2 「滋賀渡船」を使用した清酒

写真2 「滋賀渡船」を使用した清酒

現在、当部会で生産した「滋賀渡船」は、滋賀県内酒造会社に販売し、県外の酒造会社からも引き合いがある。8社はそれぞれ表1のような銘柄の清酒を販売している(写真2)。幻の酒米だった、滋賀県(滋賀県農事試験場)発祥の酒米を使った清酒として、酒米生産者、JA、酒造会社、支援してくれる県や地域の各種機関が協力して、滋賀の地酒ブランドの確立を目指していく。

酒米栽培面積拡大へ

「幻の『滋賀渡船』を伝統の米として、また地域の特産物として栽培面積を拡大し、由緒ある伝統を継承していきたい」というのが酒米部会員共通の熱い思いだ。栽培においては、倒伏しやすく病害虫に弱い点が見られるので技術の向上に努めるとともに、良品質、安定供給で、酒造会社の要望に応えていきたい。

JAグリーン近江としては、酒米の需要が年々減少している中、「滋賀渡船」を軸として「玉栄」「吟吹雪」「吟おうみ」「山田錦」「美山錦」など他品種の酒米販売にも力を入れる。消費者の嗜好(しこう)に合った品種の研究にも努めたい。酒米生産を通じて、日本の食文化に調和する日本酒業界の発展と酒の文化に寄与したいと願っている。

表1 県内の「滋賀渡船」購入蔵元名簿

表1 県内の「滋賀渡船」購入蔵元名簿